アップル、グーグルはなぜEVをあきらめたのか?~「EV新時代/桃田健史」より

昔はEV(電気自動車)が最もメジャーな車だったそうです。1900年初頭のアメリカで「EVのシェアは4割」。蒸気自動車も4割、ガソリン車は残りの2割だったそうで。

この状況はT型フォードの登場で一変する。EVはなぜガソリン車にとって代わられたか?

①製造コストと販売価格が高い。
②ガソリン車より航続距離が短い。
③充電インフラが整備されてない。
いわゆる「EVの三重苦」が原因です。

じつはこの三重苦、今もって解決されてない。

2017年夏からのEVシフトは、第5次EVブーム。これまでも何度か出ては消えた。第4次は2012年なので今回はわずか5年しかたってない。

なぜ第5次EVブームは起きたのか?第5次EVブームを仕掛けたのは、フォルクスワーゲンです。ディーゼル不正で、ブランドイメージが地に落ちた。その巻き返し、不正イメージ払拭のために、大掛かりな「EVシフト」をぶち上げた。

突如訪れた第5次EVブーム。
①VWの排ガス規制不正問題の反動をきっかけに。
②欧州CO2規制とNEV法(中国)という厳しい法規制を建前として。
③ジャーマン3(ダイムラ、VW、BMW)が巧妙に仕掛けた世界規模のマーケティング。
というのが背景だそうです。

以下に読書メモを。



第5次EVブームの違和感

第4次ブームの2012年からまだ5年しか経ってない。その間にリチウムイオン二次電池などで、技術開発が行われたとは到底思えない。「EVの三重苦」は、いまだに大きな課題として残っている。

BMWやマツダなどのディーゼル車は、満タンで1000キロ走行できる。テスラのもっとも大きい電気容量の電池パックで536キロ。半分に過ぎない。

EVで航続距離を伸ばすには、より大きな電池パックを搭載する。しかしEVは車体床下中央部に電池パックを収納するので、追加で収納できる余地がほとんどなく、航続距離を伸ばす方法がない。

同じ体積の電池でエネルギー量が高まることが期待されるが、近年中にリチウムイオン二次電池の性能が劇的に向上するのは難しいというのが、電池開発者の多くの見立てだ。

充電インフラは補助金制度により設置件数は伸びた。日産リーフのHPに記載があるが全国に2万8500基ある。そのうち約4分の1が直流による急速充電器で、残りが交流による普通充電。充電時間は急速で数十分(30~40分)、自宅や会社の交流充電で数時間。ガソリンの数分間を考えると利便性は低い。

そしてEVの価格はまだ高い。EVはガソリン車に比べると構成部品は3~4割少ないとされる。しかし主要部品であるモーター、バッテリー、インバーターなど制御装置の価格が高い。なかでもリチウムイオン二次電池は、過去5年で価格は半分になったが、それでも新車価格の4分の1程度を占める。

リチウムイオン電池の価格推移

2010年日産リーフの電池代は137万円。新車価格の約半分。その後LG化学、サムスンSDI、中国のBYDがコストダウンを進めた。2017年秋の段階で韓国LG化学の電池価格は、1キロワット時で1万8千円。米GMのシボレーボルトで使用しており同車の電池容量は60キロワット時。電池代は108万円で、新車価格424万円の25%に相当する。

なぜダイソンはEVに参入するのか?

英国政府の思惑もある。英国車は今は他国資本。ロールスロイスはBMW、ベントレーはVW、ジャガーとランドローバーはインドのタタ。アストンマーティンは中東のファンド、ロータスは中国の吉利。英国政府としては自動車産業を自国内に根付かせたい。英国発の世界的な高級家電ブランドであるダイソンに、英国自動車産業界の中核を任せたい。

日本の家電メーカーはダイソンを追従するのか?そうはならない。日系電機大手はすでに、車載器や画像認識向け半導体などの分野で、部品メーカーとして事業に取り組んでいる。部品メーカーが自動車大手を差し置いてEV完成車を製造することを躊躇する。

テスラのひとり勝ちは2020年に終わる

テスラはモデルS発売以降にZEVクレジットで大きな利益を得ている。2016年は約342億円。ライバルが増えるとクレジット販売ビジネスへの影響が大きい。

2020年からのフォルクスワーゲンGrによる、EV大キャンペーンによって様相は変わる。大衆向けにはフォルクスワーゲン、富裕層向けにはポルシェを投入。中間はアウディが埋める。

アストンマーティンと比べて安い。というテスラのモデルSの印象が顧客に対して通用した時期は終わる。ダイムラー、BMWも加わり、ジャーマン3によるテスラ潰しの動きが鮮明になる。



アップル、グーグルがEVをあきらめた理由

アップルはハードウェアとしての自動車の開発は行わない。自動運転機能の分野に集中する。アップルが目指すのは、EVや自動運転ではなく自動運転を管理するソフトや、クラウドとのデータ連携などの「システム」となった。

アップルが自動運転EVをあきらめた理由の1つは、VWによるEVシフト戦略。アップル自らが第5次EVブームを起こそうと思っていたところ、VW排ガス不正がおこり、その反動で自動車業界がEVシフトとなったことがアップルの誤算。

グーグルは2015年8月大規模な組織再編を行った。持ち株会社アルファベットを設立。この時点で7年間続けた自動運転の研究開発に見切りをつけたと思われる。この時期に自動運転の研究部門から主力エンジニアの多くが離職した。

その代わり自動運転システムをビジネスモデル化するため、北米現代社長だったクラフシック氏を雇用。15か月後に自動運転ビジネスをウェイモとして分社。ウェイモはFCAやホンダと自動運転のシステム構築を共同開発している。

次世代自動車ビジネスは競争環境が急激に変化している。ハードウェアとしての自動運転EVの製造販売は、現時点ではビジネスとしての旨味が少ないと判断したのではないか。

EV普及の最大の壁は何か?

最大の壁は充電時間の短縮と電池開発。高速道路SAやカーディーラでは、充電時間をめぐって客同士が口論になることがある。客が30分を過ぎても充電を終えようとしない。順番待ちしてる客が怒る。「急速充電は満充電の80%までに約30分間かかる」100%近くまで充電したい客がいるのだ。

EVの充電方法は2種類ある。1つは普通充電で、自宅や企業の交流を使う。電池容量や電圧で充電時間は変わるが、新型リーフの場合、出力3キロワットで16時間。メーカーオプションの6キロ充電器を使っても8時間かかる。もう1つは大出力直流による急速充電で、新型リーフでは満充電の80%まで40分かかる。

地図サービスのゼンリンの17年7月調べで、急速充電器は7108基。普通充電器は2万727基。

1933年型フォードがカッコイイ。ZZTOPでギミ・オール・ユア・ラヴィン♪ まだしばらくガソリン車でいいみたい。

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