「あんぽん孫正義伝」書評と要約

豚の糞尿と密造酒の臭いが充満した、佐賀県鳥栖駅前に生まれ、かつて石を投げられて差別された少年は、いまや日本の命運を握る存在にまでなりました。祖母が子守をし、祖母のリヤカーに乗って豚の飯、駅前の食堂の残飯を回収して育った幼年時代。リヤカーは臭くてぬるぬるしていたそうです。あんぽんとは孫一家の通名の安本からきています。

父の孫三憲は商才があり、サラ金、パチンコで大きな富を築き上げます。パチンコでは九州一のチェーン店になった。正義が小学校の時に北九州に引越しして豪邸に住んでいます。

カリスマ(中内功)の佐野眞一が描くこの本は、丹念な取材を重ねています。争点となってる物事を、両方の言い分、第三者の言い分と複数の取材をすると、なんとなく全体感が読めてきます。やっぱりいろんな人の意見をたくさん聞くべきだなあ。その人のフィルターによって物事の見え方は全然変わるものです。

以下に、この本から目についた部分を。



父親の教育

(数回豪快な父親にインタビューしてる。博多弁丸出しで話が面白い)
父親似で頭がよかった。小学校の同級生へのインタビューでは、とにかく金持ちの子というイメージで上品で、頭も学年1~2位レベルで良かったと。ちなみに正義の弟(四男)はホリエモンと同級生の東大卒。

この本に一貫してるのは、父と息子の物語ということ。孫正義をつくったのは父。在日二世として苦労してのし上がった父親が、孫正義に英才教育をした。幼稚園の時に孫正義の根性を見抜き、5桁の計算を暗算でさせると全部正解し(長男はできなかった)、それ以来おまえは天才だ天才だと、父親いわく一種のマインドコントロールをしながら育てたそうだ。

孫正義の回顧によると、父親は孫が小さい頃から何でも相談相手にしていた。実地教育を子供の頃から受けてきた正義からすると、ハーバードのビジネススクールも東大も幼稚で低脳だそうだ。

塾のスカウト

高校1年のときに、中学校の3年時の担任をファミレスに呼び出し、自分の考えた塾のカリキュラムがここにある、自分は高校生だから経営者ができない、先生にこの塾の責任者をやってほしいと頼み込んだそうだ。インタビューに答えた中学教師河東いわく、すごいしっかりしたカリキュラムだったそうです。父親の仕事はパチンコと金貸しで家には怖い人が出入りし、その仕事に親近感がわかない。自分は塾がやりたいと訴えたとの事。

アメリカ行き

高校1年の2学期に、担任の阿部にアメリカに行きたいと告げる。阿部はせめて高校を出てからにしろと勧めるが、それでは遅い、僕には時間がないと答える。そのとき孫は阿部に韓国籍であることを告白し、大学に進んでも韓国籍では教師になれない。成績のまま東大に進んでも官僚にもなれない。たとえ韓国籍であってもアメリカの大学を出ていれば日本人はぼくをもっと評価してくれる。阿部は必死になって高校までは日本にいることを説得したが、孫は折れない。阿部は校長先生に相談するから待ってというと「もう校長先生には話しておきました」と。阿部はもう本丸を落としていたのかと、驚愕したそうだ。



25歳からの3年半の入院で3000冊の本

日本ソフトバンクを立ち上げてからわずか2年ほどで、慢性肝炎で3年半入院(年表とは合わないが?)した。その間孫いわく3000冊の本を読んだそうだ。ざっと計算して1ヶ月70冊=1日2冊ですか。彼の老成した雰囲気は、この間に養われたのだと思う。ちなみに彼が大きく影響を受けた1冊は「竜馬が行く」

名前のこと

日本国籍取得には時間がかかった。まずは親戚が反対。これは説得した。つぎに法務省から、帰化申請を出すたびに孫という韓国名は使えないと言われた。孫は通名の安本は堂々としてないと感じ、使いたくなかった。

孫を認めさせるのにトリックを使った。日本人の奥さんの苗字をまず韓国名の孫に変える。裁判所でなぜ孫にしたいかを聞かれた妻は、それが夫の姓だからと答える。日本人で韓国姓に変更したいと言われたのは、あなたがはじめてだと裁判所で言われる。

孫は再度法務省へ行き、日本人に孫と言う名前の先例はほんとにないか調べてくれという。係官は調べ、一人いるあなたの奥さんだ。こうして通名安本正義は、韓国姓の孫のままで日本に帰化することができた。

ソフトバンクホークス

父親の三憲は、昔から西鉄ライオンズの大ファンで、自分のパチンコ屋にもライオンズとつけるほどだった。三憲は孫正義にダイエーホークスを買うことを何度か提案したが、その度に、ソフトバンクではまだ早いと言っていた。しかしダイエーが産業再生機構に入ったとたん孫正義は動いた。

とにかく面白い1冊でした。今回はフォレストガンプを併読してましたが、あの面白いフォレストよりもこちらのほうに手がのびる。ぐいぐい読ませます。中内のカリスマでは佐野氏は2億円の訴訟を起こされてます。最近のユニクロの柳井氏も、2億2千万の訴訟を文藝春秋(作者ではなく)を相手にやってます。カリスマ的な経営者はプライドが高い。

本書も御用ライターが食うためにやる伝記とは、一線を画しています。ここまで血と骨について書かれても、孫は佐野氏を訴えないと思います。なんとなく孫正義のファンになってしまいました。たぶんコンプレックスを推進力にがんばってきた、孫正義の人間味を感じることができたからかな。

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