著者は「日本版WIRED」「サイゾー」「ギズモードジャパン」を創刊した人。クリス・アンダーソンの名著「フリー」の監修もしてた。
知識が半端ないので、ついていくのがやっとです。でも海外翻訳本に比べたら文化を共有してるので、話がわかりやすい。
最新のテック・トレンドを理解するのにおすすめの本です。
一言でいうと「ブロックチェーン」です。
巨大企業の監視資本主義や情報漏洩に、世界中で反発が強まっています。
インターネットはその出自から「分散」へ向かって進んできました。「サイファーパンク(暗号パンク)」という思想のコアは、国家権力や企業から「暗号」によっていかに自由を守るかということ。
しかし時代を経て、GAFAという中央主権的なプラットフォーマーが登場し、利便性は享受できたけど、自由なはずのネットから「信頼」は失われました。
技術的な格差、情報の不均衡、思想の対立構造が広がっています。
ネットに信頼を取り戻す手段として、ブロックチェーンが存在します。日本ではいまだに仮想通貨の投機対象とみなす向きもありますが、その本質はかつてサイファーパンク達が夢見た世界そのもの。
いまブロックチェーンは「幻滅期」です。
その裏では巨大な胎動が起きています。
それを余すことなく解き明かす、素晴らしい一冊でした。以下に興味深い部分の読書メモを。
目次
イーサリアムのアップデート
プルーフオブワークを採用したMONAコインやビットコインゴールドといった暗号試算では、「51%攻撃」によって被害が出ている。
「51%攻撃」の厄介なところは、プルーフオブワークの仕様上は、それが正当な処理だということ。
ビットコインと双璧をなす暗号通貨であるイーサリアムは、当初プルーフオブワークを採用していたが、プルーフオブステークへの移行を段階的に進めている。最終的にイーサリアム2.0といわれるアップグレードを2020年内に行う見通し。
暗号通貨、もう一つの課題
2019年10月。Googleは量子超越性が実証されたと発表した。Googleによれば彼らの量子超越性は現在のスパコンが1万年かかる計算を200秒で実現するという。
もし量子コンピュータが実現し、実験室のラボではなく多くの人間が使えるようになれば、ビットコインなどで使用されるハッシュ化された暗号は、すぐに解かれてしまう可能性がある。
欧州屈指の量子コンピュータ研究開発者イリアス・カーン氏は、2019年7月の著者のインタビュで「量子コンピュータの実現はあと数年で、RSA-256の暗号が数分で解けるようになる」
これに対し、従来のRSA暗号とは異なる、格子暗号という量子耐性が高い暗号が提案されている。すでに海外では対策を講じたとされるブロックチェーンが存在し、総務省も2023年をめどに新規格の暗号を策定予定。
「N26」とは何か?
フィンテック2.0。消費者中心の金融サービス。「N26」は2013年ドイツで創業。2020年1月段階で世界で500万人が利用中。
N26と顧客との接点はアプリしかない。口座開設に支店に行く必要もない。アプリで必要事項を記入し口座開設を申請すると8分後に審査結果がわかる。翌日には申請した住所にキャッシュカードが送られてくる(ただしEU域内にカードを受け取れる住所が必要)。
手続きはたったこれだけ。送金手数料はゼロ。
もうひとつ話題の金融機関はリボリュート。海外送金手数料ゼロ。為替手数料はゼロ。銀行や空港では為替手数料を上乗せされるが、リボリュートではそれがない。銀行間レートに近いお得なレートで両替してくれる。数十の通貨に対応しており、ビットコインなど暗号通貨も取り扱っている。複雑な手続きもなく、必要な法定通貨、暗号通貨をシームレスに交換できる。
N26やリボリュートはすでに銀行業の免許を取得し、本家の銀行を脅かす存在に成長した。
銀行がGAFAに勝っている部分
銀行にとっては「KYC」がラストワンマイルだから。KYCとはKnow Your Customerの略。「顧客本人の身元確認」の方針やプロセス。
銀行で口座を開設するには、その個人や企業が確実に存在するのか、反社会的組織ではないか、などの審査が必要になる。マネーロンダリングをはじめとした違法行為を防ぐため、厳格なAML(アンチマネロン)を実施しなければならない。そのためにどの国でも銀行業界は、他のサービスに比べて厳密なKYCとAMLが要求される。
