【残業学/中原淳】書評と要約まとめ

これ名著です。

最近読んだマネジメント本ではピカイチ。経営層から中間管理職まで必読本。

立命館大学の中原教授とパーソナル総合研究所が2年かけて共同研究し作った本。

「いったいなぜ、日本人は長時間労働をしているのか?」

2万人を超える調査データを分析し、読みやすい全9講の講義形式にまとめてる。

目次は以下。

日経ビジネスの残業問題の特集号が少し前にありましたが、あれ読んだ人は以下の目次見ると雰囲気は想像できると思う。ただあれよりもっと踏み込んで深いです。あの特集はフラリーマンと残業代欲しい問題がメインでした。本書は言葉にできない僕らの思いを言語化できている。

オリエンテーション ようこそ! 「残業学」講義へ
第1講 残業のメリットを貪りつくした日本社会
第2講 あなたの業界の「残業の実態」が見えてくる
第3講 残業麻痺――残業に「幸福」を感じる人たち
第4講 残業は、「集中」し、「感染」し、「遺伝」する
第5講 「残業代」がゼロでも生活できますか?
第6講 働き方改革は、なぜ「効かない」のか?
第7講 鍵は、「見える化」と「残業代還元」
第8講 組織の生産性を根本から高める
最終講 働くあなたの人生に「希望」を

以下にさっそく読書メモを。



昭和の残業と平成の残業の違いは何か?

昭和は経済構造、男性稼ぎ手モデル、人口増加と需要上昇がつながった残業。

平成はこうした要素が失われて、終わらない、達成感のない残業。

日本企業は雇用を残業で調整してきた

日本企業は景気が悪くなったとき、人を切るのではなく労働時間を減らして対応していた。景気が良いときは残業し、悪いときは残業を減らす。人員の代わりに残業時間を調整用のバッファとして活用することで、外部状況の変化に対応してきた。これにより先進国の中でも極めて低い失業率を維持しつつ、高い定着率と長期にわたる組織貢献の動機付けを従業員から引き出した。

残業しないと成長しないのウソ

「オレの若いころは歯を食いしばって深夜0時を超えても働いた。そういう若いときの苦労が成長につながるんだ」

いわゆる「残業成長神話」はウソ。

残業が多かった時期と個人のキャリアの成長時期が重なったことで、「長時間働いた」という「達成感」を「成長」と勘違いしている。

成長は「経験学習理論」。これは3つある。背伸びの原理、振り返りの原理、つながりの原理。残業時間が長くなると、振り返りの原理、つながりの原理(フィードバックが得られない)が作用しなくなる。

人は「経験」を積み重ねるだけでは成長できない。「経験」したことのフィードバックを受け、振り返りを行って、次の行動に活かしていくことが「未来」に向けた学びとなる。

なぜできる人に仕事が集まるのか?

昨今はプレイングマネージャーが増えている。自分の目標とチームの目標を同時に追う。マネージャー自身が忙しいと、どうしても「放っておいてもできる部下」に仕事を任せたくなる。そうすればその部下のことをあまり見なくても仕事が回り、任せられた部下の側も放っておいてもらえる、という「上司と部下の共犯関係」が生まれる。

ただし中長期的にそうした上司はしっぺ返しに合う。できる部下はどんどん成長し、できない部下はいつまでもできない。職場メンバーの能力格差が次第に開いていく。できる人がずっと仕事を担ってくれるならまだよいが、異動などで「穴」が開いた場合は、職場の業務そのものが滞ってしまう。

職場の空気が残業を産む

残業への影響度が一番高かった要因の1位は、「まわりの人がまだ働いていると帰りにくい雰囲気」。個人がその行動や意思決定を、知らず知らずのうちに周囲の大多数に合わせてしまう強制力を「同調圧力」と呼ぶ。

この現象はあからさまに上司や先輩から「指示」「命令」をされて起こるものではなく、雰囲気や上司より先に帰ってはいけないといった「暗黙のルール」「先に帰ると非協力的だと思われるのではないか」といった忖度など、職場内の空気によってもたらされている。

2位以下にも「休憩を惜しんで作業を進める雰囲気」「始業時間よりも前の出社が奨励」など明文化されていないが、みんなが従っている「暗黙の了解」が並ぶ。

残業施策の失敗は職場をブラック化させる

PCシャットダウン後に再起動する。ノー残業デーでも残業する。自宅に仕事を持ち帰る。隠れて残業している人がいることは、良かれと思って実施した残業対策が、組織のコンディションを元の状況より悪化させている危険を示している。残業施策が失敗することで引き起こされる現象には、3つの段階がある。

