ウクライナ戦争は、欧米衰退のスイッチとなった可能性がある。
ロシアや中国を中心とした「新しい国際決済通貨の立ち上げ」と、それに基づく「BRICSを中心とした自立性の高い経済圏」の形成だ。
金融危機はいつ起こるのか?
今回は2023年から2025年の間に起こる可能性が高い。
以下に高島康司氏の著作から、今回の金融危機のメインシナリオを抜粋します。
ロシアによる新しい国際決済通貨の模索
・ドル建ての送金システム「SWIFT」からロシアの金融機関が排除されたが、ルーブルは過去7年間でもっとも高騰した。
・ロシアは輸出する原油や天然ガスの支払いをルーブルで求めているが、これに応じる国が多いことが背景となっている。
・中国、インド、トルコ、ブラジルなどの大国とロシアの貿易量は飛躍的に伸びており、これらの決済はルーブル、人民元、ルピーなどが使われている。
ペトロルーブルへの動き
・ルーブルが石油の決済通貨として使われる「ペトロルーブル」の概念が一部のエコノミストの間で注目されている。
・ドルの基軸通貨の基盤は石油の決済通貨としてのドルの使用。「ペトロドル」ならぬ「ペトロルーブル」の導入で今後の基軸通貨が大きく変化するのではないかという認識。
ペトロドルの歴史
・1971年ニクソン大統領はアメリカの金準備の流出を避けるため、国際的にドルと金の兌換を停止した。その結果ドルの価値は急落。
・ニクソンとキッシンジャーはOPECと重要な取り決めをした。OPECは石油をドル建てでしか売らない。そのドルはウォールストリートやロンドンシティの銀行に預けると同時に、米国債に充てるというもの。その見返りにアメリカはOPEC諸国を軍事的に防衛する。
・ドルの需要は大きくなり価値は安定。ドルはあらゆる分野で決済通貨として使われることになり、同時期にドルベースの国際決済送金ネットワークのSWIFTも設立。
・2000年にフセインがイラクの石油をユーロ建てで売り、アメリカと戦争。リビアのカダフィもそれに続いたところまたもやアメリカと戦争。
・エジプトのムバラク、スーダンのバシールも、金を担保にした新しい金融システムを確立しようとしたところ、スーダンは切り刻まれ、エジプトは政権交代となった。
ペトロルーブルの台頭
・ウクライナ戦争後、アメリカと同盟国はロシアをSWIFTから追放した。
・ロシアはこれに対抗し、天然ガスを非友好国に販売するときユーロやドルではなくルーブルのみで販売することを発表。アメリカ、イギリス、日本など48ヵ国。
・ロシア制裁に賛同しなかった世界の人口の半分以上はロシアの友好国。中国、インドなどの大国、トルコや「グローバルサウス」の国々が含まれる。
・現在エネルギー価格は高騰。ロシアは1日平均88億ドルの資源売却収入があり経常黒字は増加する一方だ。
・ロシアは欧州のエネルギー企業にルーブルによる支払いを認めさせた。中国やインドには割引価格で売っているが、エネルギー価格が高止まりしているのでロシアにとっては痛くない。
ルーブルを超えた共通決済通貨
・あまりルーブル高になってもロシアの輸出にとってはマイナスだ。そのためインドにはルピー、中国には人民元、トルコにはリラで石油を販売している。これらの国の通貨はそれらの国が販売する商品やサービスに使うことができる。
・しかしこのような複数の通貨によるグローバルシステムはデメリットもある。ロシアのエネルギー企業にルピーを使う需要がない場合「ロシア中央銀行」でルーブルに両替しなければならず、ルーブルの価値が高くなりすぎて輸出にマイナスとなる。
・この弱みを克服するためには、どの国の通貨とも交換可能な中間的な基軸通貨があったほうが便利。セルゲイ・グラジエフは新しい基軸通貨を提唱。
・EAEU(ユーラシア経済連合)と中国は新しい基軸通貨の設計に合意。これには「一帯一路」に参加した国だけでなく、「上海協力機構」や「ASEAN」の主要国も呼び込む可能性があり、米ドルに代わる重要な存在になる可能性がある。イラン、イラク、シリア、レバノンも必然的に関心をもつ。
・この新しい基軸通貨はいくつかの評価基準(GDPなど)や商品(貴金属、穀物など)の価格インデックスのバスケットに基づくとされている。早ければ2023年に姿を現すかもしれない。
