すごくちゃんとした本。2017年新書大賞に推したい。2016年の「京都ぎらい」は、もうひとつでした。
日本の漁業が危機にあるってご存知ですか?ホッケは小さくなって、ウナギは絶滅危惧種、サバはノルウェー産ばかり。ニシンがいなくなって数の子は外国産、クロマグロはどこいった。
日本の天然資源の漁獲量は、1970年代後半に1000万トン。現在は370万トンです。
実に最盛期の4割をきってます。
なぜこうなったか?
理由は日本の乱獲です。獲りすぎちゃったら、産卵できないじゃないですか。種まで食べちゃった。水産資源の元本を減らし続けたため、残高が底をつきかけてるのです。
・クジラが魚を食べ尽す
・中国が世界の魚を食べ尽す
・地球温暖化で魚が減ってしまった
これらはウソです。
メディアが報道するための情報ソースは、基本的に水産庁か業界団体。当然ながら当事者は、自分たちが批判される情報発信はしません。だからどうしても、漁業はがんばってるけど外部要因で苦しんでる、といった報道ばかりになる。
著者は専門家として、10年以上国内、海外の漁業の現場を回ってます。そして外部有識者として、水産資源評価の会議に出る。会議で異議を唱えても、さいごは水産庁に修正されてしまう。
水産庁は水産政策審議会に諮問するけど、出席者は天下った水産庁OBです。実質水産庁の内輪の会議で、身内しかいない会議では、まともな議論が行われない。日本の過剰な漁獲枠を問題視しない。
漁業国は大きく3つに分類できます。
トップランナーは、ノルウェー、ニュージーランド、アイスランドなど。
1980年代に個別漁獲枠方式を導入して、漁業の成長産業化に成功した国々。
2番手グループは、米国、EU、チリなど。
トップランナーが試行錯誤で方法論を確立した後、追従してる。米国の漁業改革は、国レベルで大きな成功を収めてます。ポール・クルーグマンによると、「政府の介入が機能する場合」という記事で、政府の介入によって、漁業が危機を脱したことを紹介してる。
3番手グループは、日本を含む資源管理ができてない国で、多くは途上国。
途上国は国家の統制力や、資源評価の力がないために、資源管理ができません。日本が残念なのは、途上国と違ってできないのでなく、できるのにやらない。
以下にその他の読書メモを。
養殖魚はどうなのか?
漁獲量全体における養殖のシェアは、ここ10年横ばい。約8%ほど。ブリとマダイの2魚種で生産量の約9割を占める。量、種類共に日本の食卓を支えられない。
養殖には大量のエサが必要
1キロの養殖クロマグロを生産するには15キロのエサが必要。養殖クロマグロのエサは天然のサバの稚魚。最近5年のサバの平均漁獲量が44万トンなので、日本で捕獲されたサバの3分の1が、養殖クロマグロのエサになっている。
サバの稚魚を獲りすぎたせいで、人間が食べる国産サバが足りなくなって、高いノルウェー産のサバを輸入せざるをえなくなっている。
ヒラメの種苗放流では漁獲量が増えなかった
放流尾数を増やしても減らしても、漁獲量はそんなに変わらなかった。放流魚の回収率は約3%ほど。天然は裏が真っ白だが、人口環境で育てられた稚魚は、裏にも黒い色素が混じる。
ひっくり返して黒い点があれば、種苗放流由来。
ピークの1999年は約3000万尾のヒラメを24億円かけて放流して、そのうちの90万尾が漁獲され、6億3000万円の売上になった。4分の1しか回収できてない。
海外では生態系にかく乱を引き起こす可能性があるので、人工的な魚を放流することは規制されている。
ヒラメについては、日本周辺海域を4つに区切って資源評価を行っているが、震災によって漁獲圧が減少した、太平洋北部のみ急激に増加している。採算度外視で種苗を撒いても増えなかったヒラメが、太平洋北部ではたった3年で4倍に増えた。種苗放流よりも、漁獲規制のほうが資源回復に有効である。
肉よりも魚が高い
生鮮魚介と生鮮肉のキロ単価推移をみると、さいきんは魚のほうが高い。
漁師さんの年収
農水省の2014年の統計によれば、個人経営の海面漁業は、年間の漁労所得が225万円。個人経営漁業では、家族総出が前提で、平均3.27人の家族が労働している。漁業を廃業して、家族が同じ時間外で働いたほうが、93万円収入を増やすことができる。(その地域の平均的な労働賃金との比較)高齢漁業者の子どもたちはほとんど、親のあとを継ぐことなく別の職業に就いている。
魚価アップの方法
いまの日本の漁業は早い者勝ちのシステム。ノルウェーや米国は個別漁獲枠を設定し、労働時間が短縮された。漁獲枠が設定されてるので、その漁獲枠はいつでも自分が魚を獲る権利として保証されている。漁獲枠はいつ使ってもいいので、魚の単価が高い時期に獲りに行くようになる。急いで漁場に行く必要もないので、燃費の良い速度で船を走らせることができる。
最新の魚群探知機は魚の大きさもわかる。ノルウェーのサバ漁師は、大きな魚だけを狙って獲り、小さくて単価の安い魚を避ける。同様に網も小さくする。大きい網だとたくさん獲れるが、水揚げするとき魚が積み重なり、圧力で傷みやすくなる。
ノルウェーの漁師は皆、「漁業とは品質向上との絶え間ない戦いだ」という。彼らはライバルより早く獲る競争ではなく、魚の品質を高める競争をしている。
ニュージーランドの底引き網漁の漁業長は、「私たちは網にちょうど15トンの魚が入るようにしている。20トン入れると魚の質が悪くなる。しかし10トンだと何度も網を入れる必要がありコストがかさむ。ちょうど15トンで獲るのが腕の見せどころなんだ」
早獲り競争は全体のパイが増えない。奪い合うためだけのコストがかかり、頑張れば頑張るほど悪くなっていく仕組み。
海を越えて♪
わたしを待ってる人がいる♪
ジェフ・リンでビヨンド・ザ・シー♪
ジャンゴ・ラインハルトの歴史的名盤、「ジャンゴロジー」のラ・メールと同じ曲です。