古代中国の古典、だいたい以下の理解をしてます。
孟子VS荀子(韓非子) 性善説と性悪説の対立
孔子VS老子(荘子) 儒家と道家の対立
どのへんが面白そうでしょうか?
性悪説って面白そうですよね。きれいごとはたくさんだ!って。
韓非子は、経営者が愛読してても口外しない書だそうです。本書は、韓非子と孔子を対立軸として見てる。ぎっしり334p、コスパのいい本です。
まず韓非について。韓非は前280年~前233年頃の人と推測されてます。孔子がなくなって200年ほどたって生まれた人。
韓の国(韓国ではなく山東省)の公子の1人。弁舌は下手だったが著作は得意だった。李斯(りし)とともに荀子に師事した。李斯は韓非にはかなわないと思っていた。
韓非は韓の国が弱体化していくのをみて、書面で韓王を諫めた。清廉でまじめな人間が、邪な家臣たちから排除されることを悲しみ、歴史の特質の変化を観察して、十余万言をつくった。
ある人が韓非の著書を秦王政に伝えた。後の秦の始皇帝は、「孤憤」、「五と」の書を読むとこう言った。「この人と会えて交友できたら、死んでも後悔ない」
李斯(りし)はいった。「それを書いたのは韓非です」
秦はそこで韓を攻撃した。韓王は韓非を使者として派遣した。
秦王は韓非に会って喜んだが、李斯は韓非の登用を妨害しようと考え、「韓非は韓のことを考え、秦のことを考えないでしょう。かといっていま秦で登用せず韓に返せば、災いのタネをまうようなもの。ころしてしまうのが一番」と讒言します。
秦王はなるほどと思い投獄され、李斯は人をやって韓非に薬を与えさせ、自殺に追い込む。
李斯はその後、秦が中国を統一するにあたって原動力となり、郡県制の施行や、度量衡、文字の統一を実施。韓非が理論面での法家思想の集大成とするなら、李斯は実践・定着面での功労者という位置づけになる。
「韓非子」という書物について。現在残っているのは全55編。ただしすべてが韓非の書物とはいえず、弟子や後学の手が入った編も少なくないといわれる。
以下にその他の読書メモを。
論語と韓非子、水と油の組織観
1.人のありかた
論語 :人間、志が重要だ。
韓非子:しょせん人間は利益に目がくらむ。
2.政治において重視するもの
論語 :上下の信用。
韓非子:信用など当てにしていたら裏切られる。
3・上下関係
論語 :上司と部下は敬意を持った関係であるべき
韓非子:足を引っ張り合ってるのが常態だ。
4.法やルールに対する態度
論語 :法やルールに頼るのはマズイ。徳で感化し、礼によって規範をしめすべし
韓非子:法やルールこそ統治の基本
まとめると
(論語)
ひとまず人を信用してかからないと、よき組織など作れるはずがない。
(韓非子)
人は信用できないから、人を裏切らせない仕組みを作らないと、機能する組織など作れない。
性悪説というより性弱説
韓非は「人は信用できない」という前提をもとに組織を作ろうとした。ではなぜ「人は信用できない」のか。
韓非子には次の指摘がある。
・人が財物に執着しないのは財物が多いとき。財物が少ないとき人は争う。だから聖人は、常に財物が多いか少ないか考え、それに応じた政治を行う。
韓非の人間観を一言でいえば、「人は状況の申し子である」となる。孔子と対比すると次のようになる。
孔子:人は教育によって良くも悪くもなる。
韓非:人は置かれた状況によって良くも悪くもなる。
韓非について著者は、性悪説というより「性弱説」と考える。人の本性は弱さにある。地位も名誉も欲しいがメンドクサイことはしたくない。辛いこともしたくない。利益を見せればそちらになびく。状況がひどくなれば、あっさり悪の方へ落ちるし、良い状況がつづくと堕落する。
韓非子からその他の名言
「人がハカリやマスに文句をつけないのは清廉潔白だからではない。ハカリやマスは人のために量を増減できないからだ。いくらお願いしても無理なのだ。賢い君主の治める国では、官吏は法を曲げないし、利益を求めようともしない。賄賂も横行しないのは、国内の統治がハカリやマスのようだからだ」
「うなぎはヘビに似てるし、蚕はイモムシにそっくりだ。人はヘビを見れば驚き、イモムシをみればぞっとする。それなのに、漁師はうなぎを素手でつかみ、女性は蚕を平気でつまみあげる。利のあるところでは、みなとんでもない勇者となる」
「相手のためにやっているんだ、という気持ちがあると、人は相手を責めたり、うらんだりしたくなる。自分のためにやっているんだ、と思えばうまくいく」
「政治をきわめた者は、制度に頼って人には頼らない」
「君主と臣下は1日に百回も戦っている。臣下は下心を隠して君主の出方をうかがい、君主は法を盾に臣下の結びつきを断ち切ろうとする」
「君主は自分の好悪を表に出してはならない。好悪を表に出せば、臣下はみなそれにならおうとする。君主はうっかり自分の意思を見せてはならない。臣下はうわべだけそれに合わせてくる」
「君主が好悪を見せないようにすれば、家臣は素を見せるようになる。君主が賢さや知恵を見せなければ、家臣たちは自分らしさを出すようになる」
「トップと部下は利害を異にするから、部下の忠誠に期待をかけてはならない。部下の利益が増えれば、それだけトップの利益は減るのである。腹黒い部下は敵軍を呼び入れて国内のライバルを始末し、国外の問題に注意をひきつけてトップの判断をまどわそうとする。私利私欲を追及するだけで、国の街など念頭に置かない」
「人に意見を聞いてほしいとき、何が難しいのか。知識や説明方法ではない。相手の心の内を知って、自分の意見をうまくそこに当てはめていくことが難しい。意見を言われる側の心を読み切り、述べてはならないことをまず最初に知っておくべし。そして相手の誇りをくすぐり、恥を忘れさせてやることだ」
説難編の最後には有名な「逆鱗」の出典となった部分がある。「竜という生き物は、飼いならして乗ることができる。しかし、そのノドもとに直径一尺の「逆鱗(逆さに生えた鱗)」がある。もしこれにふれる人間がいると、竜は必ずその人をころす。君主にも同じように逆鱗がある。君主に意見を述べるものが逆鱗に触れないようにすれば、説得は成功したも同じだ」