金融危機
・次の金融危機は順当にいけば2023年頃、遅くとも2025年。現在の欧米中心の金融システムがリセットされる。
・民主主義vs専制主義は、神vs悪魔ではない。欧米のリベラルメディアを通してみると屈折し、世界の実態とはあまりにかけ離れている。
・「新G8」の出現。BRICSにイラン、インドネシア、トルコ、メキシコを加えた8か国は購買力平価当たりのGDPで、すでに現状のG7を凌駕している。
・脱ドル化である新基軸通貨。新G8に加えエジプトとサウジも加盟を検討。この動きはIMFを使ったアメリカ覇権主義への対処である。
・グローバルサウスの発展途上国は導入せざるを得ない状況にある。この導入が2023~2024年ごろに起こる金融危機につながる
・いま世界的にインフレのコントロールができない。アメリカやイギリスは消費者物価が9%を超え、EU全体では8.9%の上昇だ。どの地域でも40年ぶりの上昇。
・石油とガスはEUでは3倍価格になった。コロナが終わり急激に需要が回復しつつあるときに、ウクライナ戦争が勃発。エネルギーと食料価格は高騰。
・アメリカをはじめとした主要国は高インフレに対処するため、前例のないペースで利上げに踏み切った。これはドル買いやユーロ買いになり、利上げに消極的な国々の通貨価値が大きく下落した。
・とくにこれはグローバルサウスの発展途上国には大きな痛手となっている。
・問題はインフレに苦しむ新興国や途上国の政府の多くが、ドル建ての債務を抱えていることだ。アメリカの金利が上昇すると、ドル建ての国債を発行している国々の利払い費も同様に高くなる。財政はさらに苦しくなる。
・2021年末でIMFによると米ドル建ての債権は世界の外貨準備の54.78%を占め、ユーロ、円、ポンド、人民元など他のハードカレンシーを大きく上回っている。
・途上国や新興国はデフォルトする場合もある。IMFに支援を求めることができるが、極端な緊縮政策の強要で、国内の天然資源、森林、水源が欧米資本に売却されることになる。さらに借金は増え悪循環となり脱することは困難となる。
・しかし中国、ロシアが主導する新国際決済通貨が立ち上がると、強力な選択肢ができる。脱ドル化の方向だ。
・新しい基軸通貨で輸出入を行うと、アメリカの金利上昇による為替変動の影響は受けない。通貨安によるインフレは回避できる。利払い費の上昇もない。無限債務の悪循環に陥ることもなくなる。
・ゴールドマンサックスは、ロシアに対する金融制裁は、ドル離れを促し、代替通貨を模索させるきっかけになると警告している。
・しかし今となってはアメリカが自国の国益に反する結果を回避するには遅すぎる。
・これらの動きによるドルの価値の下落が、次の金融危機の引き金となる。
脱ドル化の起こるタイミング
・脱ドル化は、高インフレをコントロールするため金利が大幅に引き上げられているタイミングで起きる。
・米国企業は長年による超低金利政策のために記録的な負債を抱えている。2006年の非金融部門の企業債務は9兆ドルだが現在は18兆ドルを超えている。そのうち約70%は「ジャンク」を少し上回る格付けだ。
・FRBによる度重なる利上げはこれらの限界企業を直撃している。金利の急上昇でローンの支払いができず、こうした企業の倒産ラッシュが続くだろう。化粧品大手のレブロンが倒産を宣言したばかりだ。
・さらに金利上昇で債券市場も大きく下落する。じつは世界の金融システムは株式市場ではない。国債、社債、代理店債などの債券市場だ。
・この債券市場は金利が上昇したため価値を失いつつある。世界的には250兆ドルもの資産価値があるが、金利が上昇するたびにその価値は低下している。債権の価値がこれほど大きく反転したのは、40年前のポールボルカー時代に、インフレを抑えるために金利を20%にした以来である。
・そして債権価値が下がれば銀行の資本価値が下がる。しかし2008年とは異なり、今日の中央銀行にはもはや銀行を救済する余力はなく、ゼロ金利と量的緩和の10年を再び繰り返すことはできない。
・すでにインフレと金利上昇で金融システムの巻き返しが始まっているタイミングで、中国ロシアの主導する新国際基軸通貨による脱ドル化の動きが始まるのだ。
