「線は、僕を描く」。今年読んだ小説で一番おもしろかった。
2020年本屋大賞3位の作品です。著者のデビュー作。
ちなみに「ライオンのおやつ」は2020年本屋大賞2位。ホスピスでの終活な話。
「少年と犬」は2020年上期の直木賞受賞作。
「線は、僕を描く」 簡単なあらすじ
青春小説。
両親を事故で亡くした大学生、主人公の青山君。
青山君は高校のとき突然両親を亡くして、その悲しみから戻ってこれない。
叔父夫婦の助けもあり、大学はエスカレで何とか入れた。偏差値的にはだいぶ落ちるかんじ。
ある日、大学の友人から会場設営の手伝いを頼まれる。
それは水墨画の展覧会だった。展覧会で青山君は水墨画の巨匠に出会う。
巨匠に気に入られた青山君、うち弟子になってしまう。
巨匠には、超美人の孫娘がいて。
と、ここまで書くと、あまりにポップな展開というか。
じつは読後に知ったけど「週刊少年マガジン」にも連載されてたそうです。
「線は、僕を描く」は再生の物語
前にも書きましたが、「すべての文学作品は7つの基本プロットにわけることができる」とクリストファー・ブッカーは言っています。7つのパターンのどれかを選んで(あるいは複数個)、舞台を変えて見せてるだけです。
1.「モンスター退治」(Overcoming the Monster) |
2.「無一文から大金持ち、立身出世もの」(Rags to Riches) |
3.「冒険、探求」(The Quest) |
4.「旅と帰還」(Voyage and Return) |
5.「再生」(Rebirth) |
6.「喜劇」(Comedy) |
7.「悲劇」(Tragedy) |
本作は「立身出世」「再生」「探求」の物語です。
なぜ著者は、デビュー作でここまで書けたのか?
通常プロの作家さんが直木賞的な作品を書くとき、綿密な取材をして書きます。読み手としては、「この作家さんすごいな。この分野のこと、どんだけ掘り下げて取材したんやろ」と感嘆する。
デビュー作なのに、なぜここまで書けるのか。著者は水墨画家でした。一生で一作品だけ書ける自分の体験をもとにした物語。
「かもめのジョナサン」のリチャード・バックは、自らが飛行機乗りだったから、飛ぶことを主題にしたあの物語が書けた。
著者も水墨画家としてずっと考えてきたことを、この作品にぶつけた。
なんで週刊マガジンに連載されたの?
人気小説のマンガ化はこれまでもある。マイナー誌で。だけど「週刊ジャンプ」「週刊マガジン」という2大メジャーでは、僕の記憶ではない。
マガジンもジャンプも20年以上は読んだけど、その間はなかった。
時系列的にも、19年7月原作小説初版、マガジンのコミック1巻が19年9月初版。ちょっとあり得ないスピード感。
「第59回メフィスト賞の受賞作品」というのが理由です。
著者はメフィスト賞に応募して、この作品が受賞作となった。
メフィスト賞。講談社が発行する文芸雑誌『メフィスト』の公募文学新人賞だそうです。
マガジンは講談社。受賞後1年後に本が出版される。その間に、あまりにも面白い作品だから、このメディアミクスが考えられたのでしょう。
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家族を失った時の悲しみは計り知れません。
立ち直れるきっかけや何か打ち込めるものが見つかればいいのですが・・・。なかなかうまく行かないですね。
しかし、水墨画家の書いた小説は何とも珍しいですね。