なぜアリババのジャックマーは引退したのか?中国の闇

19年9月10日、中国IT最大手アリババのジャック・マー(馬雲)会長が引退しました。20年近く前に自身のアパートの一室でアリババを創業し、それを時価総額アジア一の大企業に育てた馬雲。企業家として脂の乗った55歳で引退するのはなぜなのか?

慈善事業、教育事業に力を注ぎたい。そんなキレイごとで納得した人はいない。それらは経営者と兼務でもやっていけるし、60~70代からでも遅くない。なんといっても大企業の創業者としてはあまりにも早すぎる。

ほんとの理由は、石平の新刊中国本に書かれていました。石平は1962年四川省生まれ。北京大学哲学科卒業後、日本に留学のため来日。神戸大で博士課程修了。天安門事件で仲間が倒れ中国に失望。2007年に日本人に帰化。日本で反中国の言論活動を続けています。



なぜジャック・マー (馬雲)は引退したのか?

政治と関係がある。2018年8月ごろ共産党内で「習近平下ろし」の動きがあったが、馬雲はこの一件に関わったとされる。

彼が買収してアリババの傘下に置いた香港の「南華早報」という英字新聞。二度にわたり米中貿易戦争に関する記事を掲載した。アメリカとの貿易戦争にあたっての習近平指導部の失敗、失策を辛らつに批判したもの。対米戦争において中国側に勝ち目はないから、アメリカに早めに降参すべきとも書かれていた。

自分の傘下にある新聞が二度にわたり習近平指導部を批判する記事を掲載したことは、馬雲が全く知らないとは考えにくい。

なぜジャックマーは習近平批判の動きに参加したのか?馬雲と江沢民の孫である江志成との関係だ。江志成は香港を拠点とする「博裕投資」というファンドを持つ。ファンド創立直後からアリババに投資して相当数の株を持つ。

アリババはすでに大手であったので資金調達に困ることはなかった。実態は馬雲が江志成の背後にいる政治勢力と接点を作るため、「博裕投資」に自社の株を持たせたと思われる。当時は胡錦涛政権ではあったが、引退した江沢民とその一派は依然としてい中国の政界で大変な勢力をもっていた。

昨夏の中国国内における「習近平下ろし」の黒幕は、江沢民とその残党であるとされている。おそらく馬雲は、江沢民一派から頼まれて、自分の傘下の「南華早報」に批判記事を書かせ、江沢民一派の「習近平下ろし」に弾薬を提供したかったのだろう。

これまでも中国共産党上層部で権力闘争が激しくなると、闘争の一派が相手を攻撃するとき、香港のメディアを闘争の道具として使ってきた。今回も江沢民一派は同じ手を使った。米中貿易戦争は習近平最大の失策であり「習近平下ろし」を謀る人々にとっては格好の攻撃材料であった。

「中国の企業家が良い結末を迎えることはない」と悟っていた馬雲

ジャックマーにとって不運だったのは、「習近平下ろし」が中途半端に終わってしまったことだ。習近平は「皇位防衛線」にひとまず成功した。そうなるとルビコン川を渡った馬雲は我が身の心配をしなければならない。習近平が権力の座についていると、いつ報復が降りかかってくるかわからない。

ジャックマーが我が身を守り、アリババという企業を守るためには、自ら身を引いて企業経営から退くしかなかった。経営から身を引けば、たとえ将来自分が粛清されても、自分の育てたアリババは生き残れるだろうとの計算は馬雲にあったと思われる。

また引退後に教育や慈善事業に精を出し社会的に高く評価されることにより、習近平が自分に手を出しにくい状況をつくりたい。

江沢民一派は昨夏の「習近平下ろし」に失敗したものの、依然として一定の勢力を保っていて、いますぐに粛清されるような最悪の事態からは馬雲を守ることができる。しかし今後は全くの未知数だから、馬雲としては早めに身を引いた方が得策であった。

馬雲は以前からこの結末をわかっていた。2011年10月のメディア取材。「中国の企業家には良い結末は無い」と述べている。中国の企業家が抱える大いなるジレンマを誰よりも認識していた。



中国の企業家が抱えるジレンマとは何か?

中国企業家のジレンマとは、自分の企業を一定の規模以上に大きくしたいなら、どこかの政治勢力に身を寄せてその保護と支持を受ける以外にないということ。

ただし身を寄せた政治勢力が潰れる、権力闘争に巻き込まれると、犠牲となって滅びるのは企業家自身のほう。

著名企業家の悲劇は毎年起きている。中国富豪ランキング4位だった牟其中。20以上の企業を持つ南徳集団のトップ。「信用詐欺」で2000~2016まで獄中にいた。

2002年には中国富豪ナンバー1だった郭建新が「契約詐欺罪」で無期懲役。同じ2002年には中国富豪3位の仰融も逮捕…(数ページわたってここ20年ほどの中国の大企業家や大富豪の逮捕や悲惨な末路が書かれている)

中国という独特の政治環境、ビジネス環境のなかでは、贈賄などの手段を用いなかったら成功は難しい。「社会主義市場経済」に身を置く企業家たちに未来はあるのか?

ルビコン川を渡れ♪

チャンスがやってきて ドアをノックしている♪

ジャーニーで、ルビコン♪

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「中国大崩壊入門」
https://book-jockey.com/archives/5098

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