ブッカー賞作家、カズオ・イシグロ(日本語は話せない)の10年ぶりの長編作。
※2015年の記事です。古市憲寿コメント「みんなが記憶喪失になれば日本と韓国は友好国になれる」が話題になったので再掲します。2017年にイシグロはノーベル文学賞を受賞しました。
前作「私を離さないで」は感動したし、映画も見に行きました。「The Buried Giant」は15年3月に英語圏で発売され、日本語版は4月発売。世界的なベストセラーになり、ほぼ発売と同時に映画化も発表されました。
シンプルなストーリーです。昔からロードムービーは面白いし、ドラクエみたいな仲間と旅する物語も面白い。
「アクセルとベアトリスの老夫婦は、遠い地で暮らす息子に会うため、長年暮らした村を後にする。若い戦士、鬼に襲われた少年、老騎士……さまざまな人々に出会いながら、雨が降る荒れ野を渡り、森を抜け、謎の霧に満ちた大地を旅するふたりを待つものとは」
以下、あらすじに触れていきますので、予備知識なしで読みたい方はご注意を。
カズオイシグロのご尊顔
前作もそうですが、読み進めていくと物語後半で「なるほど」と謎が解決します。
舞台は6世紀のブリテン島。アーサー王が亡くなった直後の話です。ドラゴンや妖精がでてくるファンタジーな世界です。当時はそんなものかもしれません。
主人公は仲よく暮らす老夫婦。夫婦はケルト系のブリトン人です。
読んでるとあることに気づきます。この世界の人々はものすごく物忘れが激しい。記憶がすぐになくなっていくのです。どうも謎の霧が原因らしい。
喜びも忘れるけど、悲しみや憎しみも忘れていく。いいことなのか悪いことなのか。「できるなら 女房初期化してみたい 」サラリーマン川柳の傑作です。
老夫婦はうすれゆく記憶を求めて、かつて村を出た息子を探し旅に出ます。息子とどうやって別れたか、どこにいるかはっきり覚えていません。
旅を続ける中で、なぜ人々の記憶が薄れていくか理由がわかってきます。夫婦はともに楽しかった記憶を分かち合いたいとの思いで、記憶を薄れさす「霧の源」を排除しようと考えます。
全411pのなかで、369pに胸が揺さぶられます。
当時はゲルマン系サクソン人と、ケルト系ブリトン人が共存していました。2つの民族は戦いの中でお互い殺戮しあい憎しみあってましたが、記憶を薄れさせた「霧の源」のおかげで争いがなくなり、共存共栄していました。
途中まで記憶消去の「霧の源」を排除すべきだと思って読んでた読者は、ハタと気付きます。これは「霧の源」を排除しないほうがいいのではないか。
2つの民族が憎しみの記憶を思い出すと、ふたたび戦乱の世が訪れます。仲睦まじい老夫婦もどうなるかわかりません。
さてどのような結末を迎えるのか。息子には会えるのか。ぜひみなさんも読者となって楽しんでみてください。
ぼくは記憶は薄れたままのほうがいいと思うのですが、人は真実を知ろうとしてしまう。「知らぬが仏」とも言いますが、どっちがいいんでしょうね。
海からわき上がってくる霧♪
谷の鹿のようにヘザーをそよがせ♪
ぼくの記憶を取り戻してくれ♪
ポールマッカートニーで夢の旅人♪
イギリスでオールタイム4番目に売れたシングル。ちなみに1位はキャンドル~エルトン、2位はクリスマス~バンドエイド、3位はボヘミアン~クイーン。