【ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー】書評と要約まとめ

これ、今年一番の本ちゃうかな。

本屋では児童書かと思ってましたが(笑)。

2019年は「PIXAR」がこれまで一番面白かったけど、あれは「立身出世もの」(Rags to Riches)的な面白さ。

「ぼくはイエロー」は「冒険、探求」(The Quest)的な面白さです。

いいライターさんに良いネタがあったら、こんな素晴らしい作品ができてしまったという。ネタは誰かに与えられたものじゃなくて自分でつかみ取ったネタです。誰もが手に入れられるネタじゃない。

英国での自らの子育てを書いてるだけなんだけど、子どもや家族との会話が深いし、子どもは多感な中学生やし、著者のフィルターを通してみる今の英国が新鮮です。

「川口マーン恵美」のドイツ本とか、「塩野七生」のイタリア本みたいに、その国の地べたの文化が伝わってきます。読んでて「へ~」ってなる。あの2人みたいな優れた比較文化論者になるかも。




著者は1965年生まれのブレイディみかこ。もと音楽ライターでUK好きがこうじてイギリスに住み始めた。旦那さんは元シティの金融マン。リストラされて今は長距離トラックの運転手。「むかしからやってみたかったんだ」ていう思い切りのいい人。

子どもさんは40歳前後と遅くに生まれて今は中学生。現在進行形のUK子育て奮闘記。子どもさんのノートへの端書にハッとして、それを本書のタイトルにしたそう。

新潮社の雑誌に連載(連載中)してたものが本書になったようです。
著者のブログ⇒ http://blog.livedoor.jp/mikako0607jp/

以下は産経新聞の書評。

『反骨精神いっぱいの母ちゃんと、エスカレーターに乗って平穏なエリート中学に進むのを拒み、地元の混沌(こんとん)とした中学に入学したクールな息子の日々の闘いと成長を描いたイカしたノンフィクションだ。

高校卒業後、セックス・ピストルズに憧れ渡英した母ちゃんは、アイルランド人男性と出会い、結婚、英国南部のブライトンで保育士をしながら、英国社会を真っすぐなまなざしでみつめ、勢いのある文章でその状況をブログに書き続けてきた。

人種差別、アイデンティティー、ジェンダー、経済格差などの問題に毎日のようにぶつかる息子は、母とともに生きていくうえで何が大切なのかを模索してゆく』

以下に何点か読書メモを。

イギリスの中学には「ドラマ」という教科がある

英国の中学校教育には「ドラマ(演劇)」というれっきとした教科がある。演劇は中等学級教育の一環としてカリキュラムに組み込まれており、イングランドとウェールズ、北アイルランドで実施されている中等教育終了時の全国統一試験GCSEの受験科目の1つにも入っている(大学進学希望者は一般に8~10科目を受験する)。

日常的な生活の中で言葉を使った自己表現能力、創造性、コミュニケーション能力を高めるための教科。

著者はイギリスで保育士としても働いていたが、英国教育における演劇重視のスタンスは保育施設における幼児教育にも反映されていた。4歳の就学時までに到達すべき発育目標の1つに「言葉を使って役柄や経験を再現できるようになる」というゴールを掲げていた。

壁に様々な表情をしてる人のポスターを貼り、「これはどんな顔?」と繰り返し質問し、「みんなもこの顔できる?」と同じ表情をさせる。「みんなはどういうときにこんな顔をしたい気分になる?」と話しを展開して、「気持ち」と「それを表現すること」、「それを伝えること」はリンクしてると教え、自分の感情を正しく他者に伝えられるように訓練する。

著者が務めていた託児所は失業率と貧困率が非常に高い地域の慈善施設の中にあって、問題を抱えた家庭の子どもが多かった。彼らは表情に乏しく、うまく感情を伝えられないことが多かった。他人に自分の感情を伝えられない子どもは、他人の感情を読み取ることができない。他者がつらそうな顔をしていても、それが「ストップ」のサインなのだとわからない、

問題行動が見られる子供は、こうしたコミュニケーションの面で発育が不十分な場合が多い。だから「底辺託児所」では演劇的な要素を取り入れたゲームや遊びに力を入れていた。

