【村上春樹翻訳ほとんど全仕事】読書メモ 

村上春樹の翻訳本カタログ集。

オールカラーでこれまで翻訳した本を、村上春樹の寸評で振り返る。そして柴田元幸(東大名誉教授、村上春樹の5歳下)との対談。これが面白い。

カタログページはこんな感じ。ちなみに最初の2冊、「マイ・ロストシティ」「僕が電話をかけている場所」は、80年代前半に買いました。アホ学生だったぼくが買うぐらいだから、けっこう売れてたんだとおもう。同時代の短編では、ピート・ハミルの「ニューヨーク・スケッチブック」も面白かった。「幸せの黄色いハンカチ」の原作者ね。

村上春樹翻訳ほとんど全仕事

村上春樹翻訳ほとんど全仕事

洒落てるでしょ。しかし70冊も訳してたとは知らなかった。デビューして38年、最初の翻訳書から35年。小説家としてこれだけ翻訳してるのは、森鴎外か村上春樹ぐらい。多くの作家は下訳をみながら翻訳しますが、村上春樹は下訳なしで自分で訳すそうです。ただし柴田元幸氏に、訳文をチェックしてもらうことが多いと。

作品として多いのはフィッツジェラルド、カポーティ、カーヴァー、チャンドラー。ざっとこの本から数えてみた。

レイモンド・カーヴァー17冊
レイモンド・チャンドラー6冊
スコット・フィッツジェラルド5冊
トマス・カポーティ5冊
クリス・ヴァン・オールズバーグ(絵本)12冊
ティム・オブライエン3冊
アーシュラ・グィン4冊
グレイス・ペイリー2冊
JDサリンジャー2冊
ビル・クロウ2冊
アンソロジー(寄せ集め)6冊
その他12冊

ん?全部足すと76冊になる・・たぶんぼくの数え間違い。ま、いいか。
全体感はこんなかんじです。

この本読んで、ぜひ読みたいと思った3冊。



(バースデイ・ストーリーズ)
誕生日をテーマにした短編小説をいろんなところから見つけてきて、全部自分で翻訳して、最後に自分で誕生日ものの短編小説を一つ書き下ろした本。

(心臓を貫かれて/マイケルギルモア)
奥さんからぜひ訳してほしいと頼まれた作品。奥さんが英語で読んで面白かったと。連続殺人犯で死刑になったゲイリーギルモアの実弟、マイケルギルモアが兄の話を書いた。ダークな因縁話というか怪談というか、人の業の年代記というか、読めば読むほどおっかない話。終始背筋に冷たいものを感じながら訳した。「ねじまき鳥クロニクル」を書いてた時に訳した本で、明るい話を訳してたら、「ねじまき鳥クロニクル」ももうちょっと違う小説になったかも。

(ティファニーで朝食を/トーマスカポーティ)
村上春樹がとても好きな作品。ほかに短編が3つついてる。この小説を翻訳するのは本当に楽しかったと。1961年の映画とはずいぶん内容が異なってる。

いや、ほかにも読みたい本はたくさんあります。便宜的に3冊だけ挙げましたが。本書は文庫本になったら買いたいな。手元に置いておきたい。

そのほかの読書メモを。



柴田元幸との出会い

「熊を放つ」のときに、翻訳チェッカーのチームを組織した。はじめての長編小説だったので編集者に相談。それまでは短編ばかりだった。ひととおりざっと訳したものを、ちゃんと英語のできる人に洗ってもらう。そのとき集められた5人の中に柴田さんがいた。

村上春樹があらっぽくどんどん翻訳をすすめて、それを5人にチェックしてもらって、それを村上春樹が手直しして、という手順。

いまなら5名も集めるのはお金もかかるしペイしない。「5人なんて、ちょっと君それは…」と会社に言われる。ただあの頃は、雑誌に広告がたくさん入ってお金が十分あった。

村上春樹は小説書くときに音楽を聴くのか?

