香港の周庭は何をしたのか?
2014年8月。中国の全人代(国会)は、香港の首長(行政長官)選挙で1人1票を投じることができる普通選挙の導入を決めた。
だがこの選挙は、親中派でなければ立候補が認められない。「これは民主的な選挙ではない、普通選挙は有名無実だ」と怒った人々は、2014年9月28日から民主化要求デモを開始した。
警察が発射する催涙弾を雨傘で防御したことから、このデモは「雨傘運動」と呼ばれている。黄之鋒(ジョシュア・ウォン)と周庭(アグネス・チョウ)の2人の若者を中心に運動は盛り上がり、12月にかけて79日間続いた。
あの「雨傘運動」を想起させる民主化闘争が、2019年に再び香港で激化した。発端は3月末、香港の議会で提起された「逃亡犯条例」改正案。
香港で容疑者として逮捕された人を、中国本土へ引き渡せるようにする「一国二制度」を骨抜きにする条例だ。
こんなことが認められれば、「雨傘運動」に参加している人々は難癖をつけられて中国へ送られ、現地で裁判にかけられ刑罰を受けることになってしまう。
2019年6月9日には、香港の全人口の7人に1人にあたる100万人以上もの民衆がデモに参加した。翌週にはデモの参加者は200万人にまで膨れ上がっている。
香港はやむなく「逃亡犯条例」改正案の撤回を決めた。
以下に中国が仕掛ける情報戦についてのメモを。
中国のサイバー監視員は北京だけで200万人
2013年中国共産党宣伝部の責任者曰く、北京だけで200万人以上もの監視員が「微博」などのSNSやネット上の書き込みをチェックしているという。
NYタイムスはその1人にインタビュした(2019年1月2日)。その人は北京にある「博彦科技」というIT企業でパートタイマーとして働いている。中国政府の下請けとして仕事をする検閲専門会社。
検閲の従事者は職場に自分のスマホを持ち込むことが禁止される。内部の写真を撮られることを阻止するため。
「天安門」や「六四」といったキーワードを人海戦術で検閲する。勤務時間は1日6時間で、1か月350ドルから500ドル(5万4700円)の賃金が支払われる。
シフトは途切れなく組まれ常時監視される。問題がある書き込みがある場合は、運営会社であるアリババやテンセントに通報する。
通報を受けた運営会社は1時間以内に削除しないといけない。削除が遅れると当局から処罰を受ける。
「博彦科技」のウェブサイトによると、使用が許されないNGワードは10万個もある。さらに別の300万個の言葉についても目を光らせている。
たとえば「クマさん」とか「クマ」だ(習近平がプーさんに似てるので)。
中国政府が世界で繰り広げる情報かく乱
2019年9月16日ロイター通信の特ダネ記事。2019年5月のオーストラリア連邦議会の選挙。中国がSNSアカウントを作り、大量のフェイクニュースを流して選挙を混乱させた。オーストラリア政府は内部調査でこの事実を解明した。
中国政府が作った20万個のアカウント
香港運動にて。フェイクニュースを流す大量のアカウントがあるという批判を受けたツイッター社は、会社を挙げて調査を行った。その結果、中国の政府機関がつくったと思われるアカウントが20万個もあることを、ツイッター社は認めた。
ツイートは普段はスポーツや音楽、ポルノなどの話題をつぶやきフォロワーを増やす。そして香港デモなど攻撃対象が現れたときに、それらを誹謗中傷するツイートを連発する。
日本では普段はネット右翼を装う。ボットによる自動投稿ではなく、1人の人間が10個以上ものアカウントを主導で操作して多量に投稿する。
彼らのやり口はわかりやすい。批判のツイートが1件来たら、全然違うアカウントから10分後に同じような内容についてのコメント送られてくる。さらに10分経つとまた別のアカウントから…。
2つに分かれるネット空間
ファーウェイ、アリババ、テンセント。彼らは中国政府に命令されれば、自分たちが握るデータと個人情報を、すべて提供しなければならない。民間企業ではあるが、基本的に中国政府に支配されている、準国営企業だ。それらの企業が構築するネットのインフラを、中国政府はアフリカや中東に輸出しようとしている。
こうした中国式インフラと、私たちがふだん享受しているネット環境の2種類のシステムが、世界でし烈な競争を繰り広げている。
中国資本がハリウッドを変えていく
2019年の「ミッドウェイ」。これは1976年の映画のリメイク。この映画には中国資本が関わった。中国市場向けに反日シーンがわざわざ付け加えられた。
ウォールストリートジャーナル2019年11月8日によると、中国の観客は戦争映画が大好きであり、特に日本の負ける話がお気に入りだそうだ。
SF映画「オデッセイ」も中国向けのストーリーを加えた。
「ミッションインポッシブル」「ターミネーター」「スパイダーマン」といった近年のハリウッド話題作。テンセントやアリババが投資している。
だから香港問題について、ハリウッドスターが発言するのは仕事上リスクが高い。そういう発言は中国政府にチェックされているため、今後中国系資本が入る映画にキャスティングされない可能性がある。
したがって普段は政治的な発言を厭わない俳優たちも、今回の香港問題については一様に口が重い。みんな黙ったまま、中国と香港の関係に触れようとしない。
日本では12月公開予定の「トップガンマーヴェリック」。トム・クルーズが着ている革ジャンには、同盟国の様々な国旗のワッペンが縫い付けてある。
だが続編では、台湾や日本の国旗が見当たらない。「トップガン」続編には中国のテンセントが出資している。
中国は観客動員の規模も大きい。だから細かいところで忖度が発生する。
NBAのヒューストンロケッツ。GMのダリル・モリーがツイッターに投降した。「自由のために戦い、香港とともに立つ」。
激怒したCCTV(中国の国営放送)は、ヒューストンロケッツの試合放送を中止すると通告した。さらに中国系の企業がスポンサーから降りると表明。大きな騒動になった。
著者はマーティン・ファクラー。ブルームバーグ、AP通信、ウォールストリートジャーナルを経て、NYタイムス東京支局長(2009~2015年)・現在はフリージャーナリスト。
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