【奇跡のスーパーマーケット・マーケットバスケット】あらすじと感想

「彼らは本当にアメリカ中の、全国民の関心をかきたてた」
アメリカ労働省ペレス長官の、2014年11月の言葉です。

米国マサチューセッツ州に本拠をおく、スーパーマーケット「マーケット・バスケット」。取締役会がCEOを解任したことに、2014年夏、何千人もの人々が怒った。

アーサー・TをCEOに復帰させるよう、従業員と顧客が大規模なデモを行った。その抗議運動はやがて東海岸のいくつかの州をまたぎ拡大。何と参加者は200万人を超えた。

愛する会社とその文化を救うため、従業員、顧客、取引先、議員、地域社会の人々が結束したことは前代未聞。



マーケットバスケット社は、マサチューセッツ州、ニューハンプシャー州、メイン州の3州に70数店舗。個人商店の雰囲気を残した、売上額45億ドルのスーパーマーケット・チェーンです。

毎週200万人以上の人々が買い物する。その多くは地元の低所得者。会社が直接雇用する従業員は2万5千人以上。倒産すると大きな影響が出る。

価格は安い。というより非常に安い。商品ひとつひとつを競合店と比べると、マーケットバスケットのほうが安いと誰もがいう。

マーケットバスケットは家族経営で、それは100年前の創業時から変わらない。他社が何百万ドルもかけて実施するブランド戦略を、一切行ってない。しかし消費者調査では上位にランクする。

米国小売チェーン、50社以上の消費者評価で第7位(品質、価格、清潔さ)。価格だけを見れば最高評価だった。

なぜこんなにも大きな騒動になったのか。この件は映画も2本作られたので、知ってる人も多いとおもう。

「善と悪」の戦いという人もいる。
「従業員、顧客、取引先、地域社会」vs「株主」の戦いだった。

ニューイングランドで、最も尊敬された企業が崩壊の危機に追い込まれた。そのとき人々は立ち上がり、それは全米を巻き込む大きなうねりとなった。

解任されたCEOはアーサー・テレマコス。人は彼をアーティーと呼ぶ。40年以上をマーケットバスケットに捧げ、6年以上CEOを務め業績は絶好調だった。

アーティーは独自の企業文化を育てた。従業員の福利厚生として、利益分配制度や、毎年4桁以上の賞与、家族介護のための有給休暇、大学へ通う従業員への奨学金など。

買い物客には低価格にして高品質、優れた顧客サービスを提供した。納入業者とは柔軟な取引をした。倒産の危機にある取引先を救ったこともある。マーケットバスケットは絶対に裏切らない。

アーティーの対立側には、株主の過半数と取締役7人のうち5人がいた。この一派はアーティのいとこでライバルだった。

彼らの狙いはレバリッジの実施だった。多額のお金を借りて流動資産の余裕を増やしたうえで、3億ドルの配当を得ようとした。継続的に多額の配当が出るようになったあかつきには、競合店の親会社(世界有数の小売デレーズ。本社ベルギー)に株式売却をする計画だった。一言でいえば資本主義の徹底。経済原理の追及。

問題はCEOのアーティ。「カネより人」を尊重するアーティは目の上のたんこぶだった。そのためアーティは追放され、新たに2人のCEOが外部から迎え入れられた。

この絶体絶命の危機に、従業員、地域の顧客、地元の取引先はどうやって戦ったのか。涙なしに読めない1冊です。ぜひ一度、ご自分で読んでみてください。

以下に要約読書メモを。ネタバレ含みます。



「マーケットバスケット」の企業文化

独特の企業文化だ。ほぼすべてのレジがオープンしてる。各レジは2人体制で若い女性がレジを担当し、髪を短く切りそろえた若い男性が袋詰めをする。他のチェーンで盛んに導入される、セルフレジ機はここにはない。アーティーは言う。「血の通った接客をする」。