銀行の強みはお金を几帳面にやり取りすることではない。KYCを扱う上でのノウハウ、経験の蓄積こそがそれなのだ。
お金と同じように、個人情報を安全に管理するためには、KYCに通じた事業者が不可欠になるが、もちろんKYCというラストワンマイルを、銀行が握れるとは限らない。
KYCを担おうとする企業はこれから多数登場してくるが、銀行は一歩先行したポジションにいる。巨大プラットフォーマーも銀行にとって代わるよりも、銀行と組もうとする。
アップルの2019年8月開始のアップルカード。KYCやカードの発行、運営はゴールドマンサックスだった。
Googleはシティグループや信用組合。アマゾンも同様のサービスを提供予定だといわれる。
コストも手間もかかるKYCはノウハウを蓄積している企業にとってはビジネスチャンス。日本でもNTTドコモや三菱UFJは、本人確認支援のAPI提供を行っている。
KYCはプライバシーの問題にかかわってくる。フェイスブックがやってたようにユーザーが知らないところでプライバシーが利用されるのではないか。
そこで最近注目されてるのが「自己主権型ID」もしくは「分散型ID」という考え方。これはどこかの企業ではなく、ユーザー自身がプライバシーを所有しコントロールできるようにすることを指す。
そこで改竄ができないブロックチェーンが、次世代KYCの基盤技術になりえるのである。
群雄割拠の欧州インシュアテック
フィンテックと同様に、保険と技術の融合も盛り上がってる。
P2P保険。いわば保険加入のシェアリングサービス。知人や友人などでグループをつくり、そのグループの拠出金から保険金が払われる割安な保険加入形態。プールした拠出金で保険金が賄えない場合、保険会社が支払う。保険を使わないと拠出金も戻ってくるので消費者メリットが大きい。ベルリンのフレンドシェアランス、アメリカ発ではレモネードなど。
もともと保険はコミュニティの互助だったのが過剰に複雑化した。それを現代のテクノロジーを用いて、再び互助的なものに戻そうとしている。
自然災害の保険はどうしてるか
洪水や災害。被災者は詳細な被災状況を保険会社に申請するのは難しい。「パラメトリック保険」は契約時にトリガーとなるパラメーターを取り決めておく。トリガーは地震や台風の強さ。あらかじめ取り決めたパラメーターに達したら、加入者には保険金が自動的に支払われる。
データをベースにした保険は、ブロックチェーンと相性がいい。スマートコントラクトでビジネスモデルを実装すれば、ほとんど人手をかけることなく、加入契約から審査、支払いまで、保険ビジネスのプロセス全体を回せてしまう。
スマートコントラクトとはあらかじめ契約内容に定義されたイベントの発生をトリガーとして、自動的に契約が執行される仕組みのこと。
たとえば農作物。38度以上の気温がX日以上連続し、育成が芳しくない場合、不作が予想されるため、自動的に保険が下りる、というようなもの。
不動産はブロックチェーンと相性がいい
日本の不動産は、あまりにも時代遅れ。
なにかの不動産案件を見るためだけに不動産業者に電話して日時を決め担当者と同行する。不動産業者は内見に同行するだけで仲介料をとっていく。
業者向けのデータベースに登録されている物件を案内するだけなので、基本的にはどの不動産屋に飛び込んでも、誰でも参照可能な物件を紹介されるだけ。
テクノロジーを使えばこう変わる。オーナーはブロックチェーンに物件を登録し、直接売買や賃貸を行う。物件の内見もセンサーとスマートロックを組み合わせて自動化する。すでに技術的に可能。スロックイットはスマートキーの施錠をスマートコントラクトベースにしようとしている。
家も車もスマートコントラクトにより、指定されたトークンが振り込まれたことが確認されたら、自動的にシェアリングを開始することが可能になる。
さらに仲介業者の関与を減らし、P2Pレベルに移行させようという試みもある。ニューヨークのプロパティクラブは物件の検索から売買までワンストップで行える。独自のトークンを発行し決済はスマートコントラクトを使う。
全米の不動産情報を抱えるジロウはゼスティメイトという不動産価格予測サービスでAIを利用している。前者のサービスと組み合わせれば、株式のように不動産が売買される市場が登場しそう。
1984♪
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