良書です。
新刊本じゃなくて2019年初版。人から薦められたので読んでみました。
カウンセラーを指導する立場の人が書いてます。著者曰く、傾聴できていないカウンセラーはめっちゃ多いそうです。
今の時代、傾聴って必須になりつつある。家でも会社でも求められて。ちゃんと傾聴ができれば、仕事も家庭もうまくいく気がする。
ぼくが働いている会社でも、管理監督職は毎年「傾聴」の研修を受けさせられています。だけどあんまり役に立ってない。なぜか?
感動してないから。会社の同僚と傾聴のロールプレイやっても感動はゼロです。やっぱちゃんと傾聴できるプロに聴いてもらって、その快感を自分で経験しないと。
2回ほど会社の研修やサービスでプロに傾聴してもらって。一応その心地よさは体験できています。しかしなぜ快感なのか、心のメカニズムは理解できてなかったです。
家族や、会社の後輩の話を、ちゃんと傾聴しなあかんと思っているのですが、そのテクニックはどうすればいいのかわからない。
傾聴したつもりが全然できてなかったことが、本書を読んでロジカルに理解できました。この「わかった」感はデカいです。
凡人な先生の10回の研修より、優れた人の1冊の本のほうが優るなんて。いかに指導者によって差があるかという。
会社で「傾聴」の研修するなら、この本を配布して感想でも書かせたほうがいいです。ケーススタディが豊富で、一般人でも理解しやすいので。
目次
傾聴とは何か?
傾聴とは何か?聴く技術は?
・カウンセラーが不全感(いやな感じ)をためないで、クライアントの話を黙って聴き遂げるための技術。
・クライアント側からしたら、いつまでも気持ちよく、自由に話せて、自己組織化する力が動き出すようにサポートしてもらう技術。
・話し手を楽にさせる聴き方を「傾聴」と呼ぶ。3要件ある。「賛成して聴く」「黙って聴く」「世界を代表して聴く」。賛成して聴くことは難しい。
クライアントが「死にたい」と言ったとき。その中には実は「生きたい」が含まれている。死にたいという気持ちに賛成されずに、「弱音を言わないで、しっかり頑張って」と言われたら、クライアントは自分を否定されたと感じてもっと落ち込む。
「そんなに死にたいなら死んでもしかたないよね」と言われたら、これもクライアントの気持ちを否定してしまう。見捨てられた。死ぬしかないと辛くなる。なぜなら「死にたい」には「生きたい」が含まれているから。
どんな話にも賛成と反対の気持ちの両方を持てるには、相当の心の広さを持たないといけない。これはカウンセリングの技術のかなりの極意。カウンセラーの教育でもこれを教えるのは、かなり上達した後。
傾聴。聴く技術4つのステップ
①黙って聴く
黙って聴く3つの指針と、4つの禁止を守って聴く。
②賛成して聴く
悩みを分類しながら、内容に賛成して聴く。
③感情を聴く
感情の階層を意識しながら、それに同調して聴く。
④葛藤を聴く
解決できない矛盾を聴いて、自己組織化の力を引き出す。
ステップ1。簡単なようで至難の業「黙って聴く」
最初にカウンセラーに教えることは「黙って聴く」こと。
とにかく黙って聴く。口を挟まない、質問しない、助言しない。
やってみたらわかるがこれがかなり難しい。
カウンセラーのプロでも、教育の中でこれを習得すのに、平均して1年はかかる。
黙って聴くことを定義する、3つの指針
クライアントが話し始めたら、
①絶対に、口を挟まないで、
②絶対に、質問しないで、
③絶対に、助言をしないで、
話し終わるまで、ただ静かに聴く。
黙って聴く、4つの禁止
①支持、承認の口を挟まない。
相手の言っている内容に同意して「自分もそう思う」などと伝えない。
②復唱、繰り返し、要約をしない。
相手のポイントをつかまえて、カウンセラーがそれについての言葉を返さない。
③明確化しない。
クライアントが気づいていないことをカウンセラーが違う言葉に言い換えたり、要点を指摘しない。
④たとえ何か聴き取れないことがあっても、聞き返さない。
なぜ質問もしてはいけないのか?質問を挟んでしまったら、分かってもらいたかった感情が相手に伝わらず、中途半端になってしまうから。
なぜ助言もダメなのか?カウンセリングによる心が変化していくきっかけを奪ってしまうから。たとえば夫の暴力に悩んでいる。シェルターのことも、離婚のことも、夫から逃げることも何度も考えてる。しかしその決心がつかないのは何か深刻な心の問題を抱えているから。それに向かい合って自分を見つめないと行動は起こせない。シェルターに行くべきとか助言されてしまうと、クライアントが問題に向かい合う気持ちを奪ってしまう。
カウンセリングを訪れた真の目的、心を整理して新しい勇気を得るためのチャンスを邪魔してしまう。
傾聴されて、人が自分を自由に語れるようになるとどうなるか
人が自由に自分を語れるようになると、心は自然により深いレベルへと降りていく。日常生活ではあまり振り返ることのない「無意識」のレベルまで。
そこでは自分では気がつかないいろいろなエピソードや言葉が互いにつながっている。それらが整理されて組織化されていき、最後には意識に上がってきて解決を準備する。脳の自己組織化が起こるということ。傾聴がそれを促す。
