「売れる作家の全技術・大沢在昌」要約まとめ 

「作家は、なることよりもあり続けることのほうがずっと難しい」
新宿鮫が累計600万部売れた大沢氏が、この本で何度も語ってることです。

編集者からの「大沢さんの小説のテクニックを誌面で伝授しませんか」という要請に応えた1冊。角川書店が生徒をつのり、選考で選ばれた12人に1年間で10回の講義を行なった記録です。講義の内容は、文章を書くうえで必要なテクニカルなものがたくさんあります。

・1人称の書き方を習得する
・強いキャラクターの作り方
・神視点と視点の乱れの違い
・プロットの作り方
・作品内のタイムテーブルはつくるべきか
・小説の「トゲ」とは何か
・もう一ひねりとは何か
・古典の引用で注意すべきこと
・複数の視点人物を登場させるには
・文章にリズムをもたせろ
・日本文学と海外文学の違い
・推敲の方法
・お気に入りの長編小説を30pごとに分解してみる
・読者はM、作者はS
・描写に困ったときの虎の巻

村上春樹が文壇村が大嫌いで一匹狼なのに比べて、北方謙三や大沢氏はとにかく文壇村の中心人物という印象が強いです。最近では「下町ロケット」の池井戸氏の直木賞受賞の飲み会が、文藝春秋に出ていました。あ~こういうところには村上春樹は行きたくないんだろうなぁと妙に納得しました。

大沢氏が言うには、パーティには積極的に参加して、出版関係者やいろんな作家と知り合いになるべし。自分の顔も売れる。「作家のライバル同士が実は一番の友人になれる」と。

ぼくも酒が好きだし、積極的に顔を売るほうが得策と考えるタイプです。だからこそか、本は村上春樹のほうが好きです。やっぱり自分にないストイックさに惹かれます。

豪快な人なんでしょうね。ひとつの出版社で部署ごと(文庫、雑誌、単行本)に担当者がついて、同じ日に「大沢先生接待」の伝票が複数経理にまわって、「どれが本物だ」とかいう事件も起こったそうです(笑)

以下に読書メモを。出版事情がよくわかります。



職業としての作家

日本に小説家は何人いるのか。仮に500人としてその8割は年収500万円以下。なかには200万円以下の人もいる。たとえば新人で長編小説を半年かけて書き上げる。初版部数は4000部、定価が1800円、印税は10%として収入は72万円になる。半年かけて72万円。コンビニのアルバイトより低い金額。

30年前に比べて今の出版市場は3分の1(ネット影響か)くらいに縮小している。つまり生き残る確率も入るお金も3分の1だ。

出版社側はどうか。だいたい定価の65%が出版社の取り分で、35%が取次ぎと書店の取り分になる。つまり1冊1800円で初版4000部の本をつくると65%の468万円が出版社の取り分で、これには作家の印税72万円、制作費、宣伝費、社員の給料、紙・印刷・製本代、全部が含まれている。4000部がすべて売れても出版社はほとんど儲からない。

初版が売れて儲けが出るには4万部ぐらい刷らなければダメ。いま日本で単行本を初版4万部刷れる作家は20人ぐらい。直木賞受賞作家でも初版1万部程度。

ここまではハードカバーの話。今は時代小説なんかは文庫書下ろし全盛の時代なのでさらに厳しい。文庫1冊600円。初版1万部として印税60万円。いまは文庫書下ろしの作家がいかに多いか。単行本の仕事も雑誌連載の仕事も依頼が来ないから。

雑誌連載の原稿料は400字詰め原稿用紙1枚3000円ぐらい。連載小説を1冊分400枚執筆した段階で120万円の出費を出版社はしている。だからこの元を取り返せそうもない作家には、連載は絶対に頼まない。「書き下ろしなら出してあげますよ。それも文庫書き下ろしです。60万円にしかならないけど、それでよかったら原稿を持ってきてください」

本を作る仕事は、ほとんどが元の取れない先行投資。初版4000部のうち800冊しか売れない本というのはゴロゴロある。ほとんど大損。ではなぜ出版社は本を作るのか。1人でも売れる人が出てくれば元が取れるから。50人の新人作家に書き下ろし頼んで、そのうち1人が大きくなれば、あとの49人はダメでも仕方ないというスタンス。

そんな文庫書き下ろしから始めて今もっとも稼いでいるのが、時代小説家の佐伯泰英。初版20万部、年間10冊書いてるから初版と重版の印税だけで年間2億4000万円くらい。そういう生活をしてる作家も確かにいる。でもそれは東野圭吾か佐伯泰英かという話だ。

作家の読書量

大沢在昌の場合は、高校2年のときに1年で1000冊読んだ。毎日3冊ずつ図書館の端から全部読んだ。23歳で作家デビューするまでも毎年500~1000冊読んだ。

ミステリーを書こうとする人には、基礎知識は絶対に必要。古今東西の名作、古典は一通り読んでいなければいけない。「読んでないからパクリじゃない」という理屈は通用しない。読んでないという時点でもうアウト。最低でも1000冊は読んでないと、ミステリーの賞に応募することはできない。ミステリーは基礎知識がない人間は書いてはいけないジャンル。

作家になるということは、コップの水。コップの中に読書量がどんどん溜まっていって、最後にあふれ出す。それが書きたいという情熱になる。

p.s.そういえば孫正義も3年の入院生活で3000冊の本を読んだと言ってましたが、コミュニケーションスキルの高い人は、たしかに本をたくさん読んでます。この本を読めばよくわかりますが、大沢氏も生徒の難しい質問に最適な言葉を選んでわかりやすく説明しています。

漢字とひらがな

漢字を使うことによって小説の雰囲気が変わってくる。赤川次郎の小説が漢字だらけになったり、京極夏彦の小説がひらがなだらけになったら世界観がまるでかわる。

物を書く人は、漢字をどの程度使って、どの言葉は漢字を使わないかの尺度は持っていたほうがいい。自分の文体のイメージができあがったら、なるべく読者の抱くイメージと違わない文体や漢字の使い方をするように意識すること。

大衆小説家
親愛なる編集者殿
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ビートルズでペーパーバックライター♪

The Beatles – Paperback Writer
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