背景には中国の対米戦略が「非対称性」を武器にしてることがあります。
米海軍は空母軍が中心。建造費は1隻5600億円。戦闘機は1機約90億円で70機搭載するので6300億円。これにヘリ、人員、整備費、搭載武器を合わせれば、空母は1兆円を超える浮かぶ金塊。
対して中国の軍事技術の中心は空母建造ではなく、より高性能の「対艦ミサイル」開発に向かっている。対艦ミサイルは1発1億円。「1兆円を超える浮かぶ金塊」が「1億円」で沈んだ時のコスパの悪さは計り知れない。まさに非対称。これはピーター・ナヴァロが「米中もし戦わば」で指摘したこと。ナヴァロは軍事に特化して「非対称戦略」を解説したが、経済でも「非対称戦略」が機能してる。
中国は人件費は安く環境問題はおかまいなし。技術はパクる。世界の生産工場になったので、開発ノウハウや設計図は手に入り放題。追いつかない技術は開発にコストをかけるより、盗めば非対称の勝負ができる。ファーウェイの猛晩舟副会長をはじめスパイ行為は後を絶たない。
8つのパスポートをいろんな名前で持ってたのが世界にバレた共産党の諜報員。ファーウェイの猛晩舟CFO(最高財務責任者)。
非対称の何が問題なのか? 相手がつぶれてくれない。
冷戦構造化でソ連はアメリカの軍事力と対称で張り合ったため、予算の多くを軍事費に費やした。とどめを刺したのはレーガン政権下で提案された「スターウォーズ計画」。
莫大な軍事費を投下する「宇宙戦」構想につられ、国内投資用の資金さえ軍事費に投下したソ連は崩壊した。現在のトランプ政権にはレーガン時代のスタッフが多くいる。
中国との対立を「冷戦と同じ対称の図式にしたい」と考えている。
「中国製造2025」は中国の国家プロジェクト。中国は「技術・生産」の分野では対称に戦略を切り替えた。対称性の優良企業こそがファーウェイ。たんなるスマホメーカー(世界2位シェア)ではなく、通信基地局のシェアは2017年で1位だ。2位のエリクソンに勝ってる。
ファーウェイは技術を盗むのでなく自社で開発する。研究開発費は1兆3千億円。国際特許出願率も17年までの3年間は1位⇒2位⇒1位。日本での初任給は40万円と国際標準で募集している。つまりファーウェイは開発を行える超優良な「対称」の企業。対称となればアメリカには攻撃のノウハウがある。
重要なのは次世代通信技術「5G」だ。これまで最高の通信速度だった「有線」をはるかに凌駕する。「通信速度」は国家にとって、石油や穀物と同じ戦略物資の1つ。通信速度は戦略物質です。
たとえば「フラッシュオーダー」。これは限られた人だけに「0.03秒」だけ早く情報を開示する仕組み。人間にとっては瞬時でも高性能コンピュータにとっては長い時間。限られた人たちが、機械が「0.004秒」でオーダーを繰り返し、易々と巨万の富を築いた。
「0.03秒」先の未来を入手することはこれほどの威力を持っている。アメリカの思惑通りイギリス、日本、豪など「新たな連合国」がアメリカに追従し早々にファーウェイ製品を市場から追い出すことを表明。今後は5Gへの切り替えとともに同盟国の基地局を設置すれば、アメリカは通信速度という戦略物資を手に入れることができる。
アメリカはファーウェイが安全保障のリスクになるかならないか、本質的な問題にしていないかもしれない。「通信速度」という戦略物資入手のために潰すか、懐柔させなければならない目標なのだ。
以下にその他の読書メモを。
ドイツやイタリアは核を持ってるのか?
NATOによってアメリカはEUの安全保障を維持している。旧ソ連に対抗するため、ドイツ、イタリア、ベルギー、オランダは米軍が所有している核を自国内に設置し、使用については各国政府が決定する仕組み。
問題は19年3月23日にイタリアが署名した中国の「一帯一路」。仮にイタリアが「一帯一路」を通じて、中国の経済力を背景にEU離脱を選択した場合、アメリカはイタリアから核兵器を引き上げる可能性がある。
イタリアがEU中核国であることを担保するのは、歴史や経済力よりアメリカのニュークリアシェアリングして、圧倒的な暴力である「核兵器」使用権を持っていることが大きい。
なぜ北朝鮮は核を手放さないのか?