①残業のブラックボックス化
従業員の正確な労働時間が見えなくなり、残業量が本人にしかわからなくなる。

②組織コンディションの悪化
「会社は現場をわかってない」感が立ち込め、組織への信頼度が低下する。

③施策の形骸化
施策が次々と自然消滅し、何をしても効果が出ない「改革ゾンビ」状態になる。

カギは「見える化」と「残業代還元」

残業時間が削減された分の「残業代還元」がなければ、従業員にとっては実質的に給与の不利益変更でしかない。調査では全体の60.8%が「基本給だけでは生活に足りない」と答えている。これは個人の意思や意欲を越えた、歴史的で構造的な問題。給与が現在の形になっているのは、従業員のせいではない。

残業代還元を実施している企業の例は以下。

1.賞与還元
アルプス電気、日本電産ほか

2.基本給ベースアップ
味の素は1万円のベア

3.特別手当
紳士服のはるやまは、月間残業時間がゼロの社員に月に1万5千円を一律支給。

4.その他
ディスコは残業時間が少ないほど、手当の割増率を増やす。45時間は40%、45時間以上は減少。トヨタ自動車は残業時間にかかわらず月45時間分の残業代を支払う。

「ダラダラ仕事してる人の残業代込み給料が高いのは納得いかない」という不満を解消する。



やらないこと決めるジャッジができるマネジャー

・オープンな風土でディスカッションしチームアップ
・組織状況の把握、現場進捗の把握でグリップ
・何が大事か意思決定し、迅速的確な判断、ジャッジする

マネジメントを変革する。「やることはいくらでもある」わけがない。不要な作業をマネージャーがジャッジしてやめさせる。

職場の仕事状況をグリップできてないと「やらない」「受けない」というジャッジはできない。「大切な仕事とそうでないもの」についてコミュニケーションできていなければ、メンバーは来た仕事をすべて受けるのが貢献だと思う。

「何が大事なのか」x「職場がどうなってるのか」x「それらを職場でどうコミュニケーションするのか」という掛け算で、「やるべきこと」と「やらないこと」を見極めジャッジする。部下は上司が理解していないと思ってる。部下への声掛けは2割増しで。

職場での活発なガチ対話が重要

「できれば向き合いたくない抜き差しならない事態」がほとんどの組織課題。そのような課題に腹をくくって向き合い、キーマンを交えて皆で対話する。

「ガチ対話」ではお互いの意識や認識のズレが表出する。考えや利害も衝突する。どちらが正しいかを議論するのではなく、ただお互いの「違い」をあぶりだすようにする。

成果の定義を変えるべき

日本の多くの職場ではこれまで同じ成果でも「時間をかけて努力した」分が水増しして評価されがちだった。毎晩遅くまでオフィスに残ってる人の多くは「頑張ってる人」とみなされてきた。この「成果」の定義は今の時代にあってない。

長く職場に残れば「成果」が出る時代はとうの昔に終わっている。多様でクリエイティブなもの、付加価値の高いサービスを提供することが「成果」とされる時代においては、いかに短い時間で価値ある仕事をやって利益を上げられるかを「成果」として定義すべき。

長時間労働という「背伸び」は内省や振り返り、仕事以外のインプットの機会を奪い、より良い学び、成長の機会を失わせる。終電まで残業した、全然寝てない、そんなことを競い合ってもたらされる「成長」を礼賛する風潮は終わりにすべき。

ライフネット生命の創業者で立命館アジア太平洋大学学長の出口氏は、働き方改革に様々な提言をしているが、その考えはとてもシンプル。

「良いアイデアは、人、本、旅から生まれる」

残業を減らし仕事以外の時間に余力を残し、いろんな場所に出かけ多くの人と出会い、多くの本から学んだことを「成果」につなげていくべき。

会社を「ムラ」から「チーム」へ

これまで日本の会社員にとって就職は就社だった。新卒一括採用で会社に組み込まれ、仕事内容も配属先も自分に決定権はなく、辞めさせられないかわりに望まぬ転勤や移動も拒否することは許されず、競争を強いられながら、身も心も会社に預けて定年まで勤めあげるものだった。

日本企業は村落共同体=ムラに例えられる。ムラで大事なのは、仲間同士「同じ釜の飯を食う」こと。つまり同じ時間と空間を過ごすことによってもたらされる「あうんの呼吸」や「コミュニケーションコストの低下」に重きが置かれる。

このムラ的な感覚が同調圧力による残業の「感染」を生み出し、残業できない人の「同じ時間を共有できなくて申し訳ない」という気持ちにつながっている。

しかし今、ムラは失われつつある。在宅勤務、テレワーク、オープンイノベーションなど、時間と空間を共有しない多様な働き方が広まっている。

もはや同じ空間にいる人間しか「仲間」と認めないような「会社」のあり方は、変えなければならない。

今回は音楽じゃなくてマネージメントの講演を。マネジメントに関する研修はこれまでたくさん受けてきました。そのどれよりも下記のユーチューブ講演がよかったです。

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「パソコンを使った基本的な仕事ができる人は日本人の1割しかいない」OECD調査
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