話題の本、「No Rules」読んでみました。
ネットフリックスの創業者リードが、エリンという経営学者と共著した本です。経営思想の観点から、なぜNetflixが大成功したのかが良く理解できます。
『ネットフリックスの2020年第4四半期売上高は66億4400万ドル(6884億円)。前年同期比21.5%と順調な伸びを示した。通期の売上高は250億ドル(2兆5915億円)を達成した。
収益の伸びを支えているのは有料会員数が伸びているから。会員数は第4四半期だけで850万人増加し、通年では過去最高となる3700万人増となった。有料会員数は2億人の大台を超えた。日本の有料会員数は500万人。
2020年度の営業利益は前年比76%増の46億ドル(約4767億円)』
この程度の売上高の会社は製造業ではよくありますが、ネトフリは利益率が高いですよね。それと従業員の満足度が異様に高いです。
2018年ハイアードによる「もっとも働きたい会社」の調査。アップル6位、テスラ3位、Google2位を上回り、ネットフリックスが1位を獲得しました。
同年のアメリカ大企業4万5千社で働く500万人以上の調査結果。社員幸福度の2位がネットフリックスだった。
ネットフリックスはみなさんご存知、最初はツタヤディスカスみたいな会社でした。世界初のオンライン郵送DVDレンタル事業。創業は1998年。
その後、映画のネットストリーミング配信へ移行。独自コンテンツの配信まで始めるようになる。最初は外部スタジオだったけど、社内スタジオまで立ち上げて数々の賞を受賞する。現在は世界190ヵ国に展開するグローバル企業です。
成功は偶然。というのが多い。もちろんそこには不屈の意志が必要ですが。それは本書にもスティーブジョブズの言葉として引用されてます。
「先を見通して点と点を結びつけることはできない。点と点は後から振り返って初めて結びつくものだ。だからいずれ点はつながるのだと信じなければならない」
本書から。ネットフリックスが成功を収めた3つの要因。以下にまとめます。
有能な人材だけ集めて能力密度を高める。給料を最高にする
ネットフリックス創業直後、ネットバブルが弾けた。当時120人のスタッフ、約3分の1をレイオフした。そのときわかったこと。
判断力にムラがあったり、世話が焼ける人、愚痴が多い人、後ろ向きなことばかり言う人。そういう人がいなくなると、ものすごく会社が良くなる。最初は同僚がいなくなって残った社員は悲しそうだったが、数週間で社内の空気が劇的によくなった。社内は突然、情熱、エネルギー、アイデアが満ち溢れるようになったのだ。
ネットフリックス成功の礎は、組織における能力密度の重要性に気づいたこと。優秀な人材はお互いをさらに優秀にする。パフォーマンスは伝染する。凡庸なメンバーは手がかかり、議論の質を低下させ、チーム全体のIQが落ちる。最高の職場とは最高の同僚。
ネトフリがとった手段。最高の給料を用意すること。シリコンバレーはアップル、Google、フェイスブックが優秀な人を引き抜き合戦している。
社内の優秀な人材を、市場価格より少し上の給料で雇うこと。
ふつうの会社だったら、昇給率は社員段階で決まっていて、あまり上がらない。それだと競合他社に引き抜かれる。ヘッドハンティングされたら面接に行くことを推奨、その金額をネトフリにフィードバックさせる。ネトフリはその人材に価値があると考えれば、それ以上の給料を支払う。個人における最高水準の報酬を支払う。
平均的なエンジニアを10人雇うより、1人のロックスターを高額な報酬で雇うほうが価値がある。ビルゲイツの名言「優れた旋盤工はふつうの旋盤工の数倍の賃金をもらうが、優れたソフトウェアエンジニアは、ふつうのエンジニアの1万倍の価値がある」
ちなみにネトフリでは「デキるけど嫌なやつ」はいくらパフォーマンスが良くても解雇する。
フィードバック文化
優秀な人材はお互いからとても多くを学ぶ。常識的な礼節を保つと必要なフィードバックができない。有能な社員が当たり前のようにフィードバックをすると、全員のパフォーマンスの質が高まる。
人は率直なフィードバックを嫌う。批判されるのは好きじゃない。いらだちを感じ攻撃されたと思う。
アドバイスする方は、
・面倒な奴と思われたくない。
・ギスギスした議論に巻き込まれたくない
