2012年にノーベル文学賞を受賞した莫言。中国籍の作家としては初の受賞者のようです。村上春樹が予想オッズで1位だったので、「莫言? 誰やそれ」と。
57歳なので村上春樹より若い。赤い高粱は、莫言の代表作です。
風景の鮮やかな色彩描写と、汗、糞尿などの猥雑な表現が、生を際立たせ、中国の農村部のイメージにぴったりです。なんというか、汚らしいけど、遠目にみると鮮やかという。これはもうねぇ、チャイニーズファンクな作品です。
ストーリーは特に面白いわけではないです。文体という表現が適当かどうかわかりませんが(訳文なので)、鮮やかで生を強烈に感じさせる文体です。なんか臭い匂いまで漂ってくる。まぁ村上春樹もストーリーは面白くない。日本人にとって心地よい文体と、世界の人にも印象深いと思われる彼独特の異次元の雰囲気が、人を惹きつけます。これも文体なのかもしれない。
ふと思ったのは、中国人はこういう抗日ものを日常に読んでるという事。日本鬼子に対して、小説や映画などを通して、強烈な反感をもってるんでしょうね。潜在意識に刷り込まれた日本人に対する、憎悪の念が、そこはかとなく感じられ怖いです。
本作は莫言によると、ガルシアマルケスの「百年の孤独」にインスパイされた作品のようです。そういえば、あの作品と同じように一族の隆盛を描いてます。
ガルシアマルケスもノーベル文学賞を受賞しました。百年の孤独は七代にわたる一族の隆盛を描いてますが、本作は三代なので、スケール感は百年の孤独のほうが壮大です。
読書メモを見ると、百年の孤独読了には12時間かかっています。赤い高粱は、文庫で300p程度なので、4時間ほどです。ノーベル文学賞作家の作品を手軽に味わいたい人は、さらっと読んでみてください。
以下にあらすじを。読まれる予定の方はパスしてください。
「赤い高粱・莫言」のあらすじ
「わたし」が祖父、祖母、父のことを語るという小説。
作品は祖父と父が抗日ゲリラとして日本軍と戦うシーンと、祖父と祖母が出会い結ばれるまでが、交互に入れ替わりながら進行する。
祖父は村で抗日ゲリラ隊を訓練し、日本軍を待ち伏せ撃滅する。この戦闘の中で餅を届けに来ていた祖母は流れ弾にあたって死亡する。ゲリラ隊はほぼ壊滅するが、日本軍も将官クラスの重要人物を亡くす。
この本の最後は仕返しに来た日本軍に村は包囲され、機関銃掃射により数百人の村人が高粱(コーリャン)畑で死に、村のあらゆる建物は燃やされる。
「父さん、どこへ行こうか」祖父は答えなかった。という一文で終わります。
祖母と祖父のロマンスは、祖母が村で一番の金持ちの焼酎造り酒屋に嫁入りするところから始まる。美貌の祖母は、金持ちの息子に見初められた。しかしその息子はハンセン病だった。祖母の両親は、知りながらも、金持ちとの縁組を優先したのだ。
風習で嫁入りしてから3日目に実家へ帰る。このときの駕籠かきが祖父で、祖母は高粱畑で祖父と愛しあう。祖母が嫁ぎ先に戻る前に、祖父は金持ちの酒屋の父子を殺害する。祖母は酒屋に戻ると、女主人におさまり、祖父は杜氏として酒屋に勤め、その後主人の座におさまる。
YouTubeにフル動画がありました。字幕はありませんが。
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