小説を書くときは、あんまり音楽って聴けない。音楽が鳴っていても、集中してるからほとんど耳に入ってこない。翻訳だとテクニカルな領域の作業が多いから、音楽を聴きながらやれるのがいい。ボーカルはできれば入らないほうがいいと思うけど、とにかく翻訳は好きな音楽が聴けて楽しい。

英訳の翻訳者はわりと自由に訳す

(柴田)
村上さんの翻訳を何冊かチェックしましたけど、ちょっと言いすぎだったかな、とこのごろ思うようになって(笑)。

原文に’’very tired’’とあって「疲れている」とだけ訳してあったら、‘’very’’があるんだから「すごく疲れている」と強調を入れるように、という指摘を僕はしてきましたけど、字面どおり強調をそのまま訳すのが正しいかというと、そうとはぜんぜん限らないなと。

ここ数年日本語から英語に訳す作業にもつきあうようになったので、それでわかったんですが、英訳の翻訳者たちはもっと自由に考えるんです。全体としてこのくらいだろうなという感覚で、形容詞が3つくらい並ぶときも、訳すときはべつに1つでいいとか、あるいは逆に増やすとか、もっと自由にやってるんですよね。

カーヴァーは小説の師みたいなもの

(村上)
僕はカポーティとフィッツジェラルドがもともと好きで、その2人をやりたくて翻訳をはじめたようのもの。文体的にはあまり影響を受けてない。

一方カーヴァーは、僕にとってはある部分、小説の師みたいなもの。彼の63作の短編をぜんぶ訳した。ああいうシンプルでぶった切ったような文章で、確固とした豊かな文学世界を築き上げてる。

チャンドラーからはかなりの影響を受けてると思う。小説の文体に関していえば、それは確かです。チャンドラーは好きだけど、ミステリを書くことには全く興味はない。チャンドラーのあの独特の語法を、いわゆる純文学の世界に持ち込むという作業が、個人的にはすごく好きだった。

村上春樹の1日の時間配分

・朝の4時ごろ起きる。
・朝のうちに自分の小説の仕事を済ませる。
あとは時間があまる。ジムに行ったり走ったりするのは1~2時間ですむ。まだ暇がある。それで翻訳でもやろうかと、ついついやっちゃう。

朝のうちは翻訳はしない。朝は大事な時間なので、集中して自分の仕事をする。翻訳は午後の楽しみにとっておく。

日が暮れたら仕事はしない。野球観るか、映画観るか、音楽聴くか。遊びには行かない。外で遊んでもそんなに楽しくないし、つい翻訳に向かってしまう。ただ1日に翻訳をやれる時間は2時間ぐらい。頭が働かなくなって限界になる。

そういえば、「村上ソングス」って読まれました?

村上春樹が好きな曲を選んで、歌詞を訳して原詩と並べて、その曲についてエッセイ書いて、和田誠がイラストを描いた本。選曲はわりあいシブい。

歌詞翻訳は苦労したそうです。ニュアンスを出さなくちゃいけないけど、使える言葉の量は限られてるから。その本の中で特に気に入ってるのは2曲だそうで。

アニタ・オデイの「孤独は井戸♪」
シェリル・クロウの「生きてるうちにしたいこと♪」

洗車場の横のバーで♪
火曜の昼間にビール飲んでたら♪
「死ぬ前にちょっとだけ 楽しまない」♪
って くだらない男にナンパされちゃった♪
ウィリアムって名乗ったけど ほんとはビリーとかマックだとおもう♪

まともな人は♪
昼間っからこんなところで ビールなんか飲んでないよ♪
わたしたちは 真面目な人とは人種がちがうのかな♪

わたしは ちょっと楽しみたいだけ♪
わたしだけじゃない みんなもそうでしょ♪

幸せそうなカップルがバーに入ってきた♪
ビリーはバドワイザのラベルをはがして 悪態をついてる♪

それでもこのバーは わたしたちのもの♪
少し楽しめれば それでいいじゃない♪

シェリルクロウでAll I wanna do♪
すいません、「村上ソングス」は手元にないので、歌詞は村上春樹訳じゃないです。
ぼくが勝手に意訳したもの。あらためて歌詞よむと、退廃的ないい歌ですね♪
同じようなフィーリングを感じたこと、みんなあると思う。

Sheryl Crow – "All I Wanna Do" – LIVE @ Roseland
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