阪神がラッキーゾーンを復活すべき理由とは?|「セイバーメトリクスの落とし穴」より

過去10年に読んだ野球本で一番面白かった。野球ファンにお薦めの一冊。

インパクトは江本の「プロ野球を10倍楽しく見る方法」レベル。こんな本はなかった。

著者はネットを中心とした素人野球評論家です。素人だからこその熱量。ダルビッシュをはじめ多くの専門家からもフォローされてる。野球を科学してる。野球は「すごろく」みたいなボードゲーム要素の強い競技。なので主観を排除して統計、数値でこれを突き詰めたのがセイバーメトリクス。

いちばん有名なのはOPSでしょうか。OPS=出塁率+長打率。長打率は塁打÷打数。UZRとかWARもあります。打率とか古い概念なんですよね。より得点に影響する指標が重要視される。

変化球も知らない間に呼び方が変わってます。基本的な種類は10種類。フォーシーム、カーブ(スラーブ)、縦のカーブ、スライダー、スラッター、カッター、ツーシーム(シュート)、シンカー、スプリット(高速チェンジアップ)、ジャイロボール。

う~ん、完全に時代に取り残されてしまった。

いまMLBはエリートの人気就職先になってるそうです。野球経験を問わず優秀なビジネス人材が多く流入してる。その結果、人的要素を排除しすぎて野球がメタゲーム化してると。

目次は以下。

第1章 野球を再定義する
第2章 ピッチング論 前編(投球術編)
第3章 ピッチング論 後編(変化球編)
第4章 バッティング論
第5章 キャッチャー論
第6章 監督・采配論
第7章 球団経営・補強論
第8章 野球文化論

以下に読書メモを。



なぜ阪神のロサリオは打てなかったのか?

おそらく今、日本のストライクゾーンは世界一広い。2011年東日本大震災で電力供給に不安があったため、試合時間短縮のため左右のゾーンが広がり「迷ったらストライク」という理不尽な通達すらあった。今も反対側の打席の白線上近くまでストライクを取る動きがみられる。

ロサリオがプレーしていた韓国はストライクゾーンが異常に狭かった。打てる球を待てばよかった。しかし日本はストライクゾーンが広く、右投手のスライダーと左投手のチェンジアップにてこずった。一方でDeNAのロペスやソト、中日のビシエドなどは腕を伸ばせば外のスライダーにもバットが届いた。

松井と大谷の違いみたいなかんじ。2人ともベースから離れて立つけど大谷は腕が長いので外角に届く。松井は届かない。ヤンキースで打てなくてセカンドゴロを量産。監督に言われてしぶしぶベース寄りに立ち位置を変えた。

なぜメッセンジャーはDeNAに強いのか?

現在MLB最高の投手であるカーショウ。カーショウはスラッターとスローカーブの2つの変化球とフォーシームの精度を極限まで高めて打ち取る。

かつて176勝をあげた星野伸之も、フォークがスラッターの役割を担う「スラット・カーブ理論」の体現者だった。カーショウはスピードが20キロ速い星野伸之のようなイメージ。

スラットカーブ理論は縦に広がったストライクゾーン、FRBで一発狙いの打者、スピードが高速化した投手といった現環境に合わせて広まっている。レッドソックスのネイサンとかドジャースのウォーカーとかもこのトレンドにならった投手。

阪神のメッセンジャーもスラットカーブ理論+スプリットで老獪な投球を披露しているが、DeNAだけにめっぽう強く、他球団には攻略されている。DeNAはおそらく球場が狭くデータを重視していることから、トレンドに合わせた(MLB的)一発狙いの打撃スタイルになっていて、メッセンジャーのような投球術にハマりやすい

【阪神】メッセンジャー 201奪三振で歴代外国人史上最多記録を達成!対DeNA 2014.9.2

フライボール革命(FBR)とは何か?