自分が知らない自分を語ることは一人ではできない。語るために相手が必要。口を挟まずに黙って聴いてくれる相手。
著者の想像ではあるが、座禅とか深い瞑想は、自分が知らない自分を知る方法で、相手を必要とせず一人でもそれができる。
人生の悩みを、大きく4つに分類する
・人が恐い
・自分を責める
・人とうまくつき合えない
・死ぬのが恐い
ステップ2。「賛成して聴く」と「応援して聴く」は違う
経済的に苦しい母子家庭で育つ。母親を楽にしたいという強い気持ちがある。いい大学に入って、いい仕事に就きたいという願い、しかしできない自分に落ち込む。
この悩みは「自分を責める」に分類される。結果を出せない自分に悩んでいる。こんな高校生を、カウンセラーは応援したくなる。
「賛成して聴く」と「応援して聴く」とは違う。応援されるとおそらく高校生は辛くなる。本当は弱音を吐きたいのに、応援されるとそれができなくなるから。クライアントが自由に語れなくなったら「黙って聴く」という傾聴の本来の目的が壊れてしまう。
「賛成して聴く」とは、「悩みに賛成する」ということ。悩んでいる内容を肯定する。悩みの中にあるいろんな方向の心の動きをそのまま認めて聴くこと。
「応援して聴く」というのは、頑張って勉強するという方向だけに賛成して、弱音を吐いたり、目標を断念したりする方向には賛成できないという聴き方。
聴き手が「応援して聴く」と、話し手の心は固まってしまって動かなくなる。頑張る方向にだけ固定される。そして悩みを解決してくれる、心の成長や拡大は起こらない。
「賛成して聴く」と、合格しても不合格であっても心は成長するし、あるいは目標の達成が難しくなれば何か代案を生み出せる。
カウンセリングの方法
カウンセラーはただ黙って聴くだけではない。1回のセッションが50分であれば70%くらいまでの時間はただ黙って聴く。つまり35分間は口を挟まずに「黙って聴く」と「賛成して聴く」をフルに活用する。そしてセッションの残りの15分になる頃、カウンセラーは口を開く。
そこでどんなことを言うかは腕の見せどころなのだが、まずは「辛い話を聴かせていただきました。〇〇で大変だったのですね。すごく悩んできたこと、とても頑張ってきたことがよく分かりました」など、話していただいた「内容に賛成」です、と感想を返す。
そして話の背景で確かめておきたいこと、特に原家族(その人が生まれ育ってきた家族)のことを質問したりする。
それから一番重要なことで経験と技術を要すること、現時点でのカウンセリングの進捗を評価して、その段階に見合った質問をする。その目的は次の段階へスムーズに進めるようにすること。
そのために①語られた「言葉」をいくつか取り上げて内容を確認したり、質問や解説をしたりする。②まだはっきりとした「言葉」になっていない「感情」を取り上げて同じように確認、質問、解説をする。クライアントとカウンセラーの間でディスカッションが行われる。
これによってクライアントは自分の変化に気づけるようになり、それを何度か行うと自分が進んでいる方向がはっきりと見える。
カウンセリングが進み、その方向性が見えてくると、傾聴とディスカッションの周期が短くなってきて、「10分の傾聴と10分のディスカッション、さらに10分の傾聴と10分のディスカッション」というやり取りが連続して、心の解決が加速されることもある。
聴く技術のステップ3、感情を聴く
カウンセラーが口をはさんでないこと、クライアントの話がきれいに流れていること=カウンセラーが賛成して聴けていること、が確認できると、聴く技術のステップ3へ進む。
語られる感情には6つの階層がある。不安、抑うつ、怒り、恐怖、悲しみ、喜び。カウンセリングの進行とともに、感情はこの順で語られていく。カウンセラーは傾聴の中で、今、クライアントの心を占めている感情は何かを聴く。それは6つのうちのどれか。
1対1のカウンセリングで、不安と頑張りは言葉にしやすい。抑うつと自責は少し言いにくい、怒りになるとさらに言葉にしにくい。なぜなら大人は人前で怒りを出してはいけないから。
クライアントが自由に気持ちを語れるようになると、言いにくい感情も表現できるようになる。傾聴が保証されていると、心は自然とより深いレベルへと進む。
聴く技術のステップ4。葛藤を聴く
そして苦悩の源である葛藤を話し始める。葛藤とは「そうすべき」と「こうしたい」の対立。葛藤は3つのステージで進んでいく。苦しみはピークを超え、どちらにも動けない葛藤の中で深い絶望と解放が入り混じる。すると今まで思いも描けなかった感情が湧き出てくる。
「ま、いいか、とりあえず」
「まあいいか、とりあえず」は心の解決だ。それを追うように現実世界での解決が現れる。
規範=ルールと、感情の対立。ルールは破ったら退場しないといけない。社会からはじき出され、のけ者にされてしまうので、そこは破ることへの強い恐怖がある。普通はこの不安や恐怖はそれほど大きくなく、破ったとしても夢の中で出てくる程度。しかし虐待されて育ってきた人の場合、ルールを破る恐怖心はとても大きく、人生自体を縛っている。
気楽にいこうぜ♪
自分の車輪の音で 自分を狂気にしないでよ♪
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