名札には在籍年数が書かれている。長く勤めてる人が多い。通路を進むと、納品されてすぐに売り場に運ばれたダンボールをよけながら歩くことになる。この店では買い物客がいる日中に商品の補充作業をする。これにはいい点がある。他のチェーン店より閉店時間が早く、従業員が早く帰れる。いつも、どの通路にも従業員がいるので、従業員に容易に尋ねることができる。

人材は社内から登用する。競合他社は優秀なビジネススクール出身者を採用する。マーケットバスケットはビジネススクール卒業の人材を雇うことはない。マーケットバスケットには経営学修士を持つ人から多数の願書が送られてくる。しかし採用しない。マーケットバスケットでは誰もが同じように袋詰め係や、ショッピングカート整理係などからスタートしなければならない。

昇進は年功序列ではない。社歴の長さを評価はするが昇進の基準にはしない。武道の昇格とよく似る。現在のレベルに要求される技術の習熟度を示すと上の階級にすすめる。競争相手は見える範囲内にいる。

大手企業なのにウェブサイトすら持ってない。意志をもって群れから距離を置く。公式サイトはないが、1人の客が開いたサイトはある。ここには特売情報やチラシ、クーポン、沿革などが紹介されてる。運営者は特売情報を得るのに苦労したので、自力で情報を得てそれを公開した。月間のビジター数は120万人。非公式な個人のサイトとしては大きな数字。

対立側の作戦

大規模な抗議運動とストライキが起こった。しかし従業員にも生活があり参加しない人もいる。昇進をちらつかせて分断工作も行われた。

物流センターも抗議し商品の供給を止め、店舗の売上が大きく落ち込んでも、新しいCEOやアーティの対立側は楽観視していた。

十分な商品を取りそろえることができれば、抗議運動に対して持ちこたえられる。その間にアーティーを支援する従業員や幹部たちに変わる人材を雇用しようと考えた。そうすれば経営を再び軌道に戻し、会社を売却する準備が整う。

しかし1つだけ誤算があった。彼らはマーケットバケットを愛する顧客のことを計算に入れてなかった。

顧客たちの戦い

大好きなマーケットバスケットを守りたい。新CEOの意見広告に顧客は怒り、顧客たちは自分たちで意見広告を出した。広告資金はクラウドファンディングで数日で2万ドル以上集まった。残金は1か月以上に及ぶストライキで無給の従業員たちの生活費支援に回された。

マーケットバスケットの現CEO、取締役会、および株主の皆さんへ

不買運動はマーケットバスケットの従業員によるものではなく、客によるものです。

不買運動をしているのは、あなたの客なのです。

売上をもたらすのは、あなたの客なのです。

企業の命運を握るのは、あなたの客なのです。

アーサー・TがCEOに復帰するまで、マーケットバスケットで買い物をしないと決めたのは、あなたの客なのです。

この広告料を払ったのは、あなたの客なのです。

あなた方は客をクビにできない。

私たちが買い物しないのだ』

この意見広告は全米で大反響を巻き起こした。

マーケットバスケットはどうなったのか

1か月以上のストライキとなり、全米の大きな注目を集めた騒動。民主党、共和党の超党派の議員たち、2週の州知事が仲裁した。

アーティは、対立側が所有する株式を購入することを提案し話し合った。買収希望の各企業は、不満を持つ従業員や顧客、納入業者をおそれて買収に腰が引けた。いくつかの交渉が暗礁に乗り上げ、最終的にアーティの申し出だけが残った。

アーティは抗議運動前の株式価値で算出し、15億ドルで買い上げることを提案した。その3分の2は複数の投資銀行からの借り入れと見られている。今後この返済は大きな課題となる。経営陣はこう総括した。「わが社は豊かな会社だ。しかしそれは金銭面ではなく、人の面で、だ」

アーティがCEOに復帰することが発表された時、お祭り騒ぎだったそうです。従業員は夜中から自発的に店に出社し、荒れた店を立て直した。みなが泣きながら抱き合った。店には早朝から客が押し掛け、商品はなかったけど買えるものはみんなが買った。

店ではファレル・ウィリアムスのハッピーがガンガンに鳴って、みんなが踊った。わたしたちは、戦いに勝ったんだと。

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