なぜMLBでみんなフライを打ち始めたのか?フライが有効だったから。

打球の種類 安打確率 長打確率 本塁打確率
ゴロ(45%) 25% 2% 0%
ライナー(25%) 63% 23% 3%
外野フライ(22%) 27% 23% 18%
内野フライ(7%) 2% 0% 0%

・安打確率でもゴロより外野フライのほうが高い。

・MLBはデータから守備シフトが増えた。ゴロで野手の間を抜くのが難しい。

スイング角度は何度がよいかデータでわかったきた

新指標のバレル。打球速度と打球角度の組み合わせで構成されるゾーンのこと。バレルゾーンに入った打球は必ず打率.500、長打率1.500以上となる。バレルになるには打球速度が最低158キロ必要で、158キロで打った場合は打球角度26度~30度の範囲がバレルゾーンになる。

打球速度が速くなるほどバレルゾーンは広がり、閾値となる187キロに達すると8度~50度の範囲がバレルゾーンとなる。

こうしてMLBはバレルゾーンを目指して打球速度と打球角度を意識するようになった。

研究結果によると直球を打つ場合はバットが水平面よりも19度上向きの軌道、つまり19度アッパースイングで、ボール中心の0.6センチ下側をインパクトすると飛距離が最大化するとされている。

長打を量産する条件とは?

2017年MLBの最高打球速度はヤンキースのスタントンで196.7キロ。これを逆算するとスイング速度が172キロ必要。そのスイングを行うためには除脂肪体重が100キロ必要。スタントンの体重は111キロなので理にかなった体をしている。しかし誰もがスタントンの体になれない。

バレルの最低条件を見てみると打球速度は158キロだった。それを逆算すると必要なスイング速度は128キロ、そのスイングを行うための除脂肪体重は65キロ。仮に体脂肪率を15%だとすると体重は75キロで、多くの日本人選手でもクリアする

つまり実は多くの選手が本塁打を打てる可能性を秘めており、適切な角度で打球を打てれば長打を連発できるのだ。

ヤクルトの山田選手は体重75キロ。MLBでも身長168センチのアルトゥーベが本塁打を連発している

Giancarlo Stanton's most impressive home runs on his journey to 400!

最適な打順とは?2番最強打者論の本質

打順論の基本線。

①長打率が最高の打者を3番におく。

②残りでOPSが最高の打者を4番におく。

③残りで出塁率が最高の2人を1、2番におく(長打率が高い方が2番)。

④5番以降は残りをOPS順に並べる。

2018年のシーズン途中からこの打順に変えて躍進したのがヤクルト。

2番にチーム最高OPSの打者を置く「2番最強打者論」は上記の②と③における4番と2番を逆にした応用版。メリットは良い打者に多くの打席を回せることだが、条件は9番と1番の出塁率が高いこと。この組み立てをしても4番の打力が3番の敬遠を阻止できるレベルであること。

おそらく前者の条件が厳しくて、NPBで可能なのは西武や広島、ソフトバンクぐらい。野手の層が厚いMLBに適合する作戦。ちなみに平均すると打順が1つ下がるごとに年間で15~20打席ずつ減少していく。

ブルペンでの消耗について

日本人は心配性でブルペンで何度も準備する。巨人の田原は2016年度に143試合中128試合もブルペンで肩を作っていたそうだ。これでは試合で投げなくても疲弊する。

日本以外の投手はブルペンで投げる直前まで肩を作らずに、出番の直前に10球程度、数分で肩を作っていくのが普通であるという。吉井、高津、大家によるとMLBは短時間で肩をつくるノウハウを持っているそう。

肩を作ってしまったらもったいないので投げた方がよい。ブルペンで3回準備したら1試合登板とみなして査定するチームもあるようだ。

ちなみに勝ちパターンのセットアッパーやクローザーは、4点差以上なら温存するのが普通の考え方。日本ではこれが理解できずに4点差以上でも主力をつぎ込んで疲弊し、他の接戦を落としている。

