「へぇ~、そうなんだ~」ということが満載です。
おすすめの一冊。多くの人が読んで自己防衛して欲しいです。
オレオレ詐欺などのシステム詐欺の歴史や、どんな人らがやってるかなど、溝口敦が日本の詐欺世界の頂点にたつ人物にインタビューし、実態を解き明かします。
以下に詐欺世界の頂点の人物、システム詐欺成立の過程、詐欺の種類、等について要約を。
詐欺世界の頂点の人物はどんなやつか
著者は取材を進めるうち、とんでもない人物にあった。「オレオレ詐欺の帝王」と言われた本藤(仮名)である。
本藤の伝説は、学生時代はイベントサークル世界の帝王、イベサーのケツモチ(後見人)上りの金融・振り込め詐欺の帝王、歌舞伎町五人衆の筆頭、有名キャバクラ譲のパトロン、半グレ集団関東連合の黒幕、山口組山健組系組長の企業舎弟、数百億円を握った正体不明の大物・・・
本藤は1976年九州生まれ。東京六大学に進学し、そのうち4つ年上の元渋谷のチーマー後藤(仮名)と仲良くなった。後藤の父親はのちに警視総監になる。
イベサーは基本的にハコ代(ディスコなどの使用料)を抜くのが儲け。大きなイベントになると暴力団も絡んでくる。大学のイベサーの仲間には、暴力団幹部の子弟もいて、住吉会の会長の息子や、稲川会の本部長の息子らともつながる。結局ケツモチ(暴力団)をどうおさえるかで発言権が変わる。
本藤は切れる頭と人脈を駆使して、イベサー界の頂点に立つ。キャンパスサミットを大学1年で設立し、エイベックスからイベントCDも発売する(累計数百万枚)。イベサー界の権力構造はピラミッド型で、トップは①巨大合同イベントの創設者である本藤、次の地位は②合同イベントのトップ③合同イベントの現場のトップ④有名サークル代表・・・
大学はまじめに通い、学部を次席で卒業して、人脈から巨大広告代理店に就職する。雑誌局でまじめに4年務めていたが、スーフリ事件が起こる。会社から関与を疑われてグループ会社に左遷させられ退社する。本藤はスーフリのケツモチはしていたが、輪姦には加わっていない。
本藤には学生時代に成した資金があった。彼が退職した03年は、山口組直系五菱会の闇金が摘発を受けていた。全国に1000店舗、収益は1000億円で暴力的な取り立てから自殺者が相次いでいる。五菱会は収益金を逃避させるのに忙殺され、もはや営業を続けるところではない。本藤は五菱会のビジネスモデルとその人材をいただく手を考えた。
学生時代にイベサーのケツモチをやっていたので、暴力団とは全方位外交をし、ほとんどの幹部を知っている。とくに山口組の主流派との結びつきが強く、彼が闇金に進出しても誰も文句は言えなかった。
本藤の闇金は300店舗を超え、従業員1300人となった。そのときの給与は以下。本藤は幹部としか会わないので、顔は幹部しか知らない。
新人の店員 | 月給40万円 |
店長補佐 | 月給2~300万円 |
店長 | 月給7~800万円 |
統括(3~40人) | 月給1000万円 |
総括 | 月給5000万円 |
社長(11人) | 月給1.5~2億円 |
幹部(3人の側近) | 月給2~3億円 |
本藤 | 最低でも月給2~3億円 |
闇金からオレオレ詐欺への転換点
闇金内の出世争いから派生した。上のポジションに行くには数字で評価される必要がある。その中で利息回収率が非常に高いものが現れだした。店長連中が詐欺による振込金を回収金に紛れ込ませたのだ。回収率は信じられないぐらい上り、本藤は数字を上げる連中を厚遇した。本藤のグループの中で、兼業的にオレオレ詐欺が派生したのだ。「客に金を貸しても返さない時代。それなら貸してもいないカネを請求して取ってやろうとなった」
システム詐欺の種類
牧歌的な個人詐欺ではなく、本藤のような組織で行う詐欺を著者はシステム詐欺と呼ぶ。詐欺は人間の欲望と裏腹だ。
「儲けたい」という欲望:未公開株詐欺、社債詐欺