イギリスの階級社会

子どもが市の中学対抗水泳大会の代表に出た時の話。運動は得意ではないが水泳だけは得意だった。8年間市の水泳教室に通った。

見に行くとプールのあちら側とこちら側の人数がちがう。こちらは「缶詰のイワシ」のように人がすずなり。向こう側はスぺースが有り余ってるので、優雅に準備体操してる。

向こう側はポッシュ校(私立校)で、こっちは公立校。プールサイドの生徒数の差が激しいからどうにかすればいいのに、といってるのは著者ぐらいなもの。

レーンは6つ。9校参加で公立校と私立校は一緒に泳がない。公立の6校が出て泳いで、次は私立の3校が出て泳いで。

公立校のレースは1位になる学校はほぼ同じ。地域の中学校ランキング1位を走ってる公立カトリック校。またはランキング2位の高級住宅地にある中学校。

6人の代表がスタート台に上がると、カトリック校と裕福地域にある公立校の選手は見ただけでわかった。競技用の水着を着てるからだ。底辺校の代表選手は夏休みにビーチに行くときに着るやつ。

私立校はほぼ全員がプロフェッショナル。一緒に泳ぐとまったくレベルが違って競争にならない。

英国はプールのない公立校がけっこうある。学校では水泳はさわりしか教えてない。どれくらい泳げるかは学校の外の訓練にかかっている。経済的余裕のある親の子どもが習い事で身につける。親の所得の格差が子どものスポーツ能力格差になってしまっている。

一緒に泳がないといっても、メダルだけはタイムで評価してもらうことになる。ほぼ私立校の選手がメダルを独占する。たまに公立校の1~2位の学校が入賞する。底辺校はかすらない。著者の息子さんは3位になって銅メダルをもらった。校長が喜んで校長室に飾ったそう。




イギリス10代の非行について

ロンドンでは10代のナイフ犯罪が急増して大きな社会問題になっている。それは首都限定ではなく地方の街にも拡大してる。

海岸沿いにヒップなクラブが立ち並び、週末になるとロンドンから多くの若者が遊びに来るブライトンは、ドラッグ需要の大きい街。ドラッグビジネス絡みのティーン・ギャングの抗争が日常的に起こるようになっている。

ギャングがドラッグ運び屋に使おうとするのが、公営住宅地の貧しいローティーンの子どもだたち。「これを持って行ってこの人に渡してくれたらブランドのスニーカー買ってあげる」とか「運んでくれるだけで50ポンドあげるから」とか言われてやってるうちに、子どもたちもいつしかギャングの一員になってドラッグ商売にはまりこむ。女の子たちはドラッグを運んでるうちに性的暴行を受けたり、売春組織に売られるケースもある。

「運び屋だけは絶対やるな、ナイキのエアマックスと自分の命とどっちが大事か考えろって兄ちゃんに言わられてる」と息子の友人のティムはうちにきたとき言っていた。

海岸通りの洒落たクラブでドラッグを消費してるミドルクラスの若者たちは、公営住宅地の子どもたちがどんな危険と背中合わせでそれを調達しているのか知らない。

デモ参加できるのは私立校だけ

地球温暖化の学生デモ。BBCによると英国60か所で1万5千人が参加。

息子の学校はデモに行くのを許さない。私立校はだいたい許してる。「デモに参加したかったら参加していいよ」といったが息子はデモに参加しなかった。「なんで?」

「だってカウンシルから父ちゃんと母ちゃんが罰金くらうでしょ」

英国では認められない理由で子どもが欠席すると親が地方自治体に罰金を払わないといけない。父母それぞれに60ポンドずつ請求される。21日以内にこれを支払わないと120ポンドに上がり支払いを放置すると、2500ポンドまで罰金が跳ね上がって、3か月の禁固刑になる。

これはピークシーズンに旅行料金が高額になるので、学期中に子どもを休ませることを親に思いとどまらせるために作られた罰則。

自治体の公式サイトには以下が明記されてる。以下の理由で子どもが学校を休むと罰金が科せられます。
・学期中に子どもを休暇旅行に連れていく。
・子どもの意思で学校に行かない。これは「ずる休み」と呼ばれます。
・6週間のうち6回以上出欠を取った後で子どもが学校にくる。
・あなたの子どもが1学期に3日以上欠席する。

この制度で苦しむのは貧乏な親だ。だから裕福でない家庭の子どもたちは、いつもそのことを心配してる。

「自分の意思でデモに行ったら「ずる休み」とみなされて、親が罰金を払わされるってみんな言ってた。だからデモに行くのを我慢した子がたくさんいる。僕だけじゃないよ」と息子はいた。

今日は学校で何習ったの?

