トイストーリー4。公開3日間で観客動員数127万人。「アナ雪」を超えたそうです。
「PIXAR」は今年読んだ本では一番面白かった。小説も含めて。事実は小説より奇なり。映画化してもいいぐらい面白い。苦難の末のハッピーエンド。しかも誰もが知る大成功。
本書はピクサーが生き残りをかけ、「トイストーリー」の制作に乗り出し、ディズニーに買収されるまで、10年余りの物語。
ピクサーはスティーブ・ジョブズがオーナーの会社でした。ジョブズはアップルを追放される。次の会社ネクストもこける。オワコンといわれたジョブズが復活したのがピクサーです。
著者はこの時期に、ピクサーの実務を取りしきっていた最高財務責任者ローレンス・レビー。つぶれかけていた会社がヒットに次ぐヒットを飛ばしていたとき、ピクサー社内では何がおきていたのか?
レビーが着任したころ、ピクサーはにっちもさっちもいかない状態になっていました。ジョブズが60億円相当の私財を投じて支えてきたにもかかわらず、儲けの出そうな事業が1つもない。なのにジョブズは株式の公開を望んでいる。
ピクサーは毎月赤字です。不足分をネクストにいるジョブズのところへ行き、お願いして小切手を切ってもらう。前任者に聞くと、ピクサーの支出を毎月ジョブズに認めさせるのは、拷問に匹敵するほどつらい作業だったそう。
そもそもピクサーがルーカスフィルムからスピンアウトされたとき、ジョブズはハードウェア会社を買ったつもりでした。ピクサーはハイエンドの画像処理コンピュータを開発していた。アニメーションはその技術を見てもらうためのものにすぎなかった。でもハードウェア部門は1991年に閉鎖になる。
社員とジョブズの関係もよくない。著者はピクサーの社員から、ジョブズを会社に連れてくるなといわれる。「彼を会社に近づけるな」。ジョブズは過激な性格やから社員からは嫌われていました。
ピクサーを立てなおし株式公開を実現するなら、ジョブズと社員、両方が納得するやり方をみつけないといけない。著者は板ばさみです。選択肢をひとつでも間違えたらバッドエンド直行。悩み、もがき、工夫していきます。
著者から見たジョブズも興味深い。彼もまた悩み、行きつ戻りつ試行錯誤してる。本書を読むと、ジョブズと著者の仕事の進めかたが追体験できます。2人で何度も何度もシュミレーションしてる。散歩しながら協議したり(2人は家が近かった)、会議室で2人でホワイトボードに書きながら検討したり。
以下にいくつかの読書メモを。
目次
ストックオプションをわかりやすく
スタートアップというところは、創業者と社員が戦利品を山分けすることを前提にまとまっている。ストックオプションがあるから安定した職ではなく、リスクの高いベンチャーに飛び込むという人が多いのだ。現代版ゴールドラッシュ。
ストックオプションとは、その会社の株を将来的に買える権利である。代金は実際に株を買うときに払えばいいのだが、その値段はオプションを受けとったとき(入社時が多い)に固定される。
だから入社後会社が大成功して株価が天に昇っても、オプション設定時の価格で買える。あとは全部儲けだ。たとえば入社時に「1株1ドルで千株」のオプションを受け取れば、5年後株価が100ドルになっても1株1ドルで購入できる。千株全体で9万9000ドルも儲かる。ミリオネアやビリオネアをシリコンバレーが輩出するのは、こういうからくりだ。
ピクサーは当時の社員にストックオプションを与えてなかった。不満が渦巻いていた。古参の社員は膨大な時間を会社に割いており、がまんで待つしかない。
ストックオプションでは社員向けに株を一部取りおく必要がある。スタートアップの場合は15%から40%と大きく幅がある。ピクサーの株はすべてジョブズが所有している。
ジョブズとしては持ち分の減少をなるべく小さくしたい。そのためには15%~20%くらいに抑えたいと考えていた。新しく会社を立ちあげ、これから1~2年で50人前後を雇おうかという段階ならそのくらいでもいい。だがピクサーはすでに大きくなっていた。150人近くも社員がいるし、みなシリコンバレーの基準からすれば相当なストックオプションをもらっていいベテランだった。
ピクサーIPO(新規公開株)の初値
