元巨人軍代表、清武さんのノンフィクション本。
いろんな著名人の名前が実名で出てくる。ノンフィクションを手に汗握る小説のように描く。作家としては抜群の面白さがある。
主人公の母親の、最後の一言が素晴らしい。読んでよかった。面白い本をお探しの方には、おすすめです。本書はシンガポールを舞台に、富裕層がいかに節税しているか。その仕組みがよくわかる一冊でした。
なぜ金持ちはマイナンバーを嫌がるのか?
国税庁は本腰を入れて海外資産を把握しようとしている。2015年の税制改正で、国税庁は富裕層を狙い打ちする方針を鮮明に打ち出した。
・富裕層の海外資産を把握するため、国家間の「自動情報交換制度」を導入 ・海外への税逃れには「国外転出時課税制度(出国税)」を創設 |
2017年以降、個人と非上場企業が海外に持つ金融口座の内容が、海外の税務当局を通じ、国税庁の「国税総合管理システム」に入力されることになっている。
自動情報交換制度は、英、独、仏、シンガポールなど合意した101カ国の税務当局が、非居住者の金融口座を相互に交換し合うことになっている。実施国にはスイス、香港、ケイマン、バージン、モナコなどタックスヘイブンも含まれる。
出国税は2015年7月からスタートした。株式売却に税金がかからない国へ移り住んだ後で株を売り、税逃れを図る富裕層に、出国時の水際で課税するという発想で、米、加、豪、独はすでに導入済み。1億円以上持ってる人が海外に移り住む際、国外に出た時点で売却したとみなし、対象資産の含み益に15%の所得税を課す。
2016年からはマイナンバーの運用も始まった。マイナンバーと銀行口座の連動も検討されている。時期は決まってないがこれができれば、預金者の全容を正確に把握できるようになる。
外資系のプライベートバンカーのもとには、「自分の金融口座にマイナンバーの紐が付くまでに、海外へ上手く資産を移動する方法はないか」という相談が相次いでいるという。
相続税をタダにする方法
資産家全般にいえることだが、資産を一生で使い切れないほど抱えると、多くの人たちがそれを目減りさせず、跡継ぎに残すことを考える。シンガポールは、それができる絶好の地。
・政府が外国人富裕層や外国企業を積極的に受け入れる政策をとっている。
・相続税や贈与税を廃止。地方税や株式売買益課税もない。所得税率も最高で20%。
・外国人富裕層は事実上、永住権をカネで買うことができた。
・治安がよく近代的で、日本人会や学校などの施設も完備され、2010年で日本人が2万4500人も住んでいた。日本語が通じるムラがある。
・日本の税法には抜け穴があって、そこをうまく突けば相続税を払わずに資産を継承できる。現地では「相続後には晴れて日本に戻れる」と言われていた。抜け穴とは「5年ルール」。親と子がともに5年を超えて日本の非居住者であるときは、日本国内の財産にしか課税されない。5年以上日本に非居住者であれば、子に相続や贈与しても海外の資産には日本の課税が及ばない。資産家親子は、「5年間の我慢だ」と言い聞かせて、シンガポールでその日を待ち焦がれている。しかし彼らを待ち受けているのは、せまいムラ社会の退屈だ。プライベートバンカーはそんな資産家の資金を預かり、接待要員でもある。
プライベートバンクとは何か?
もともと欧州の階級社会から生まれている。王侯貴族など超富裕層の資産を管理し運用する個人営業の銀行が原型。資産家のために働くバンカーだったから、「カネの傭兵」「マネーの執事」といわれた。
歴史は十字軍が聖地奪還に遠征した11世紀までさかのぼる。貴族の資産保全を約束する財産管理人が活動し、戦乱のなかで永世中立をたもったスイスには、フランス革命からの逃避資産や、ロイヤルファミリーの資産が流れ込んだ。そこに地方の名家の財産も集まり、世襲財産を総称して「オールドマネー」と呼んでいる。
会社組織に属しても、プライベートバンカーは個人商店のようなもので、1人1人の能力と努力の勝負だ。1人でメンテできる富裕層は、せいぜい25人ほどの資産家で、無理して頑張っても50人が限界。
オフショアとタックスヘイブンの違い
本来オフショアとは陸から海へと吹く陸風のこと。海へ吹くというより、海の向こうへ逃れていく陸風と表現したほうがわかりやすい。課税の重い国から、税のない外国に吹く「カネの陸風」である。
オフショアの説明として用いられる「課税優遇地」と、脱税の温床であるタックスヘイブンの「租税回避地」は、税の優遇という点では同じ意味。いずれも所得税や法人税など税金が無税、あるいは税率が極めて低い国や地域を指している。
OECDのタックスヘイブンの判定基準は以下。
・まったく税を課さないか、名目的な税を課すのみ ・有効な情報交換制度がない ・透明性がない ・そこに税法上の籍を置く企業や個人に、実質活動を要求しない |
この基準では、パナマ、ケイマン、バージンがタックスヘイブンになる。
シンガポールや香港も当初OECDの基準を受け入れてなかったが、圧力を受けて2009年に法改正を行っている。シンガポールは国税庁にタックスヘイブンだ、といわれても、「いやここはオフショアの国だ」と胸を張るようになった。安全、クリーン、固い秘密保持を看板に、富裕層の資金を堂々と引き入れている。