・同僚を怒らせたくない
・協調性がないと言われたくない
ネトフリではルールがある。すべての社員にフィードバックの上手な与え方、受け取り方を教えている。
フィードバックのガイドライン「4A」
①ASSIST相手を助けようという気持ち
②ACTIONABLE行動変化を促す
③APPRECIATE感謝する
④ ACCCEPT取捨選択
・上司も部下にフィードバックを求める。
・王様に裸だとちゃんと伝える。
・他人の話をするときは、相手に向かって言えることしか言うな。
いつフィードバックするのか?いつでもどこでもフィードバックする。効果が最大なら人前で講演中でも行う。
会社の手続きを廃止して社員の自由度を高める
優秀な人材を雇っているので社員をコントロールしない。以下はネトフリには無い。
休暇規定、意思決定の承認、経費規定、業績改善計画、承認プロセス、昇給原資、重要業績評価指標、目標管理制度、出張規定、合意形成による意思決定、上司による契約書の署名、給料バンド、賃金等級、成果報酬型ボーナス…
業績評価や目標管理は、環境が変化した時に迅速に対応するのを阻む。社員に既定路線にとどまるように促し、つまらない目標に見切りをつけ、新たな目標に取り掛かるのを困難にする。
アメリカ人材マネジメント協会による過去数年のアメリカ企業の年間離職率。自己都合が12%。解雇が6%で合計18%。テクノロジー企業平均は13%。メディア及びエンタテイメント業界は11%。ネットフリックスは自己都合は3%。解雇は8%。業界水準の11%と同水準。
自由とはいえ勝手なことをしてると、年間8%の人がネトフリでは解雇されている。
日本ではネトフリのような仕組みが難しい理由
まず転職文化がない。解雇ができないので規則で社員を縛る必要がある。
それからフィードバック文化がない。ネットフリックスがグローバル展開するときに気づいたこと。
ドイツ人の上司のフィードバックはアメリカ人には厳しすぎる。アメリカ人は肯定的なフィードバックを与える傾向があり、ドイツ人にはそれは過剰でウソっぽいと思われる。日本はネトフリの正反対の文化だ。
オランダは世界でもっとも直接的な文化。一方で日本は極めて間接的。ネトフリのポジションはリード社長自ら作成したカルチャーマップから。
直接文化は「きわめて」「あきらかに」といった言葉を挿入する。日本は「たぶん」「もしかしたら」「やや」など批判を弱める緩和語が使われる。日本人は否定的なフィードバックをするとき大量の緩和語を使う傾向がある。フィードバックを言葉にすることすらしない。
ネットフリックスは日本でフィードバック文化を浸透させるのが難しいことを学んだ。彼らはあきらめたのか?いやちがう。どうやったかは本書で読んでみてください。簡単にいうとそれは仕事だと理解させ、そういう機会を強制的に作ったということ。
交響曲とジャズの違い
工業化時代。製造業は製品のバラツキをなくすことが重要だった。マネジメント手法はそれを念頭に考案された。一糸乱れぬ正確性、完璧な調和。交響楽団のように運営された。
現在でも工場の運営、安全が最優先される環境でのマネジメントは「ルールと手順」にのっとった運営をすべきだ。
情報化時代。多くの企業やチームの目的はミス防止や再現性ではない。創造性、スピード、機敏さ。そうした組織にとってのリスクは一流の人材を獲得できないこと。新たな製品を発明できないこと。環境変化のとき迅速な方向転換ができないこと。一貫性や再現性は会社に利益を生まず、斬新な発想を押しつぶす可能性が高い。
目指すは交響楽団ではない。指揮者や楽譜を捨てジャズバンドを立ち上げる。ジャズは個人の自由な発想を大切にする。自由に即興をしながら最高の曲をつくりあげる。
ジャズバンドに加わりたいと思うタイプの社員を採用しよう。すべてがうまくかみ合えば、素晴らしい音楽が生まれるはずだ。
誰にしようか迷いましたがクリス・デイブにしときます。現代ジャズシーンにおける最重要ドラマー。メジャーどころだとアデル、ジャスティンビーバー、エドシーランのアルバムで叩いてます。日本だと宇多田ヒカルの「初恋」に全面的に参加。一昔前のスティーブ・ガッドみたいな位置づけかな。
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