IPOは投資銀行が担当する。有名どころのゴールドマンサックス、モルガンスタンレーにピクサーのIPOをお願いした。がんばってプレゼンしたが断られた。2社曰くリスクが高すぎると。ピクサーは1本も映画を公開していない。2社とも「そのタイミングでのIPOは無理」との判断になった。
ピクサーとしては自己資金を早く手当てしたい。制作費もかさむ。資金があればディズニーとの不平等契約も改善できるかもしれない。
なんとか投資銀行が決まる(詳細は本書にて。山場の部分)。
NASDAQで午前7時過ぎ、ピクサーの株式600万株が1株22ドルで売りに出された。事前割り当ての投資家は22ドル。取引初日の終値は39ドル。ピクサーの市場価値は15億ドル弱。ジョブズはビリオネアになった。
翌日のウォールストリートジャーナルの記事。
『スティーブ・ジョブズ返り咲き。ピクサーIPOでビリオネアになる。専門家の間には、ピクサーの時価総額が14億6千万ドルとなったのはおかしい。投資家は理性を失っているとの意見が多い。「トイストーリーの収益は80%~90%がディズニーに入るものだし、映画3本の制作で少なくとも1999年までピクサーを押さえるなどディズニーに有利な契約もあるからだ』
映画の承認システム
ディズニーにはクリエイティブな決断を下す仕組みがしっかりと用意されている。承認は幹部の仕事で、監督は幹部に従う存在で、幹部の承認なしではなにも進められない。そうなってる理由は簡単。クリエイティブな面での失敗は、修正にとんでもない費用がかかったりする。
たとえば制作が進んだ段階で、ストーリーやキャラクターに大きな変更を加えれば、数百万ドルや数千万ドルもの費用が掛かる。1億ドルの制作予算。投資家のお金をつぎ込む。
クリエイティブなチェックポイントはたくさんある。ピッチ、トリートメント、絵コンテ、脚本、キャラクターデザイン、アートワーク、声優、シークエンス数、音楽、歌、タイトル、上映時間。このような承認は、制作の様々な段階で繰り返し行われる。映画1本で必要な4000枚もの絵コンテは、いずれも5回から6回は描き直しになるのがふつう。それを誰が承認するのか。責任のとれる体制で進めなければならない。
ディズニーとの再交渉案をジョブズと練る
多くのことがディズニーとの契約で縛られている(詳細は本書で)。なかでも収益のほとんどがディズニーへ流れるようになっていた。ディズニー側の費用や手数料を差し引くと、最終的にピクサーの懐に入るのは10%にも満たない。
たとえば大ヒット作「美女と野獣」をピクサーが制作していたならば。。史上3位の収益を上げた1991年の作品で試算した。興行収入は国内が1億4600万ドル。海外が2億ドル。これは平均的なアニメーション映画の3~4倍の額。それほどのヒット作でもピクサーが手にできるのは1700万ドル前後。制作期間は当時の能力で4年。年間400万ドル強。ディズニーの儲けはその10倍になる。年間400万ドルの利益では会社を成長させることはとてもできない。しかもこの数字は「美女と野獣」並みの成功というありえない条件で計算したもの。絶望的だ。
トイストーリーの大ヒット後、ジョブズと再交渉について何度も話し合った。散歩しながら。会議室でホワイトボードに書きながら。ホワイトボードに整理した両社の有利な面は以下。
<ディズニー側>
・契約修正に応じる義務はない
・コンピューターアニメーションにみずから乗り出してもよい
・ピクサーにとって他社(と契約するの)はディズニーに劣る
・ピクサーはヒット作1本しか実績がない
・多角化するディズニーにとってアニメーションの優先順位は下がりつつあるかもしれない
<ピクサー側>
・制作費用をIPOのお金でまかなえる
・「トイストーリー」が成功した
・ドリームワークス(ディズニーからスピンオフ)はディズニーに対する脅威だ
・待てば条件はよくなる
<譲れない契約条件>
・クリエイティブな判断の権限
・有利な公開時期
・収益は正しく折半
・ピクサーブランド(ディズニーブランドでなくピクサー&ディズニー制作を明記する)
ざっと要約しましたが、約40ページにわたる交渉の描写や結果は本書にて。もちろんハッピーエンドですがプロセスがとても面白いです。
ディズニーとの不平等契約を解消した!
