相変わらず面白い猫組長と渡邉哲也の対談本。
18年7月3日の中国の海南航空集団会長、王健氏のフランスでの転落事故死。海南航空集団はM&Aで急成長を遂げた。ヒルトンホテルの筆頭株主、ドイツ銀行も手中に収めた。現地警察は「事故死」で処理したけど国際社会はそれを素直に受け止めてない。
海南航空集団は習近平や王岐山の関与で急成長を遂げたとされている。しかし債務は膨張して資金繰りが悪化。18年には大量の資産売却を打ち出していた。18年時点で有利子負債は13兆円。実質的な破綻状態。資産売却を打ち出した矢先の「転落事故死」。王健氏はアンチ王岐山の筆頭。転落事故死の後、王岐山派が会社のトップになった。王岐山をめぐる利権闘争とみられている。
猫組長に相談があったのはシノペックグループ。中国3大国有石油会社の1つ。猫組長の石油ビジネスの取引先がシノペックの子会社。シノペックのスタッフで仲良くしてる人がいて、「怖くて中国に帰れないからマレーシアに亡命したい」と。話を聞くとシノペックの幹部がフランスに出張に行って、2人が行方不明で1人が事故死したそう。この1件はニュースにもなってない。こちらは習近平派と反習近平派との争いが背景。
米中の貿易戦争で追い詰められて中国内の権力闘争が活性化し、暗殺が横行してるのが中国の現状。
グローバリズムは終焉して、世界は第一次大戦前のブロック経済になってきてる。いまは核があるので全面戦争はないけど。
経済でいえば「ドイツ、中国」連合vs「米、英、加、仏・・」。ロシアは中国が最大の敵。両国ともユーラシアの王でありたい。敵の敵は味方でプーチンとトランプはそれなりに良好な関係。
G7でいうとイタリアはどうでもいいとして、日本は米につかざるを得ないんだけど、中国に近いし経済的にも密接やし、いろいろとかじ取りが難しいですね。この辺をメモしだすと丸ごとになってしまうので、ぜひ本書を一読ください。
あと何点かの読書メモを以下に。
ドイツ銀行の惨状
ドイツ銀行が発行した証券がひどい。メガバンクでユーロ建ての証券は通常65%くらいで取引される。18年7月に猫組長がやったときは最低価格が50%になってた。ドイツ銀行の証券は市場に余っていて安くしないと売れない。損失が尋常でなく不良債権もすごくていつ破綻してもおかしくない。フォルクスワーゲンやボッシュのメインバンクで、いずれの最大顧客も中国。中国とドイツは共存共栄の関係にある。
ドイツ銀行から中国系企業や事業へのややこしい投資が大量に行われている。バブルのころの日本の銀行と同じで、1億円の資産に5億円を貸し付けてる。日本ではぜんぶ焦げ付いた。18年6月にはドイツ銀行のアメリカ部門がFRBのストレスチェックで不合格になった。
損失が大きすぎるからそれを取り戻すためのリスクの高い投資しかしてない。これは投資でも投機でもなく博打の次元。
ハードクラッシュすると国際金融には迷惑。中国=ドイツで国ごとアメリカの経済圏から離して囲い込んで破綻させれば被害は少ない。ソ連のルーブルが破綻しても問題がなかったように。
マレーシアは今後伸びる投資先。理由はイスラム
2017年の世界金融センター指数で1位ロンドン、2位NY、3位シンガポール。香港は中国に侵食されて終わってる。
シンガポールのマネーの25%ほどがイスラミックマネー。「なぜイスラム教の大切なお金を、非イスラム教国のシンガポールに預けなければならないのか」ということはイスラム圏では長く議論されていた。そこでマレーシアは政府、民間が一体となってTRXを世界一のイスラム金融センターにしようとしている。マレーシアの国教はイスラム教。シャリーアや各宗派の複雑な金利に対するハラームを受け入れる、イスラミック金融とスキームとハラームをTRX一か所で制することができたら、シンガポールの25%のマネーはマレーシアに行く。
これが成立したらペトロダラーの何割かが産油国からも流れてくる。それは世界のマネーの4分の1を扱うということ。その意味でマレーシアは来年以降注目すべき投資先となる。
中国は進出先ではなくなる
いくら中国で稼いでも資本規制があるから日本に持って帰れない。バランスシートの上で現地では儲かっているというだけの話。国際化というのは国から出ていくということでなく、得たものを持って帰って初めて成立する。
猫組長によると昔は大丈夫だった。でも資本規制後は現地で貯めておくか、許可を取って現金で持ち帰るしかない。現地の不動産を売ってもその利益はそのまま。
中国人は華僑ネットワークを持っていて日本にもたくさんある。彼らは地下銀行が発達していて、現地の窓口企業を通して輸出物を買って支払って、日本の窓口企業に製品を送って円でもらう。手数料がすごく安くて中国系商社や貿易業の決算は地下銀行を使って行われる。
中東で販売してるフェラーリも同じ構図。資金移転用の商品にぴったり。相手国で確実に売れるから現地でフェラーリを買って、運び先の窓口業者に売る。
いくら決算の方法があるといっても、今の中国はやめておいたほうがいい。政治リスクが大きすぎるし賃金も高い。「一帯一路」とか「中国製造2025」と勇ましいが、もう投資先としての中国の時代はとっくに終わっていて、いまはその末期段階。
2015年の中国株大暴落からだましだましやってきたが、アメリカとの関係悪化で一気に噴出する気配となっている。
日本政府は早急に日本企業の中国撤退支援のセクションをつくらなければならない。進出進出と煽ったのだから、道義的にも戻る支援はすべき。
アメリカはなぜテスラの中国進出を許したのか?
電気自動車の最新技術はバッテリー。現在までに蓄電池についての決定的技術的アドバンテージは望めない。アメリカがテスラを中国に出したのは、テスラにはもはや国内に保持しておくべき最新の技術がないと判断したから。
VWがEV、シャーシ、タイヤのベースキッドだけを1台40~50万円で世界中で販売しようとしているそう。屋根だけくっつけて売ればいいという、ゴーカートの最新版のイメージ。こうなるとテスラのアドバンテージはなくなる。
アフター・ビットコイン
やくざがみんなやってたビットコイン。仮想通貨取引には銀行口座が必要。暴力団員は銀行口座を所有できないので、自己破産した人の銀行口座を売買するが、そうした闇口座の相場が上がるほどだった。世界中の犯罪組織が投機対象としてだけではなく、マネーロンダリングのツールとして利用していた。
18年3月21日G20で仮想通貨をFATFが管轄することに決まった。黒い動きが規制されることになった。これによって投機対象としての仮想通貨は完全に終了した。ただし仮想通貨自体は終わらないし、これからも伸びていく。適正な価格で本来の意味の仮想通貨になる。
今後は「ソブリン・クリプト・カレンシー」の開発へと進む。ソブリンとは独立国家の意味。「クリプトカレンシー」は直訳すると「暗号通貨」。これが日本語では「仮想通貨」と訳されて一般になった。国家(中央銀行)が発行する仮想通貨へと進んでいく。
道路とクルマ。道路には信号もルールもある。無規制な状態で資金移転を可能にするような仮想通貨を、既存の文明が許すはずがない。「公共の福祉」を毀損してしまう。普及させるなら規制の下でというのは当たり前。
「G7でいうとイタリアはどうでもいいとして…..」
第二次世界大戦を考えると怖くなる….