なぜ日本の生産性は低いのか?⇒製造業からサービス業への雇用シフトが主因だった

日本の労働生産性は低い。よく言われますよね。

世界の生産性比較

どうやって「労働生産性」を計測してるのか?

この問題は2015年にデービッド・アトキンソンが詳細に解説してました。
まとめ記事⇒https://book-jockey.com/archives/8754

①購買力平価(ビッグマック指数)でみた1人あたりのGDP
②1時間当たりのGDP

なんかが指標でした。購買力平価は万能じゃないし結局は円安とデフレかな、という思いはありますが、彼の分析で納得したのは以下。

「たとえば銀行の書類。驚くほど多い。複雑な記入。印鑑証明等。印鑑も1p、2pは押して、3pには押さず、4pは1~2pと違うところに押すなど難解。認印、社判、社長個人の実印など書類作成に多くの時間を費やす。客観的にみて2割程度の量で済むものもあれば、工夫すればまったく不要な書類もある。作成された書類は、銀行側も何人かのスタッフが厳重にチェックする。これらはGDPには貢献しない活動。1人あたりGDPに悪影響を与えている」

東洋経済の新着記事で、「日本の生産性が低い最大の原因は中小企業だ」がバズってました。

まあそりゃそうですよね。数百人の会社と数万人の会社じゃ、資本装備率というかスケールメリットが違います。システム化できてないものが多い。

日本の労働生産性が低い原因。円安デフレ説、複雑すぎるハンコ書類説、多すぎる中小企業説、いろいろありますが最近納得したのは橘玲の本に書かれてた説です。



なぜ日本は失われた20年で経済成長できなかったのか?

・不況期には生産性の低い工場が縮小閉鎖され、生産性の高い工場が増えていくことで経済全体の生産性は向上する。

・1990年と2003年の比較では、日本の生産性の低い工場は7割閉鎖された。

・しかし不思議なことに生産性の高かった工場も同時に閉鎖された。トップグループの生産性の高い工場も5割も閉鎖された。

・1990年~2003年のあいだに日本国内で10万1152の工場が新設され、23万9482の工場が閉鎖された。純減だ。13年間で日本の工場数は3分の2になってしまった。

・生産性の高い工場は売上高は格段に大きい。売上減少は工場減少よりもっと大きい。

なぜ生産性の高い工場まで閉鎖したのか?

生産性の高い製造業が、海外の市場や安価な労働力を求めて海外移転を進めた。

・大企業が国内において労働コストの削減を求めて、生産の拡大を子会社に担わせ企業内ではリストラを進めた。

・バブル期の大量採用人員が負担になったが日本では雇った正社員はよほどじゃないと解雇できない。

・まず人件費削減のために新卒採用を絞り込んだ。

・次に年功賃金カーブを平準化した。

・ポストの数は限られているので余剰人員が出る。子会社へ転籍させたり事業部ごと外資に売却したり、強引なリストラ(追い出し部屋)をしたりした。

・しかしこれだけでは事業はどんどん縮小する一方。

・そこで製造業を中心に人件費の安い中国や東南アジアなどの新興国に進出して利益をあげようとした。

国内雇用はどうなったのか?

・雇用増加の大部分はサービス産業で生じた。

・雇用喪失のほとんどは、生産の海外移転やリストラが続いた製造業や公共事業が減った建設業で起きた。

日本では報酬の高い産業(製造業)から、低い産業(サービス業)へと一貫して労働力が移動したため、市場経済の実質付加価値を減少させた。

日本型雇用システムは柔軟性がない

・欧米と違って労働組合が産業別に組織されておらず会社別になっている。

・「働き方」は経営者と労働組合の「自治」で決める。

・なので自分たちの既得権を犠牲にして雇用を増やそうという発想は出ない。

・日本では会社は「正社員の運命共同体」で、労働組合の最大の目的は会社を維持することと正社員の既得権を守ること(無事に定年まで勤めあげて満額の退職金を受け取ること)。

・市場が縮小するなかでは、社員を増やせば自分たちの取り分が減ると考えた。

・平成の製造業の特徴である積極的な海外進出と非正規比率の急増はこうしておこった。

日本はなぜIT効果が出ないのか?

・日本の生産性が低い理由として、しばしばITを効果的に活用できてないことが指摘される。

・先進国では「企業が持つ技術知識ストックが2倍になると生産性が8%程度上昇する」という統計データがある。

・日本の研究開発支出対GDP比率は2016年3.42%で、G7諸国では1位。

日本経済の問題はITへの投資額が少ないことではなく、投資の成果が出ないこと。

・アメリカではIT革命が到来して、社内で行われてきた業務がアウトソースされた。生産活動の一部が効率的なサービス供給者に集約され、経済全体の生産性が上昇した。

日本では雇用対策を優先したため、社員の仕事を減らすような業務のアウトソースができず、子会社や系列会社に社内の余剰人員を移動させた。これでは経済全体の生産性上昇につながらない。

・アメリカでは安価なパッケージソフトで済ませ、組織の改編や労働者の訓練で会社の仕組みをソフトウェアに対応させようとしたが、日本では組合が組織改編や社員の訓練を避けるため、ソフトウェアを会社に対応させようとして、高価なカスタムとなった。

・こうして日本ではIT導入が組織の合理化や労働者の技術形成をもたらさず、割高な導入コストや、異なったソフトを導入した企業間の情報交換の停滞も相まって、生産性の停滞を引き起こした。



どうしたら生産性は高くなるのか?