9回表に1点差で負けてるホームチームが逆転勝ちする確率は10%。わずかな可能性に欠けて勝ちパターンをつぎ込む必要はない。



阪神がラッキーゾーンを設置すべき理由。

パークファクターという概念がある。球場特性。右が1軍の球場で、左が2軍の球場。神宮や西武、横浜が得点が入りやすく、ナゴド、甲子園が得点が入りにくい

パークファクターの算出方法は、本拠地と他球場の成績比。これだけ球場によって打者有利、投手有利の差があるので、単純な記録だけで選手やチームの実力は比較できない。

問題は阪神。鳴尾浜は12球団で一番に打者有利な球場。なのに甲子園は打者不利な球場。二軍と一軍の球場が正反対というかアンマッチになっている。鳴尾浜で野手を鍛えても甲子園では通用しない。一軍と二軍の本拠地はサイズや環境を似せるべき。チームの戦い方が統一される。

ちなみにロッテも同じ状況だったが、2019年シーズンからテラスを設置、外野フェンスを前にずらしてファールグランドを小さくする決定をした。

阪神の現状のチーム構成は明らかに狭い球場向き。2018年は甲子園の勝率が3割台。大至急ラッキーゾーンテラス席の検討をすべき。甲子園は118Rなので打者にしんどい。東京ドームより右中間と左中間が8mも遠い。おまけに浜風。

⇒浜風は本当にひどい。打球は放物線を描かない。レフトから見てるとライトの打球は放物線の頂点からモズ落としのように落ちる。ゴルフのアゲインストのときの戻される感覚です。あれを子供に見せると、物理の授業で放物線の概念が理解できなくなる。ぼく自身がそうだった。大人になってあれは浜風だと知った。

もしくは鳴尾浜球場を大きくして、広い球場向けの選手を鍛えるか。甲子園で負けないチームというのは魅力的。まあ商業的には鳴尾浜改造より甲子園ラッキーゾーンテラス席やろね。関西人は商売優先か(笑)。

MLBの戦力均衡策は社会主義的

完全ウェーバー制のドラフト:シーズン最下位の球団から順番に選手を指名する。他球団との抽選は起こらない。

FA選手の補償、ドラフト権の譲渡:一部のFA移籍に関しては、補償として流出元球団にドラフト指名権が与えられる。

海外FA 選手への投資制限:25歳未満の海外選手との契約に使える金額は、契約金や年棒を含めてマックス年間475万~575万ドルまでに制限される。

収益分配:各チームの純収入の31%を集めて、各チームに均等に分配する。それに加えて収入の高いチームに課税して一定の規則のもと収入の低いチームに再分配する。

ぜいたく税:球団が選手に支払う年棒総額が一定額を超えた場合、超過分に課税する。4年間で一定額を超えた回数に応じて税率を引き上げられる。2019年の上限は2億600万ドル。金満球団はぜいたく税回避や税率のリセットに躍起となっている。

ルールファイブドラフト:有望選手がマイナーリーグで飼い殺しになるのを防ぐ。他チームの選手を指名して獲得できる制度。メジャー40人枠に登録されていない選手。

タンキングとは何か?なぜレッドソックスとオリオールズは61ゲーム差もついたのか?

タンキングとは早くから優勝をあきらめ選手を放出し年棒総額を下げ、「わざと負ける」ことで自チームの順位を下げ、ドラフト上位の指名権を狙う戦略

スモールマーケットのチームが徹底的に負けまくって、ドラフトで有力選手をかき集めて資金をプールして、選手たちが育ってきた時期に貯めていたお金を使い弱点を補強して頂点に輝く。鉄板のパターンができつつある。パドレス、マリナーズ、ホワイトソックスなどの中堅のチームが大型補強に失敗して低迷する一方、10~5年前に下位で徹底的に負けていたロイヤルズやカブス、アストロズはタンキングによって成功した。

金満球団の補強のコスパの悪さを見ればタンキングの有効性は明らか。とはいえ見ていて試合がつまらない。今では平気でシーズン中にチームのエースや主力が同地区のライバルチームにトレードされる。ペナントレースの価値が損なわれる。またFA市場も縮小し大物選手が契約がなかなか決まらなかったりする。

データでわかってきたこと。身体能力の限界に近付いているMLBでは、投手のピークは20代半ば、野手のピークは20代後半。FAで獲得するころはピークを過ぎている

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