【精神病棟40年・時東一郎】書評と要約

著者の時東一郎(仮名)は16歳のときに統合失調症を発生して、以来44年間精神病棟にいます。精神病棟にいても、つねに症状を発生してるわけではなくて、まともな時とそうでないときが交互に訪れます。

ノンフィクションライターの織田淳太郎が、患者として入院した精神病院で知り合い、この本が世に出ることになりました。織田氏の解説がところどころ入りますが、ほとんどは著者の作品です。一生を精神病棟の中で過ごした著者の自叙伝であり、貴重な記録だと思います。

みなさんは精神病院を訪問したことがありますでしょうか?

見た目は普通の病院なのですが、周りに人が少ない、窓に鉄格子がはめられている、少し人里離れている、などの特異性があります。

ぼくは10年以上前に知り合いが入院し、数回見舞いにいきました。あまりよい話ではないので、多くは述べませんが、そのときなぜその人は精神病院に入らなければならなかったか、真剣に考えました。

精神疾患の境目はどこか、あなたは狂人だと言われる分け目は一体どこなのか?図書館で関連の本を数冊読んで得た答は、妄想、幻覚(幻視、幻聴など)をみるかどうかの一点でした。

たとえばうつ病と統合失調症(精神分裂症のこと)陰性の症状はほぼ同じですが、そこに、被害妄想や幻視、幻聴などのどれかが加われば、精神疾患となり、家族や周囲が見放せば精神病院行きとなります。

この本によると、著者はなんとか出れるように模範患者として振る舞い、病状も安定していたそうですが、病院側の固定資産として扱われ、そのチャンスは40年もの長きに渡ってなかったそうです。保護者の問題もあったのでしょうね。



世界と日本の精神科病床

現在世界が保有する精神科病床は約200万床といわれている。その中で日本は35万床を保有。(入院者数は31万3千人)実に世界の6分の1である。

「日本だから精神異常者がとくに多い」という理屈は成り立つわけがなく、世界的に見て異常な数字である。

なぜ日本だけが異常な数の病床を保有しているのか?主因は民間精神病院の経営問題である。

日本の精神病院の9割は民間で占められている。経営問題の元凶には「精神科特例」がある。精神科の医師数は他科の3分の1でよいとする特例で、そのかわり診療報酬は他科の3分の1から3分の2にすぎない。

そのため病床を埋めるべく、民間精神病院の患者の抱え込みが始まった。経営維持のための入院者の「固定資産化」へのうねりである。

こんにち15万人から20万人いるとされる、「入院治療の必要のない」長期入院者は、以上のような背景で量産されてきた。

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この本の読後感はある意味爽やかです。保護者がいないと外に出れない著者は、ルポライターの織田氏に連れられ、一生をかけて思っていた夢を達成します。ぼくや、皆さんににとっては取るにたりないことです。それでも幽閉されてるものからすれば、一生をかけた願いだったのです。願いがかなってほんとに良かった。
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