ニンテンドーDSで「脳年齢」ブームを起こした著者。現在は産官学連携の疲労に関する研究の統括責任者。
『疲れているのは体じゃない。脳だった!疲労回復物質の存在が明らかになって以来、疲労に関する科学的調査が進んでいる。その結果私たちが日常的に使う「体が疲れている」とは、実は「脳の疲労」にほかならないことがわかった。疲労のメカニズムとは何か、最新のエビデンスをもとに解説する。また真に有効な抗疲労対策や乳酸、活性酸素、紫外線、睡眠との関係なども明らかにし、疲労解消の実践術を提示する』
(目次)
はじめに 疲労を科学することとは
第一章 疲労の原因は脳にあり
第二章 疲労の原因物質とは
第三章 日常的な疲労の原因はいびきにあった
第四章 科学で判明した脳疲労を改善する食事成分
第五章 「ゆらぎ」のある生活で脳疲労を軽減する
第六章 脳疲労を軽減するためにワーキングメモリを鍛える』
以下に読書メモを。
疲労の原因は何か
疲労の原因はエネルギーの枯渇ではない。「細胞のサビ」が原因。酸化ストレス。
疲労は細胞が酸化ストレスにさらされることでさびてしまい、細胞本来の機能を維持できなくなることで起こる。体のどこが酸化ストレスがもっとも激しいか?
研究によると、4時間体に負荷を与える運動を続けても、じつは筋肉や肝機能にはほとんど影響しない。
運動が激しくなると、脳の自律神経の中枢での処理が増加する。その結果、脳の細胞で活性酸素が発生し、酸化ストレスの状態にさらされることでさびつき、本来の自律神経の機能が果たせなくなる。これが脳で疲労が生じてる状態。そのとき人は、「体が疲れた」というシグナルを眼窩前頭野におくり、疲労感として自覚する。
眼精疲労の原因も自律神経
自律神経と目のピント合わせの基本的な関係は、ヒトが野生の環境に暮らしているときに確立した。交感神経は緊張時や攻撃時に優位となり、副交感神経は弛緩時や休息時に優位になる。
緊張時は外敵や獲物を発見するために交感神経優位となり遠くにピントを合わす。休息時は仲間や食べ物など近くにピントを合わす。
しかし仕事時は野生の環境と正反対の状況になっている。仕事時は交感神経優位で遠くに焦点を合わせようとするが、デスクワークでパソコンなど近くを見る。これが自律神経の作用に矛盾を生じさせる。それが長く続くと自律神経の中枢が疲弊し、眼精疲労として表出する。
「疲れ目」は目薬やホットタオルで症状は改善するが、眼精疲労は解決しない。デスクワーク中は、頻繁に席を立って休憩をとり、遠くの景色を眺めるなどして、交感神経と副交感神経のバランスをとる必要がある。
乳酸は疲労の原因ではない
長らく医学界では疲労の原因は乳酸とされていたが、現在の医学では否定された。乳酸=疲労物質説の源流は、1929年のヒル(ノーベル生理学賞受賞)のカエルの実験と論文による。
最新の研究では、乳酸の増加とそれにともなう酸性化は、むしろ筋肉の活動を促進することがわかった。では何が原因なのか。それは脳内で神経細胞を攻撃している「活性酸素」。
活性酸素は老化やシミ・シワ、白内障などの原因になる。呼吸で取り入れる酸素のうち、1~2%は活性酸素に変化する。
活性酸素の酸化作用は、細胞や組織を壊すが、ウィルスなどの外敵も攻撃する。「抗酸化酵素」とバランスしてるときはいいが、その働きは加齢とともに弱まり、防御力は年々低下する。
疲労を回復する成分、イミダペプチド
2003年より産官学連携で研究している「疲労が軽減する食成分」。23種類の成分(ビタミンC、コエンザイム、カフェイン・・・etc.)を評価した。もっとも効果的だというエビデンスが得られたのが、イミダペプチド。何に含まれるかというと、鶏の胸肉。
鳥が長時間疲れずに羽を動かして飛び続けるために、胸肉に抗疲労成分が大量に含まれている。鶏の胸肉だけでなく、渡り鳥と同じように海を回遊する、マグロやカツオなどの大型魚にも含まれる。マグロやカツオは泳ぎを止めると窒息死するので、寝てる間も尾びれを動かす。尾びれに近い筋肉に、イミダペプチドが含まれる。
疲労を引き起こす原因は、活性酸素による酸化ストレス。イミダペプチドには酸化ストレスを軽減する抗酸化作用があり、それが疲労を軽減する。
抗酸化作用をもつものは、ビタミンエース(A,C,E)、植物の苦みの成分である「ポリフェノール」、などイミダペプチド以外にもある。それらは残念ながら脳の疲労は軽減できない。酸化ストレスに対抗し続ける持続力がかなり違う。
鶏の胸肉をどれだけ食べればよいか
脳内で持続的に酸化ストレスを減らして、抗酸化効果を発揮し続けるには、1日当たり200mgのイミダペプチドをとるのが有効である。最低2週間ほどとり続けると抗疲労効果が現れる。具体的には鶏の胸肉を1日100g食べる。比較的安価で、さいきんはコンビニでサラダ用に加工されたタイプが買える。牛や豚でもイミダペプチドは含まれるが、牛なら1日400g食べる必要がある。非現実的。
ゆらぎは脳疲労を軽減する
森林浴で樹木の香り成分の「フィトンチッド」、滝つぼの「マイナスイオン」などがもたらすリラックス作用。これらは疲労を軽減しない。では何が森林のヒーリング効果をもたらすのか。その答えは「ゆらぎ」。
「不規則な規則性」を持つ現象をゆらぎと呼ぶ。人の生体もつねにゆらいでおり、自然環境のゆらぎと人体のゆらぎがシンクロすることが心地よさをもたらす。
疲労に強い脳をつくる
ワーキングメモリを鍛える。脳の働きの一つで、作業記憶と呼ばれる。リアルタイムでインプットされる情報(短期記憶)を受け入れながら、過去の記憶、学習、理解(長期記憶)と結びつけて複数のことを同時に考える脳の力。ワーキングメモリが優れているということは、脳全体をうまく活用し、複雑な作業を省力化し、効率よく行う能力が高いことを意味する。
鍛えるためには3つの方法がある。
1つ、ものごとを多面的に見る。
エピソード記憶(タグつけ)が多い記憶ほど検索しやすい。そこに感動が伴うと検索効率はさらに向上する。
2つ、多くの人と会話してコミュニケーションする。
メールのみのやりとりは、ワーキングメモリの活用度は数段低い。
3つ、多趣味になる。
たくさんの趣味があるほど、様々な分野の事柄に感動しやすくなり、タグつけされた記憶が増えていく。