ここまで見たように「流動性の高い雇用制度」は、昨今のグローバルな競争市場では生産性を高める。

たとえばオランダ。北海油田からの収入で国民が福祉依存に陥った80年代の「オランダ病」。これを克服すするために大胆な「ネオリベ的改革」を断行した。

全就業者に占めるパートタイム労働者の割合が2004年に35%と、OECD平均(15.2%)をはるかに上回ったが大きな社会問題にならないのは、1996年にパートタイム労働とフルタイム労働の均等待遇が法制化され、「パートタイム」は勤務時間が短いという以外「フルタイム」と何の違いもなくなったため。

さらに2000年には「労働時間調整法」も施行された。労働者はライフスタイルに応じて勤務時間を主体的に決められるようになった。

こうした平等でリベラルな雇用制度が、オランダの低い失業率と良好な経済パフォーマンスを支えた。

働き方改革が進み始めた理由

ここ数年で急に進み始めた。なぜか?

「働き方改革」は団塊の世代が現役を引退したことではじめて可能になった。どんな政権が権力を握ろうが、彼らの利益を侵すような改革はできなかった。その重しがとれて、日本でもようやくグローバルスタンダードから取り残された前近代的な雇用制度を見直そうという機運が生まれた。

これからの20年で起こること

団塊の世代の年金を守るための20年が始まる。本来は団塊の世代が40代の時に「現役世代の負担を軽減する」という名目で社会保障を改革すべきだった。

千載一遇の時期を逸したことで、もはや日本に選択の余地はなくなった。

著者が若手官僚に取材した内容は以下。

・理想主義の官僚がどんな改革案を出そうとしても、有権者の不安をあおるとして政治家によってすべて握りつぶされる。

・自分の出世や家族の生活を考えれば、失敗することをやろうとする奇特な人間はいない。

・だったらどうするか。ひたすら対症療法を繰り返す。年金が破綻しそうになったら保険料を引き上げる。医療介護保険が膨張したら給付を減らす。それでもだめなら消費税を少しずつ上げる。

・そうやって団塊世代がいなくなる20年間を耐え続け、2040年を過ぎれば高齢化率は徐々に下がっていく。

・それがわかってるので、わざわざ「改革」などという危険なゲームをしない。これが「霞が関の論理」。

工場勤務の女の子を待ってるんだ♪

金曜の夜に飲みあかす少女さ♪

The Rolling Stones – Factory Girl サービス業より女工のほうがいい時代になりました。

The Rolling Stones – Factory Girl (Official Lyric Video)

(関連記事)

なぜフィンランドの幸福度は高いのか? 謎が解けた。
https://book-jockey.com/archives/8261

レスポンシブ広告

シェアする

『なぜ日本の生産性は低いのか?⇒製造業からサービス業への雇用シフトが主因だった』へのコメント

  1. 名前:song4u 投稿日:2020/04/04(土) 12:19:01 ID:fda47c986

    donさん、こんにちは(^^♪
    ちょっと油断してたら、またまたご無沙汰になってしまいました。
    相変わらず時間の経つのが速すぎるよねえ(笑)

    さて、労働生産性ですか。
    日本は諸外国に比べて低いんですかね?
    どういう基準で何を重視するかで結果は大きく変わるんだろうけど、
    ぼくはそんなに低いとは感じないけどなあ。高いとも感じませんが。
    労働生産性っていう言葉から受けるぼくのイメージとしては、
    どこをどう手抜きするか、その方法と程度じゃないかって気がする。
    もちろん高いに越したことはないのかもしれませんが、低いからって、
    そんなに気にすることもないような気がするなあ。
    その分、丁寧に仕事してる、という部分も少なからずあると思うしね。
    過剰品質に救われたこと、donさんだって何回もあるでしょ?(笑)

    それにしても、COVID-19がここまでぼくたちの日常に変質を強いるとは、
    蔓延当初はまったく考えてなかったなあ。
    今や、人間としての生活の在りようが大きく変えられてしまったと
    感じない人などいないのではないでしょうか。
    いくら健康には自信があると言ったって、同学年の梨田さんまでが
    あんな大ピンチに陥ってしまうのだから、もう何をかいわんやです。
    幸いと申しますか、既に戦力外で大勢に影響のないのぼくなんかは、
    自由気ままな勤務をさせてもらっておりまして、テレワークに飽きたら
    出社したり、電車が混む前に午後から帰ったり色々しております。
    あ、こんなことするから、日本の労働生産性が上がらないのかな?
    おお、犯人はオレだったのか!(笑)

    NPBも4月下旬の開幕を諦めましたね。
    1ヶ月先延ばしして、5月下旬の開幕で足並みを揃えるとか?
    とは言っても、それだって、かなりの楽観論が前提ですからねえ。
    五輪が延期になって、色々なことが一気に噴き出し始めましたよね。
    まったく、リーマンどころの話じゃありません。
    誰でしたっけ? リーマンとは比較にならない(から心配要らない)、
    なんて分かっていながら大ウソをついたのは??
    規模も影響も尋常じゃないから、長引きますね、きっとこれは。

  2. 名前:don 投稿日:2020/04/04(土) 13:32:03 ID:6eb540abb

    song4uさん、こんにちは~
    結局従業員を守ろうとすると、労働生産性は低いままという。
    終身雇用の正社員にとっては居心地がいいですが。
    いまのやり方では、もうグローバル競争できないような気がします。

    日本も外国みたいに転職文化になっていくのかな、と思ってます。
    ぼくたちの世代は、今のままで耐えていけばなんとか退職まで無事そうですが。

    と思ってたら、今回の新型コロナはえらいことになってます。
    自動車メーカーのラインまで止まってしまって。
    今年と来年のボーナスはひどいことになりそうです。
    とくに今年の業績が反映される来年。
    というか自己資本がどこまで減るか。体力勝負です。

    アメリカのGDPが△28%になりそうとか。
    https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200403/k10012365971000.html
    こんなんムチャクチャですやん。想像を絶する世界。

    君は、生き延びることができるか?