インドの悲惨な状況を描いた、2012年アメリカのベストセラー本。

さらに弱いものをたたく・・・この本を読みながら、インドのカーストのことを考えると、ずっとこの歌詞が頭の中でまわります。インドは世界の貧困層の3分の1を抱え、とくにムンバイ(旧称ボンベイ)のような大都市は、人口の半数以上がスラム生活者です。ここまでひどいとは。

最近インドの悲惨なニュースをよく見かけます。日本ではありえないような集団レ○プなんかです。何度も何度もそういうニュースが続きます。

なぜか? インドでは日常の出来事だったけど、それを先進国メディアが報道しはじめた。ただそれだけのこと。彼らにとってはニュースでも何でもない。ありふれた日常。人権(特に女性)なんか元々ない。

2012年のアメリカのベストセラーです。「ピュリッツァー賞受賞ジャーナリストが描き出すムンバイのスラムに生きる人びとの素顔。全米図書賞に輝いた傑作ノンフィクション。インド人を夫にもつアメリカ人ジャーナリストが、3年余にわたる密着取材をもとに、21世紀の大都市における貧困と格差、そのただ中で懸命に生きる人びとの姿を描く。全米ベストセラーとなり、数多くの文学賞に輝いた真実の物語」

ノンフィクションとあるけど、まるで小説を読んでるような感じがします。著者の筆力か。

日本版表紙のかわいい少女と、当たり障りのない邦題タイトル「いつまでも美しく」を見ると、スルーしてしまいそうな本です。タイトルからは全く期待できない。だけど読み進めていくとタイトルの意味がわかりました。

「ムンバイの国際線ターミナルへ向かう車の多くが、スラムの脇を通っていく。ターミナルへやってくる車には、全面あざやかな黄色の広告になったコンクリート壁しか見えない。イタリア風の床タイルの広告で、コピーが壁の端から端まで繰り返し書かれている。いつまでも美しく。いつまでも美しく。いつまでも美しく」



「いつまでも美しく」と書かれた壁の裏側に広がるスラム街の苦しみ。調べてみると世銀の2013年の報告書では、1日1.25ドル以下で暮らす人(貧困層)は世界に12億人いて、その3分の1である4億人がインドにいます。インドの人口が12億人なので、インドの貧困率は33%です。ちなみに中国の貧困率は12%。

じつは3分の1ほど読んで、ここまで書いて、その後全部を読了しました。凄い。。さすがに英米の2012年ノンフィクションのベストブックと評されるだけある。これがキャサリン・ブーの初の著書だそうです。現在キャサリンはニューヨーカー誌の記者を務めていて、2000年にはワシントンポスト紙に連載した知的障害者施設における虐待を取り上げた企画で、ピュリッツア賞を受賞しています。

キャサリンは夫に出会いインドに行き疑問を持ちます。なぜインドの不平等は崩壊しないのか。疑問を解決するためにインドに関するいろんな本を読みますが、上の階級の書いたものか、美談しかない。本物のノンフィクションがない。よし自分で書こう。

そこからが凄い。3年半ほどスラムに密着取材します。小型ビデオ、写真、聞き取りノートに丹念に記録する。もちろん通訳をつけて。手に入れた公文書は(インドには情報公開法がある)3000以上。本書で書かれていることは、すべて著者が立ち会ってるそうです。スラムの焼身事件に関しては警察以上に捜査し、実際にスラムの人168人に聞き取りしてると。警察ともぶつかっている。このあたりの経緯は著者あとがきに詳しい。

しかしここまでやるかという。高く評価されたというのは、ものになるかどうかよくわからないものに、膨大な時間をかけて取材するという根気。いろんな意味で危険な地域に密着するという勇気。それからそれを一気に優れた読み物として読ます筆力という才気。世間の耳目をインドのスラムに向かわせ、世界の不平等を少しでも解消しようとする士気。こういうものを目の当たりにすると、人は敬意を払います(もちろんこの企画にはスポンサーはいたみたいです。なんせピュリッツア賞受賞記者ですから。どんな世界でも金は必要です)。

たぶんインドの悲惨な状況が世界中で報道されるようになったのは、この本の影響が強いんじゃないかな。本当のインドが知りたい方は、この本を読むことをおすすめします。

以下に心に残った部分を。



近頃、アンナワディ(スラム街)の人間は多くを望みすぎている。アブドゥル(登場人物)にはそう思えた。インドが豊かになるにつれ、生まれついたカーストや神の意志で決められた人生を受け入れるという伝統的な人生観に代わって、この世の人生は自分で変えていけるという考え方が広がっていた。アンナワディの住人も、もっといい生活をしたいと普通に口にした。

・自殺するよう人を煽るのはインドでは重罪になる。刑法を定めたのはイギリスだ。自殺の教唆や強要への厳罰は、夫を亡くした妻に、夫を火葬する火に身を投げて殉死させる歴史的な慣習を禁じるのがねらいだった。残された親戚が未亡人となった女性の面倒を見る負担を免れるために、伝統的に行われてきた慣習だ。

・拘留され、無実の罪をきせられたくないと追いつめられた人に、持っている金をすべて出させ、借りられるだけの金を借りさせて搾りとる。これが警察のやり方だった。人権規約上は違法でも、殴打などの暴行は効果があるため日常的に行われていた。暴行を受ければ、被疑者は釈放されたいがためにより多くの金を積むからだ。インドの刑事司法制度では、有罪か無罪かは売買できる。

・インドの詩
望まないものは 必ずやってくる
望むものは けっして手に入らない
気が進まないところへは 行かなくてはいけない
もう少し生きようか そう思うとき 人生は終わりを迎える

THE BLUE HEARTS 『TRAIN TRAIN』
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