「富士フィルムは多角化で乗り切った。コダックの戦略は情けない」
コダックは批判されて、富士の経営判断は称賛された。その評価は正しいのでしょうか?
コダックが破綻した真の理由とは何か?
2012年に創業124年で破綻したコダック。コダックの経営陣はアホだったのか?
実際のところコダックは80年代に、医療品事業、医療機器事業、複写機事業といった分野に多角化をしていた。当時の経営陣がアナログ写真フィルムの将来性を懸念し、新しい事業に進出しなければいけないと判断したからだ。
コダックの当時の事業ポートフォリオは、富士が2000年以降に多角化した事業ポートフォリオに類似している。フィルム事業に親和性ある事業を選んだからだろう。コダックに先見の明がなかったわけではない。
だが90年代になってコダックは多角化された事業をあいついで売却した。株主の要求にこたえるためだ。
90年代の米国では、主要企業の株の半分以上を、機関投資家である年金基金がコントロールしていた。短期売買で儲けるのではなく、株価や株主還元の上がり下がりに敏感に反応し、経営に口を出すようになっていた。
70年代から80年代にかけて米国の製造業は、日本に追い越されショックを受けていた。マイケルポーターは「競争の戦略」を出版する。ポーターが主張した「コストリーダーシップ」とか「選択と集中」といった戦略を、機関投資家は企業に要求するようになっていた。
80年代の多角化やM&Aを歓迎する傾向は薄れ、コスト削減と選択と集中によるシンプルな経営構造を、機関投資家は求めるようになっていた。
機関投資家はコダックに、利益をすぐに生まない多角化をやめて、中核事業に集中し、コスト削減を図ることを求めた。それが投資の見返りを増やすから。
コダックは株主の要望に応えて、多くの事業や子会社を売却した。その結果1990年~2000年の株主還元率は、コダックが147%、富士は11%。
富士は低い還元率のおかげで、2000年には8000億円のフリーキャッシュフローを持ち、自己資本比率は70%だった。M&Aに7000億円使うことができたのも、このおかげだ。
株主は特定の会社の存続など望まない。株主の立場に立って考えると、進出していく複写機市場にはキャノンやゼロックスといった競合がいたし、医薬品・医療機器市場にも3Mがいた。ヘルスケア市場に将来性があるなら、競争に勝つかどうかわからないコダックの株を持っているより、すでに実績がある3Mの株を自分たちのポートフォリオに加えた方が得策だ。
つまり株主にとっては、手許現金から大きな投資をして新しい分野に進出していくコダックのリスクにつきあう必要はない。それより現金配当したり自社株買いをして株価を上げてくれたほうがありがたい。
株主は会社の所有者かもしれない。だからといって、特定の会社の存続をのぞんでいるわけではない。将来性のある市場で見込みのある会社の株を買い、ポートフォリオに加えればいい。
最近おもしろい経済本がなかったので、本書を読んでみました。なにか統一したテーマの本というわけではなく、著者の知見をエッセイ風に語る本です。エッセイとして読み飛ばすつもりでしたが、コダックの認識が、僕の中では新しかったので読書メモとして残しました。
ついでに読書メモをあと3つ。
ダンバー数、社員150人説とは何か?
イギリスの人類学者ロビン・ダンバーが1992年に発表した説。最近、多くの海外メディアが取り上げ、シリコンバレーのハイテク企業も同調している。
「人間が安定的な社会関係を維持できるとされる群れの、認知的な上限は150人である」
認知的な上限とは、人間の脳の能力にとって、自然でストレスを感じることが少ない規模のグループは150人ぐらいだと。
ダンバーは、霊長類の大脳新皮質と、平均的な群れの大きさに、相関関係があることに気がついた。38種類の霊長類の、脳の大きさに占める大脳新皮質の割合と、グループの規模から回帰方程式を作成。人間は148人と推定した(四捨五入で150人)。
そして150という「ダンバー数」を超えると、グループの団結と安定を維持するために、より拘束性のある規則や、強制的なノルマが必要になると考えられている。
フェイスブックのクリス・コックスは「入社したときは社員は100人より少なかった。他のベンチャー企業のCEOとも話すことだが、150人という数を超えると、奇妙なことが起こり始める。コミュニケーションや意思決定のために、より多くの組織上の仕組みを必要とするようになる」
ネットフリックスの元人事担当者も、「98年には30人しかいなかったが、150人を超したらリーダーは、自分たちはどこに向かっているのか、何をしようとしているのか、定期的に明確にする必要が出てくる」
だが彼らは規則を採用すると、組織は官僚的になり、いわゆる大企業病にかかることも恐れている。ジェフベゾスは2017年の株主への手紙の中で「大企業でも優れた決定はできる。だが時間をかけすぎている」と書いている。
ジェフベゾスのやってみなはれ
ベゾスは上記の株主への手紙の中で、アマゾンという会社が大企業病にならないために採用している施策を、いくつか紹介している。
「意思決定を素早くするために、ほとんどの場合自分が欲する情報の70%で決断をしなくてはならない。90%の情報が集まるまで待つと、激しく変化する時代では、決断したときには遅い」
だからアマゾンは「反対だがコミットする(disagree and commit、だがと訳したが原文はand)」という考え方を採用している。
つまり「そのプロジェクトには反対だ。それでも君たちが提案するプロジェクトに私は投資する」とCEOがいう。
「disagree and commit」はサントリーの「やってみなはれ」に共通するところがある。
ノーベル経済学賞×⇒ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞〇
もとのノーベル賞より73年遅れて、1968年にスウェーデンの中央銀行が創設した。ノーベル一族からなる財団は本人の遺言になかったとして承認せず、通常のノーベル賞とは微妙に違う名前になった。賞金は他の5部門と違い、ノーベル財団でなく銀行が出している。
2001年にはノーベルのひ孫4人が「経済学賞はノーベル賞の品位を落とす」と新聞に公表した。ひ孫は「経済学者たちが自分たちの評判を上げるためのPR活動だ。株式市場の相場師に授与されることが多くて、人類の状況を改善するというノーベルの精神を反映していない」
2つ上の兄が死んだとき、間違って新聞が「死の商人、ノーベル博士死す」と記事にした。死後の評判を恐れて、ノーベルは財産の94%を投じてノーベル賞を設立した。兵器の製造販売に携わったノーベルに、そもそも品位はあるのか。
そして実社会で通用するかどうか不明な経済学理論に、権威を与えていいのか?
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「創業124年で破綻したコダック….」
一般的に、米国企業の寿命は大変短い感じがします…..