「女性器を見たよ。大きな写真」「今日はFGM(女性器切除)について習った」

FGMはアフリカや中東、アジアの一部の国で行われている慣習で、女性器の一部を切除、または切開する行為で「女性割礼」とも呼ばれている。幼児期から15歳までの少女に施術されるケースが多く、出血や感染症のため死に至ることもある。

少女たちの将来にも悪影響を与える危険な施術なので、英国内では80年代から違法になっており、残酷な児童虐待として厳しく禁止されているが、FGMが慣習になっている一部の移民コミュニティでは密かに未だ行われている。

「人権の侵害だから、FGMを受けさせられた人や、受けさせられそうな人を知っていたら先生に報告しなきゃいけないって言われた」

「でもあんたの学校はほとんどみんな英国人だから、報告とかあまり関係なさそう」

「それが最近アフリカの移民の転入生がクラスに入ってきた。FGMのビデオはドキュメンタリーなんだけど、黒人の女の人たちが出てきて経験を語るんだ。その女性の一人が転入生のお母さんによく似てて」

「それから女子の何人かが、転入生の子が夏休みにFGMを受けさせられるんじゃないかと言い始めて」

心配と偏見は紙一重。授業でFGMを教えれば、全国の中学でこうした問題が起きることは十分に予想できる。それでも英国はそれを教える。この国の教育はあえて波風を立ててでも、少数の少女たちを保護することを選ぶ。




イギリスの公立底辺校の現状

著者は学校のリサイクル活動を手伝った。そのとき学校の古参教員から聞いた話です。

「30年以上中学の教師をやってるけど、サッチャーの時代でも、こんなにひどくなかった」

「制服を買えない子が大勢いる。5~6年前から、つんつるてんの制服を着てる子や、びしょびしょの制服を着てる子が目立つようになった」

2016~17年度で平均収入の60%以下の所得の家庭で暮らす子どもの数が410万人に増えた。これは英国の子ども総人口の3分の1になる。

「小さい子はお金がないっていえるけど、中学生になると一生懸命かくすようになる。だからファスナーが閉まらなくなったスカートを毎日はいて来る子にお金をあげたり、そういうことを教員が自分でやりはじめた。だけどこれじゃ自分たちが破産しそうだって、リサイクルを始めた」

「本当は制服だけじゃ足りないのよ。女性教員の中には生理用品を大量に買って配ってる人もいる。私服を持ってないから、私服参加の学校行事に参加できなくて休む子がいて。スーパーでシャツとジーンズを買ってあげたこともあった」

「うちのような学校は低所得層の子どもが多いから、政府から補助金が出る。今の校長は学校のレベルを上げることに熱心だから、それを教育にたくさん使っている。うちの学校が演劇や音楽やダンスに力を入れらるのも、その補助金があるおかげ。でもそれだけじゃ足りない。もう授業やクラブ活動のためだけに、学校予算を使える時代じゃない。貧困地区にある学校は、子どもたちの生活、基本的な衣食住から面倒をみないといけない」

「生徒が亡くなったとき、そこの家は葬儀代がなくて、親も近所に借りようとしたけど、みんな似たような境遇でお金がなかった。だから学校から葬儀費用を出したの」

「緊縮が始まってからずっとそう。教員をやってる友人はみんな似たようなことを言ってる。保守党の教育予算削減で私たちの賃金は凍結されてるのに、こっちが使うお金は増える一方だって」

「昨日の夕食は食パン一枚だったって話してる子の話を聞いたらどうする?朝からお腹がぐうぐう鳴ってたらどうする?昼食を買うお金がなくてランチタイムになったら校庭の隅に座ってる子の存在気づいたらどうする?公営住宅地の中学に勤める教員たちは、週に最低でも10ポンドはそういう子たちに何か食べさせるために使ってると思う」

「学校全体の学力を上げて公立校ランキングの順位を上げたりするのも大事なことだけど、勉強やクラブ活動どころじゃない子たちもいるの。まずはご飯を食べさせないと、それ以外のことなんてできるわけがない」

⇒学校の先生。まさに聖職者です。神戸のいじめ教師に読ませたい…

世界は貧困にどう立ち向かっていくのか?本書にも万引きが原因でいじめられてる友達の話が書かれてました。ランチ代が払えない。だから学食でサンドイッチを、どうしてもお腹がすいた時に万引きする。それをクラスメイトが悪だと言って罰する。貧困からくる食料の万引きは悪なのか?

「万国の万引きたちよ、団結せよ」♪ ザ・スミス

懐かしのスミス。84年ごろネオアコのプチブームがありました。といってもクラスの女子はアーハとかデュラン・デュラン、男子はハードロックばかり聞いてました。ネオアコなんて聞いてるのはクラスで1人ぐらいか。とはいえレコード屋にはちゃんとコーナーがあって、それなりに認知されたブームだったと思う。ザ・スミスはR.E.Mとかアズテックカメラの次に出てきたバンドという位置づけでした。ちょっと暗かったのであんまり聞かんかったけど。リマスターでスミスの音がめっちゃよくなってる。




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