レコードコレクタ―ズ執筆陣によって選ばれた、「70年代女性シンガーソングライター」のアルバム特集。ざっと130作近いアルバムが選ばれていますが、上位10作品を以下に。
AmazonMusicを貼っていきますので、個々のアルバム評などはAmazonのレビューを参照ください。
70年代女性シンガーソングライター・アルバム10選
ヴァシュティ・バニヤン|ジャスト・アナザー・ダイアモンド・デイ
一番最初に選ばれているこの作品。全く知りませんでした。聴いてみるとめっちゃエエ作品。
温故知新主義を旨とするポストロック系が台頭した90年代後半以降、60~70年代の忘れ去られた音楽家や名盤が次々と発掘され、新しいシーンを刺激していったが、ヴァシュティ・バニアンのこのデビュー・アルバムもそんな象徴的一枚である。
カルトな逸品として中古市場で高値をつけていた本作のブートレグらしきCDが1998年に出た後、30年近くも音楽シーンから姿を消していたヴァシュティはデヴエンドラ・パンハートやアニマル・コレクティヴなど若手音楽家たちの作品に乞われてゲスト参加し、2005年には35年ぶりとなるソロ・アルバム”Lookaftering” で完全復活した。
ヴァシュティが「フリーホイーリン・ボブ・ディラン」 に感銘を受けて自作自演にみだしたのは、オックスフォード大学でアートを学んでいた19歳(1964年)のとき、翌年には、ローリング・ストーンズのマネジャーを務めるアンドルー・ルーグ・オールダムに見いだされてレコード・デビ ューし、その後も数曲をリリースするが、不発だったり蔵入りになったりと鳴かず飛ばずに終わった。当時のスウィンギン・ロンドンの空気と彼女の蜃気楼のような歌声は水と油だったのだ。その心を抱えて恋人と馬車でスコットランドへと旅立った彼女が、 放浪の道すがら綴った歌を1枚のアルバムにまとめたのが本作である。
プロデューサーは、ニック・ドレイクやフェアポート・ コンヴェンションなどを手掛けていた名匠ジョー・ポイド。 バッキングのサイモン・ニコル(バンジョー)やデイヴ・ スウィーブリック(フィドル他)、ロビン・ウィリアムソン(ハープ他)、弦アレンジのロバート・カービーなど、 サポート陣もポイド周辺の敏腕ばかり。 結果、必然的にラッド・フォークや室内楽的ニュアンスの濃い作品に仕上がったわけだが、それはヴァシュティの望んでいたものではなかった。どの曲も、彼女のギター弾き語りを中心にし控えめな演奏ではあるが、本人が目指していたのは、より素朴で、伝統音楽色のない透明な世界だったという。おまけにメディアでは’’子供の童話のように軽く、取るに足らな’’などと酷評される始末。再び打ちのめされたヴァシュティは音楽シーンから忽然と姿を消した。 そして約30年後、温かい日差しや草原を渡る風土の匂いが詰まった、まさしく話のごときエーテル・フォークのフラジャイルな輝きに若いリスナーたちは感嘆したのである。 (松山)
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