どんなことでもそうだが、交渉ごとでは最後の20%に労力の80%を費やすことになる。最後の20%でこまごましたことを決めなければならないから。
・地震が起きて映画の完成が遅れたらピクサーの責任になるのか?
・映画製作のための機材を共同購入した場合、ディズニー以外の案件で使っていいのか?
・企画書の定義は?たった1行「父親が息子捜しの旅に出る。なお親子とも魚である」でいいのか?これはさすがに無理があって契約書では細かく指定することになる。たとえば3ページ以内の文章でそこから脚本を書き起こせるレベルのもの。とか。
・企画書が提出された後のディズニー側の検討期間はどれくらいが適当か?
・ディズニーはどこまでピクサーにおける制作に口を出せるのか?
・ピクサーの技術はどこまでディズニーに開示するのか?
・マーケティングにピクサーは口を出せるのか?
・制作予算はどう決めるのか?
・予算超過の承認はどうするのか?
・ピクサーのキャラクターはディズニーランドで使えるのか?
・クルーズ船では使えるのか?
・キャラクターの使用料金は支払われるのか?
・派生物の取り扱いは?続編、前日譚、テレビ番組、ゲーム、アイスショー、ミュージカル、テーマパークライドなどさまざまなものが生み出される。
・その費用や利益をどう分けるのか?
・その流通にディズニーはどう責任を負うのか?
(描ききれないので詳細は本書で)
譲れない部分は以下で合意した。
・クリエイティブな判断の権限
ジョンラセター監督の映画はピクサーが最終決定権を持つ。米国興行成績1億ドル超のアニメ映画で監督あるいは共同監督を務めた実績のある人物が監督した映画もピクサーが最終決定権を持つ。それ以外の映画はディズニーとピクサーが共同で判断する。
・有利な公開時期
夏休みかクリスマスシーズンに公開すること、また十分な公開期間を取ることが定められた。つまりディズニー映画と同等に扱ってもらえる。
・収益は正しく折半
正しく折半することで合意した。配給の標準的な使用料金をディズニーに支払い、マーケティング費用を差し引いた残りをディズニーとピクサーで折半する。
・ピクサーブランド
「同等に見える」ようにピクサーのロゴを用いると規定された。大文字と小文字の違いがあっても同じサイズに見えるようにする。「ディズニー・ピクサー」という形でピクサー映画をマーケティングする。
なぜピクサーはディズニーに売却されたのか?
トイストーリー、カーズ、モンスターズインク、ファインディングニモ・・・大ヒットを10年間で連発したピクサー。ピクサー株の時価総額は15億ドルから60億ドルまで上昇した。太陽に近づきすぎた。どんなミスでも株価は一気に半減する。
今のばか高い評価(自己資本)を使って事業を多角化するか。むかしディズニーがやったように。もしくはディズニーに売るか。多角化するには経営陣の強化が必要。ピクサーの経営陣はアニメに特化してる。他の事業を検討して買収できるだけの能力も経験もない。それができる人材が必要。みつけるのはCEOであるジョブズの仕事になる。
だけどジョブズにはアップルの仕事もあるし、2003年から癌の治療を行っていた。手一杯だ。ピクサーの多角化は現実的ではない。
2006年1月24日。ディズニーはピクサーを74億ドルで買収すると発表。ピクサー株の50%を持つジョブズは40億ドル近い資産を持つことになる。またジョブズはディズニーの筆頭株主にもなった。
音楽を担当してるランディニューマンのおすすめは、ピアノ弾き語りのセルフカバー集です。Songbook2ではSame girlが名曲。「アイラブLA」の中でも耳に残る曲でしたが、好きな音楽家がけっこうカバーした。ホリーコールは2000年にカバー。グレンフライは2012年遺作でカバーしてます。
新作の④はまだ観てないんですが、トイストーリーは大好きです。
①が公開されたのはもう24年前なんですよね。
子供と共に②③と観てきて、子供も大人になり私も老いましたが、いまだに感涙の胸熱な作品です。
出てくるキャラクターも、ストーリーも、とてもよく出来てます。
この映画は、小さな子供が見て楽しむよりも、おとなが感慨深くなる作品だと思います。