・脱ドル化はインフレと金利上昇の影響を最も受けるグローバルサウスの国から始まり、急速にG20やBRICS諸国にも拡大していく。
・そしてこの脱ドル化はドル安を引き起こし、かねてから金利上昇で下落している債券市場の相場を暴落させることになる。
・この金融危機で、現在のグローバル資本主義を基本的に主導している新自由主義の金融システムは終焉をむかえるだろう。
以下に菅沼光弘(公安の対外情報の元トップ。東大法学部卒)の地政学本から「ウクライナ戦争の真実」に関するメモを。今回の金融危機はウクライナが起点。根本の理解が必要。
ウクライナ問題の真実
・根底にあるのはブレジンスキー(2017年没)の世界戦略。いまの国務省その他はみんなブレジンスキーの弟子たちばかり。
・ブレジンスキーのロシアに対する見解。「神はロシアに対して非常に不平等な富を与えた」
・ロシアは食料を自給できる。エネルギーもある、希少金属もある。こんな不平等なことはない。だから我々はこの国を3分割しよう。1つは欧州ロシア、1つはシベリア、もう1つは極東ロシア。これが我々の基本戦略だ。とブレジンスキーは書いている。
・今回ブレジンスキーの意を受けたネオコンがウクライナ侵攻の理論的な基礎をつくった。
・ネオコンの人たちはもともとトロツキストと呼ばれた。ロシア革命のときのトロツキーらユダヤ人左翼の仲間だった人たち。
・それまでロシアもユダヤ人を徹底的にいじめていた。いまのウクライナ人とロシア人はユダヤ人をいじめまくった。その答えがロシア革命だった。
・レーニン、トロツキーはロシアという帝政国家をぶっ壊してしまった。しかしその後スターリンとの間で革命路線の違いで対立が生じる。
・スターリンは一国社会主義、トロツキーは永続革命。結局トロツキーは同志と共にメキシコに逃げた。
・しかしスターリンはメキシコまで刺客を送ってトロツキーを殺した。残ったトロツキーの同志たちはアメリカに亡命した。
・このトロツキーのかつての同志たちがアメリカの民主党に入った。
・この民主党に入ったトロツキストたちにとって、一国社会主義のソ連は敵だった。ところがケネディ(この人も民主党)が、ソ連と平和共存を始めたので民主党を離れて、共和党に移っっていった。
・今日この人たちは何を考えているのか?「自由と民主主義と共通の価値観、これで世界政府をつくろう」という考え。
・これをまさに実現しようとして、ネオコンの人たちはウクライナで戦争をしている。それはプーチンをぶっ潰せ、ということ。
・プーチンは「新ユーラシア主義」。ロシアの民族主義とか、ロシア帝国の復活とかに強いこだわりがある。
・こういう民族とか国家という存在が、ユダヤ人の迫害をもたらした。なぜならユダヤ人には国家がなかったから。もちろんイスラエルはできたがこんな小さな国では話にならない。
・世界に統一政府をつくって国家をすべて消滅させる。その手始めにプーチンを打倒しよう。
・これがウクライナ戦争を遂行しているネオコンの人たちの理論的なバックボーン。
・ブレジンスキーはソ連解体後もさまざまな策略を練った。東欧諸国の分離独立など。
・ブレジンスキーはポーランドの貴族だった。じつは彼の家の領地はいまのウクライナにあった。だからウクライナに対してはものすごく思い入れが強い。
・2014年のウクライナ政府(親ロ派)と反政府派の協定、ぶっつぶしたのはオバマ政権国務次官補のヴィクトリア・ヌーランド。この女性はユダヤ人。
・ウクライナという国はゴルダ・メイアなど歴代のイスラエル首相を輩出した国。ウクライナにはかつてものすごく多くのユダヤ人が住んでいた。その人たちが第二次大戦後イスラエルに帰って政界に出たりした。なのでウクライナとイスラエルの間にはものすごく深い政治的、経済的関係がある。
・もちろんユダヤ人ルートを通じて、ウクライナとアメリカのつながりも強い。
・このヴィクトリア・ヌーランドは現在「国務次官」に出世している。このヌーランドがユダヤコネクションをいろいろ画策して、ロシアに先に手を出させるよう仕向けた。
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