円安の原因ははっきりしている。
高進するインフレをコントロールするために、主要先進国が連続的に実施している金利の引き上げである。一方日銀は金利引き上げによる景気後退のリスクをおそれ、金利を低く据え置いている。
この結果、資金の流れはアメリカのような高金利国に集中する。それが円売りドル買いを促進し、円安に拍車をかけている。
なぜ日銀は利上げできないのか?
実は日銀が利上げに踏み切れない本当の理由は、これが政府の財政危機に至るスイッチになる可能性があるからだ。アメリカの圧力ではない。むしろこれこそ、日銀が利上げを拒否し続ける理由である可能性が高い。これがどういうことなのか、簡単に説明しょう。
周知のように日銀は、いまでも続く「アベノミクス」の異次元的金融政策で毎年国債を大量に買っている。そのための資金として日銀は、日銀券(お金のこと)の追加発行で対応している。日銀券の流通量の増大が円安の背景にもなっている。
日銀のバランスシートでは、日銀券の発行は日銀の負債として計上される。 これは、日銀券が金の現物と交換可能であった金本位制の時代の名残である。その当時、日銀が保管している金は日銀券を保有するものに所有権があった。日銀券はいわば債務証書のようなものだった。金本位制が廃止された現在でも、この伝統が引き継がれている。
2021年末の時点で、日銀の総資産が約736兆円に対し、負債は約731兆円となっており、5兆円程度しか資産が負債を上回っていない。日銀のバランスシートは相当にタイトな状況になっている。
もちろん、これですぐに日銀が債務超過に陥るわけではない。だが、円安を抑制し、またインフレを抑えるために、金利を引き上げざるを得なくなると、債務超過に陥る可能性が出てくるのだ。
それというのも、日銀の負債の大半は、日銀券と民間銀行が預けている当座預金だからだ。いま新しい当座預金はマイナス金利になっているが、既存の預金には1%程度の金利がつく。他方で日銀は、保有する資産としての国債があるので、政府からの利払いがある。これは日銀の収入になる。
しかし、円安によるインフレを抑制する必要から金利を引き上げるか、または「アベノミクス」の出口戦略で金利を引き上げると、日銀が当座預金に支払う利子が、政府から受け取る国債の利払い費を上回り、逆ザヤになる可能性が出てくる。
さらに、金融緩和からの出口戦略の一環として、保有する国債を市場で売却しなければならなくなるかもしれない日銀は低金利の国債を高く買っている。しかし、これを売却する時点では金利を引き上げているので、国債を安く売ることになる。高く買った国債を安く売るということだ。これも日銀の損失を拡大させる。
すると、ただでさえタイトな日銀のバランスシートは悪化し、債務超過になる。そのような状態になると、日銀法では政府が日銀を資金的に支援する義務が発生する。すると、これまでのように日銀が国債を買って政府の経済政策を支えることはできなくなる。日本 政府の財政は逼迫し、 破綻の懸念も出てくる。
しかし問題はこれに止まらない。中央銀行の債務超過は過去にほとんど例がないので、これが起こると日銀の国際的な信用は失墜すると見られている。
それは、会社更生法で再建中の破綻した会社の株価が暴落することと似ている。日銀の信用は失墜し、それが発行する円の価値も一気に下落する。もちろん、国債の市場価格も暴落し、長期金利は急騰する。
このような状況になると、国民の側も自己防衛に走る。円の価値が極端に安くなり、インフレ率も急上昇するので、預金を引き出して土地や金を買ったり、国外への資金逃避が加速する。円をドルやユーロに変えるのだ。
そういう事態に陥ったとき、当初は中央銀行が政策金利をできる限り引き上げて、資金流出を止めようとする。しかし国際的な資金の移動が自由な今日、資金の流出は止められない。そうした国が採り得る手段となるのが、国際的な資本移動に規制をかけて資金の国外流出を防止する方法だ。
さらに政府は、国民が資産を保全するための不動産や貴金属の購買を抑制するために、預金の引き出し制限や最悪な場合は、預金封鎖も行う可能性がある。不動産や貴金属の買いにより、ただでさえ悪化しているインフレがさらに高進するのを防ぐためである。
さらにこれとともに、政府財政の行き詰まりがある。いま日銀の保有する国債は、2021年末の時点で736兆円だ。政府はこれに利子を支払っている。仮に日銀の金利が1%上昇すると、国債の利払い費は約6兆円も増加し、30兆円を突破する。これは日本の 国家予算の約30%にも及ぶ額だ。
このような状態に陥ると、政府の財盛運営には深刻な問題が出てくる。セイフティネットやあらゆる行政サービス、また医療分野などで大胆な予算削減をしなければならなくなる。また、財政を運営するために、国民の資産を一部差し押さえて、これに充てる必要も出てくるだろう。
実はこのような財政危機は比較的最近に、アイスランド、ギリシャ、キプロス、アイル ランドで起こったことだ。2008年のリーマンショック、及び2010年のPIGS諸国危機のときであった。日銀が債務超過に陥った場合、日本でもそう事態になりかねないのだ。
このように見ると、新国際決済通貨の導入に伴うグローバルな金融危機に先行して、日本の金融と財政が先に危機に陥るリスクがある。2022年は大丈夫かも知れないが、い まのような円安状態がこれからも継続すると、2023年か2024年には、日本の財政金融危機が顕在化するかもしれない。 要注意だ。
本記事は以下の図書より抜粋しました。