日本や韓国を核で攻撃しても北朝鮮にメリットは多くない。核を放棄すればアメリカは経済援助を行うと約束している。考察していくと金正恩が核を手放さない理由は1つに絞られる。それは自らを囲む暴力、すなわち「北朝鮮人民軍」だ。
暴力団と同じで暴治社会で組織のトップになるには、配下の人間より強い暴力を持っていなければならない。引退の意思を表明した組長の多くが無一文にされて放り出されるのも、暴力を捨てることが原因だ。
2018年金正恩は新年の辞で「核のボタンが私の執務室の机の上に常に置いてある」と語った。今それを手放せば王の資格を失うからだ。金正恩のいう「信頼構築」とは、「北朝鮮人民軍」に対するものとしか思えない。
会談終了後の米国務長官ポンペオは「金正恩は準備できてなかった」と発言した。両者は決裂ではなく立ち去るしかなかったのでは。
なぜサウジとイランは対立しているのか?
中東の覇権をイランとサウジは争っている。サウジはスンニ派、イランはシーア派というイスラム教内の宗教対立。
イエメンで代理戦争があった。イエメンの反政府組織フーシをイランが支援。イエメンの現政権をサウジが支援。
2015年イエメン大統領辞任にともないフーシが全土を実効支配。直後に成立した暫定政権を支援する目的でサウジがフーシを空爆。16年からフーシはイエメン内からサウジへのミサイル攻撃をはじめる。19年3月にはサウジの首都リヤドにミサイルが着弾。死者も出た。
サウジのムハンマド皇子は「サウジは核爆弾を持つことは望んでないが、イランが核兵器を開発すれば、それに従うことになる」と表明した。
反米感情が強いアラブ社会では、イランの影響力がレバノンやイラクへとますます拡大。サウジはシリアにおいてもイランに対抗して反アサド派を支援していたが、撤退でまた影響力を失うことになった。
中東ではイランによるサウジ包囲網が出来上がりつつあるのが現状。追い詰められたサウジがイランに対して実行手段にでる下地は十分になった。
なぜ米軍はシリアから撤退したのか?
アメリカはクルド人を支援してきた。国家を持たない世界最大の少数民族。シリア、トルコ、イラクの山岳地帯に3000万人が住む。分離独立を求めては弾圧される悲劇の民族。
シリアでのクルド人は居住区を侵略するISもアサド政権も敵。アサド政権はロシアとイランが支援する。米軍のシリア駐留はこの2つの敵をシリアから排除すること。アサド政権を倒す目的でもあった。
しかしアメリカ製の武器を大量に買い付けてくれるわけでもない支援は、トランプにとって魅力的には映らない。米軍の撤退はシリアをロシアとイランに渡すだけでなく、米軍を信じたクルド人を見捨てることになる。
味方の見殺しが生粋の軍人であるマティス国防長官には許すことができなかった。日米合同演習で接点のある日本の幕僚の多くは、マティスを「ソルジャーオブモンク」と呼び「マッドドッグ」というあだ名とは逆の、理性的で知的な素顔に強い尊敬の念を抱いているという。
マティス国防長官はシリア撤退への抗議で辞任したが、辞表にある「同盟国への敬意」とは「見捨てられたクルド人への苦悩の表れ」と関係者はみる。
トランプという実利主義に生粋の軍人というイズムが離反した形だ。今回の撤退を一番苦々しく思うのはサウジアラビア。サウジ包囲網で追い詰められたムハンマド皇子。約12兆円もの武器を米国から購入する契約を結ぶ。サウジを中心とした「中東版NATO」構想もある。
日本は中東へのエネルギ依存度が高い。この地での戦争は好ましくない。一方で米軍のシリア撤退は、中東での混乱を増長し、サウジに大量の武器を購入させ、日本もアメリカのシェールガスに頼ることになる。
シリア撤退は軍事費削減が目的ではなく、サウジとイランの緊張を誘発する意味も含まれているという視点もある。
ガンズで、シヴィル・ウォー♪ アメリカの厭戦歌です。和訳付き。米軍撤退は新しい戦争を生み出すという側面もあります。なかなか難しいところです。
ほい。アンリミテッド。