まずゲーム理論。
ゲーム理論とは「知恵で勝つ科学」です。「戦い方」や「交渉術」の現代的な体系。アメリカ最初のコンピュータを原爆の設計に利用しようとした、ジョン・フォン・ノイマンという科学者がこの科学の創始者です。
マクロ経済学のベースにはミクロ経済学があり、近年のミクロ経済学の発展には、ゲーム理論の功績が大きい。やっぱり価格は需給曲線で決まるとマーシャルが言っても、ライバル企業がどう動くかで自分の利益は変わってきます。相手の動きを読みあう必要が出てくる。
もっとも有名な「囚人のジレンマ」とは?
ゲーム理論で一番有名なのは「囚人のジレンマ」。
2人の犯罪者が警察に捕まり、検事にこう言われます。
①2人とも黙秘(協調)するなら、2人とも懲役1年 ②おまえだけ自白(裏切り)したら釈放する。ただしもう一人が黙秘したら、そいつは懲役10年だ。 ③2人とも自白(裏切り)したら、2人とも懲役5年だ。 |
じつはこれは現実の社会をよく映してるゲームです。だからゲーム理論のなかでもっとも重要なゲームの1つだと考えられています。値引き競争が同じような構造です。
A店とB店はライバル店です。値引き販売について。
①両店とも値引きをしなければ(協調)、両店とも増減益ゼロ ②A店だけ値引きすれば(裏切り)、A店は増益5、B店は減益10 ③両店とも値引きすれば、両店とも減益5 |
囚人のジレンマを200回行い、一番強いコンピュータプログラムを決めるコンテストが1980年に行なわれました。優勝プログラムのサイズは、たった4行で最も短いプログラムでした。
①最初は協調で戦う ②もし相手が協調なら、次の回も協調を行なう ③もし相手が裏切りなら、次の回は裏切りを行なう ④これを繰り返すだけ |
相手が裏切ったときに、即座に裏切りで返すので、「しっぺ返し戦略」と言われます。なぜ「しっぺ返し」が優勝したのか。ほかのプログラムはときどき勝っても、負けたときに大敗しました。
しっぺ返しは「損失最小戦略(ミニマックス戦略)」に徹したプログラムだったのです。「損失最小」こそが、ゲーム理論の極意中の極意です。勝たないけど負けたときの失点が少ないので、総合点では以外にも優勝してしまうのです。
700年前の徒然草に同じことが書かれてた
(勝とうと思うな)
双六の上手な人にその秘訣を尋ねたところ「勝とうと思って打ってはいけない。負けないようにしようと打つべきである。どの手が早くに負けるかと思案して、その最悪の手を使わずに、少しでも遅く負けるほうの手を選ぶべきである」身を治め、国を保つ道もこれと同じである。
大政奉還は快挙だった
日本を内戦で疲弊させ、その後に植民地化しようという「漁夫の利」戦略であった可能性が非常に高い。日本には多数の武士がいて、外国人に斬りつける事件が絶えない危険な国だった。
イギリスは一度戦った薩長に最新の武器を売りつける。幕府にはフランスが同様に武器を売りつける。
日本が内戦で疲れ果てるのを待っていた海外列強は、大政奉還、新政府樹立に仰天した。「しまった、謀られたか」海外列強の策略に乗ったと見せかけ、その間に両軍とも「近代軍備」を充実させてしまい、突然手を結んだからだ。
とくに海軍力を増強したので、新政府が発足したときには、列強も相当の犠牲を覚悟しないと攻められない状況になったのだ。
死者も少なかった。鳥羽伏見の戦いは、明治維新の新政府軍5000人が、旧幕府軍1万5000人に戦いを挑んだ激戦だった。何人が戦死したか?新政府軍110人、旧幕府軍280人にすぎなかった。
長州藩の総兵力1万1000人余りに対して、その後の各地の戦争を含めても、明治維新での死者はたった310人、負傷者は590人ほどだった。
日本の歴史上の戦争というのは、たいていの場合にたいした死者を出さなかった。敵の死者でさえなるべく少なくして、大将の首さえ取れば終わりだった。農業国だったからだ。
農業は多大な人手を要する。他国の国民を大量に殺して、国土を荒れ果てさせると、そ国を手に入れても豊かな農業を営めない。そのため大将の首さえ取れば、戦争に勝ったとみなす習慣が自然に出来上がった。
戦後教育は戦略思考法を教えず
戦前は知略の伝統が世の中に浸透していた。小学校の教材にもなっていた。「尋常小学校国語読本12巻」には、勝海舟と西郷隆盛の江戸城開城交渉が教材として使われている。
「西郷どん。このまま戦うと外国に日本を乗っ取られてしまう。徳川の存亡などは小事にすぎませんぞ」
「勝さん。確かにこのままでは国内がこじれる。明日の江戸城攻撃は、私の一命にかけて見合わせましょう」
この教材を用いれば、小学生にも海外列強に植民地化される瀬戸際を、知略で乗り切ったことが理解させれる。しかし戦後の教科書からはこのような教材はあきれるほど、すっぽり消えうせた。日本人の優れた知略などは、敗戦国には決して教えるべからずという。
結果的に現代のわれわれは、真の戦略思考法をほとんど知らない。
防衛の論理
J国では、隣国のC国が攻めてきそうなので、戦々恐々としている。もし戦えば両国ともに大被害だ。一方、無条件降伏したほうが、国民の被害がずっと少なくてすむ。きっとそうにちがいない、とC国側もJ国の事情を読んでいる。この状況ではJ国は占領される以外にないのだろうか?
このような状況下での常套的な手法は、次のように宣言してしまうことだ。「C国が攻めてくれば、わが国は徹底抗戦する」もし戦えば、C国側も大きな被害を受けて、損失が膨らまざるを得ない。そうなるぞとの脅しの一言。するとC国は非常に手を出しにくくなる。この宣言が戦争への大きな抑止力となる。
このような「先手の論理」は、アメリカと旧ソ連の「キューバ危機」の際にも用いられた。旧ソ連がキューバにミサイル基地を設置する動きに対して、ケネディ大統領は「徹底抗戦」を警告した。この一言で旧ソ連は退いた。
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