出版業界の仕組みがよくわかる「ゴーストライター論」

これからライターになろうとする人は必読です。出版業界の仕組みがよくわかる。

出版業界にこんなにゴーストライターがいるなんて、思いもしなかった。本は著者が頭の中で企画・構成考えて、一人で書いてると思ってました。

矢沢永吉の「成り上がり」をはじめとした芸能人本や、スポーツ選手なんかの本はほぼゴーストライターが書いてる。

ホリエモンの本もそうだし、売れっ子大学教授の新書なんかもそうです。特異な人生を歩んだ一般人の経験談なんかも。

出版はビジネスです。本を1冊作るには1千万円近い資金が必要になる。出版社の編集スタッフ企画会議は、投資会議と同義。

その本の出版には投資価値があるのか。出版社の企画会議とは、編集スタッフが自分の企画に、スポンサーである会社に、投資してくれというプレゼンの会議です。

社員編集者の人件費以外に、取材費、印刷費、デザイン費、原稿料。本が売れても取次からの入金は半年先。商社じゃないけど立替も必要。出版のビジネスモデルは、冒険ができない仕組みになっている。

一般的な本の制作プロセスは以下。
・本の企画を立てた編集者が、著者に交渉して取材OKをとる。
・ライターに企画意図を伝え、編集者とライターが構成を考える。
・名義上の著者へのインタビューは、編集者とライターが行う。
・インタビューしてデータに起こして構成し、文章を書き上げるまではライターが行う。
腕のいいライターに頼むと、インタビューから文章が上がるまで任せられるが、そうでない場合は、出版社の編集者がライターを兼ねる場合もある。著者とライターと出版編集者の良好なコミュニケーションが必要となる。

ライターの文章作成方法は以下。
具体例を上げながらの詳細は本書にて。
・1次情報をインタビューで得る。インタビューデータをプリントアウトする。
・2次情報はこれまでの著者の書籍やネット記事。読みこんでデータを書き出す。
・3次情報は第三者、関係者への取材。物語の厚みが増す。
・4次情報は著者の現場をライターも体感する事。風景が描写できる。

・これらのデータを細分化し、一文ごとにナンバーを振る。
・目次のような構成を考える。大きな箱に分けて、さらにその中の小さな箱に分ける。
・その箱の中に、ナンバー(文章)を入れていく。
・箱はA3の紙を使う。A3の箱は貼りあわされ、大きな作品だと紙は畳一畳にもなる。
・周到な構成作業を繰り返すと、執筆に入る段階では完成された文章が生まれている。



最近つくづくおもうのは、モノを書くというのは、すさまじいまでの入力が必要だということ。司馬遼太郎のエッセイを読んでるとほんとにそう思う。「司馬さんが本を書きだすと、そのテーマに関する本が古書街から消える」という話はめちゃくちゃ有名ですが。

たとえば4年かけて書いた「坂の上の雲」に関する司馬さんの語り。

・10年ばかり前からできるかぎりの資料をあつめた。

・私は他に娯楽がないために物事を調べるということが娯楽であり、それをあとで書かねばならないことがむしろ苦痛なくらいである。

・原則として私は権威者に物をきいたり、あるいは助手をつかって資料をしらべてもらったりすることはいっさいしない。

・権威者にきくということは、たとえばマンジュウを作って食うことをせずに、売っているマンジュウを食うようなものであり、調べをひとにたのむということは、マンジュウのアンコをひとに食べられてしまうようなもの。

まんじゅう

・海軍のほうは自信がなく、まずネーヴィの気分を知るために、海軍と名のつく書物や、海軍軍人の伝記はほとんど読んだ。

・御好意で正木元海軍大佐から、通計して本にまとめれば、三冊以上になるかもしれないほどの量のお手紙を頂戴した。

・軍艦のことについては、福井元技術少佐から何度もくわしいお手紙を頂戴した。

・砲術のことについては黛氏からうかがった。

司馬さんは先人からのタスキを受けとった、アンカーだったのかもしれません。横で見てたように書けるのは、それだけの入力があったということです。ライターというのは、入力がすべてだと思う。入力のない人は継続的に書くことができない。

ところで司馬さん曰く、「40代というのはだいたい物がわかってきて、なお体力が残っているおもしろい世代である」

司馬さん自身も、40代は代表作の四国4部作を完成させてます。四国4部作ご存知ですか?
司馬さん自身が講演でクイズ出してました。

愛媛:坂の上の雲
高知:竜馬が行く
香川:空海の風景
徳島:菜の花の沖、淡路島は阿波のようですね。

久しぶりに読んだ司馬さんは別格でした。ものが違う。膨大な入力と思考が、彼を尊敬すべきライターにしたのだと思う。

その他の読書メモを。



新書とは

表紙や内容のデザインはほぼ均一で、単行本に比べるとコストも手間もかからない。

原稿用紙250~300枚程度の原稿があれば、次々と入稿することができる。

ここ数年雑誌の休刊が相次いで編集者が余ってしまった。雑誌の編集者を新書の編集部に移籍させることが多く、むかしなら雑誌で扱うテーマも、新書で出すことが多くなった。

新書の3Tとは?

売上数十万部に達するのは、100冊に1冊というのが関係者の定説。計算できる著者以外は、テーマ性で勝負となる。

3つのTが重要となる。テーマ、タイトル、タイミングだ。

イスラム国やピケティのような時事的なテーマは、「今月この瞬間に書店に並んだものが勝ち」という競争が行われている。

出版社はやはりテーマの権威者に書いてもらいたい。しかしその人は忙しい。そこで口述&ゴーストライターの出番となる。

雑誌は氷河期

雑誌全盛の時代は、フリーのライターも編集部に契約社員で所属した。さまざまな原稿を書いて、それが千本ノックになり、その後作家になるケースが多かった。

今は氷河期。とくに男性誌は壊滅状態だ。編集部と契約する記者は激減している。現状では雑誌の仕事をしながら腕をみがくのはできにくい状態だ。

かわってネット媒体への執筆という仕事もある。こちらは致命的にギャラが安い。本書の著者への依頼で1文字1円。

⇒2000文字の記事を月に8つ書いたとして1万6千円。厳しいですね。アドセンスやアマゾン広告を貼ったブログ並みです。しかしそれが現実なのかもしれません。

新垣隆作曲 交響曲1番広島♪
新垣氏は家賃5万円の県営住宅に住み、朝から晩まで、ひたすら手書きで楽譜を書き続ている。そういう生活をはじめて20年。部屋にある音が出るものは、電子ピアノクラビノーバと、小さなCDラジカセのみ。TVには電波が入らない。

新垣氏はその後ジェニーハイに参加。「俺はもうゴーストではない」。ガッキ―と呼ばれ人気者になる。以下のPVにも出ています。

レスポンシブ広告

シェアする