「勝ちたい」という欲望:パチンコ、競馬、ロトなどの必勝法詐欺
「もらいたい」という要望:還付金詐欺
「融資してもらいたい」という欲望:融資保証金詐欺
「経歴を隠したい、エ○画像などの視聴履歴」という欲望:架空請求詐欺
「なかったことにしたい、回復したい」という祖父母の欲望:オレオレ詐欺
その他の詐欺
・人類始まって以来のおいいしい商売:ダイヤルQ2を使った詐欺。
業者が提供する有料情報の料金を、NTTが電話料金と一緒に利用者から回収するサービス。出会○系サイトの前身にツーショ○トダイアルがあった。男の電話を女につなぐだけだ。女のサクラを使うこともある。ダイヤルQ2は公衆電話からも利用できた。
当時NTTのテレカは変造機が生まれ、変造テレカが出回っていた。使用済みテレカに銀紙を貼って小穴を塞ぎ、それに1万円度数の料金を磁気情報として書き込む。これで公衆電話で再使用できた。
変造テレカを安く仕入れ、公衆電話に変造テレカを差し放しにしたまま、自分が経営するダイヤルQ2につなぐ。ただ同然で入手した変造テレカが情報提供サービス料に変身し、NTTがダイヤルQ2の経営者の口座に振り込んでくる。
95年の変造カードの被害額は630億円と発表されている。経営者ではなく、ダイヤルQ2で働く末端の雑務者でも月給1000万円だったそうだ。
・最新の詐欺「詐欺被害返金詐欺」
弁護士は依頼者から着手金を取れる。着手金の使途は厳しく制限されているが、コンサル会社と探偵業者には早期に支払うことができる。これを前提として、探偵が詐欺被害者に電話する。「あなたの被害額500万円を無料で取り戻す」と勧誘する。ただし「多少調査料はかかる」。被害者は喜んで承知し、弁護士事務所を噛ませた上、契約書を交わす。
次に探偵は詐欺被害を与えた社債詐欺会社に電話する。詐欺被害額を認めさせる。そして被害者に800万円の調査料を請求する。被害者は800-500=300万円をさらなる「かぶせ」となって支払う。そのカネを詐欺を認めた会社と探偵が折半して受け取る。
弁護士余りを背景として、システム詐欺の主宰者や半グレ集団のボスが、弁護士事務所、探偵事務所、コンサル会社を経営する。グループによっては、詐欺被害救済サイトを立てて、被害者を誘導する。
詐欺の帝王の末路
本藤はその後どうなったのか。カネのトラブルから足首を銃で撃たれた。足首の毛細血管はズタズタになり。血流を押し上げるポンプの役割を果たせなくなった。そうすると体は悪くなる。
胆石がたまり胆のうを切除、胆管炎になり胆管にメスを入れ、肝臓も一部切除する。2年間にわたって入退院を繰り返し、完璧だったリスク管理にも綻びができはじめた。本藤はこれを機に引退することを決める。あとの経営は幹部に任せた。
膨大なカネは現金で持っている。運用すると目をつけられ国税が入る。海外へ移すと、現在は外国政府と日本政府が山分けしている。匿名で多額のカネを移動させるのは困難だ。結局歌舞伎町や六本木で散在するしか使いようがない。
組織犯罪のトップを捕まえるための、著者の提案が面白い。警察が捕まえられるのは、システム詐欺の末端まで。上層部に向けての突き上げ捜査がまるでできてない。
ならば視点を変えて、キャバクラなどでの大散財に注目するべき。豪遊の果て大金を現金で支払うものは、現金で日銭が入り、しかも銀行口座などに入金できないものである可能性が高い。キャバ店の店長などの協力を得て、そういう客情報を集めることが先決だが、店長や黒服は警察に協力しない。「たとえ客が犯罪者であっても、うちの店には大金を落としてくれる太い客が大事だ」
つまり詐欺師の周りには、カネに色はついてない、という価値観を持つものが無数に存在する。そういう者たちは詐欺師を守り、免罪する。警察に協力しても一銭の得にもならないからだ。こういう価値観がひっくり返ると、詐欺師はこの世から消え去るだろう。
さて、人々の価値観がひっくり返る世の中がいつか来るのでしょうか。