ソニーミュージックエンタテイメントの元社長、丸山氏曰く。
「レコード会社なんていらないと思う」
音楽産業の歴史上、現在は大きな節目にある。かつてベートーベンのつくった曲はウィーンの人しか聞けなかった。それがレコード会社が間に立ち、記録メディアを世界中に流通させることで、みんなが楽しめるようになった。レコード会社は記録メディアを制作して配る仕組みを持つからこそ、力があった。
レコード会社はアーティストの発掘・育成、プロモーション、流通を担ってきた。曲の制作費を負担することで得られる原盤権で稼いでいた。
今の時代、高校生が個人で曲を制作して配信(流通)までやってしまう。たとえばラスバブ。北海道の女子高生2人組DIYアーティストだ。こうしたアーティストが次々と曲をヒットさせている。どうしてそうなったのか?
1つ目は大掛かりな機器や高い技術がなくても質の高い曲を生み出せるようになったこと。ラスバブのイワイリコはiPadにプリインストールされてるアプリ「ガレージバンド」でメロディラインをつくる。独学というか適当に触ってたら使えるようになったという。
このアプリはどんな楽器でどんな音を出したいか指定すれば、自動でメロディを奏でる。タカハシメイはこのメロディに沿って、自分のスマホで歌声を録音する。
制作はイワイリコの自宅が中心だ。タカハシメイはベースも担当するが「高校で軽音楽部に入って初めて触った程度」。スタジオを使わず高い技術を持ったギターやベースもいないが「バズる」楽曲を完成させた。
2つ目は曲の発表や拡散の場が広がったこと。ラスバブは「サウンドクラウド」に2020年12月に楽曲「Telefon」を投稿した。21年1月世界最大級の無料音楽共有サービスである「サウンドクラウド」の週間チャートで、ラスバブはいきなり首位に立った。
「サウンドクラウドでいいバンドを見つけたら女子高生だった。すごい」ツイッターでもバズって再生数は急増した。2人は北海道に住む普通の女子高生だが、レコード会社に所属せずテレビやラジオでのプロモーションもせずにブレイクした。
3つ目は収入源の多様化。ラスバブはTシャツなどオリジナルグッズを制作販売できるプラットホームを使い、ファングッズを販売してる。
CDは売上の3~10%がアーティストの取り分。メジャーで10万枚売れた時と、自分でやって1万枚売れた時の収入が同じだったりする。もちろんマネジメントしてくれたりプロモーションしてくれたりで大手レーベルなりのメリットはあるが。
チャンスザラッパーぐらいから時代は変わった。DIYのほうが今や優位性が高い。
東京ドームライブは50%収容定員で主催者は赤字になる
エイベックスは年間1000本のライブを行ってきたが、コロナで公演数が減り売上が9割落ち込んだ。大型のライブは収容定員を50%までにするといった制限が響いた。
例えば4~5万人収容できる東京ドームで2万人に抑えてコンサートをやっても、主催者はやればやるほど赤字になる。通常3万~3万5千人集めて初めて収益がトントンになる。
コロナ後にオンラインライブを80本開催した。しかしオンラインライブを定期的に開くと、そのたびに観客が減る。継続して収益を生む仕組みはつくれていない。
世界の音楽市場の推移
・CD売上は2001年の5分の1に減っている
・サブスク配信売上が大幅に伸びている
・2019年は2003年レベルまで戻してきた
(日経ビジネス21年4月5日号より)
これ日経のデータはIFPI(国際レコード産業連盟)から引っ張ってますが、ライブ興業はちょっと違うかな。パフォーマンスライツ(ラジオなどの著作権料)です。ライブチケットの売上は日本で40億ドル、アメリカで90億ドルです。23億ドルって明らかおかしい。これは世界の「音楽市場」じゃなくて「音源市場」でしょ。
英語でググるとライブ市場のデータが出てきました。
ライブ市場は2019年300億ドル=3兆円です。日本とアメリカで世界の音楽売上の半分弱なのでマクロ感はだいたい合います。
世界の音源市場とライブ市場合わせて、2019年は5兆円。2020年は3.2兆円。2019年比で2020年は世界の音楽市場は約35%ダウンです。
日本の音楽市場の推移。コロナでライブは大幅減
コロナでライブがほぼ消え、CDは不振。個人アーティストはDIYで突然世界でヒットを飛ばす。エイベックスは21年3月期連結営業損益は70億円の赤字に転落する見通し。
2020年、日本の音楽市場は19年比で半減した。約7200⇒3500億円。壊滅的だ。
(日経ビジネス21年4月5日号より)日経さん日本市場は「音源市場」と「ライブ市場」をきっちり分けてるのに、世界市場は「音源市場」だけだったのが謎です。
世界3大レーベルは、いま何をしてるのか
世界の大手レコード会社(レーベル)は何をしているのか?
DIYアーティストの争奪戦だ。
ユニバーサルは20年6月「スピンナップ」を始めた。レコード会社に所属してないアーティストに代わり、曲を様々なサブスクに登録するサービスだ。狙いは未来のスターの囲い込み。配信代行のプロセスで様々なアーティストに振れる機会が生まれる。欧米ではすでに80組以上のアーティストがスピンナップを通してメジャーデビューをしている。
ソニーは音楽配信支援サービスAWALを4.3億ドルで買収。ワーナーはSNSでメディア展開する会社を1億ドルで買収。
昔はデモテープやオーディションで金の卵を探したが、今はネットを探して「もしよかったら一緒にやりません?」というのが世界3大レーベルのスタイル。
ラスバブのTelefon♪ YMOのファンだそうで。そういやリフがコズミックサーフィンっぽい 笑
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