ノーム・チョムスキーご存知でしょうか?バラとワインを愛する86歳。2005年に「世界最高の論客」に選ばれ、「現代言語学の父」とも言われています。
ベトナム戦争を批判し、思想はリベラル。「存命中の学者ではもっとも引用される人」。中国を容認し、昭和天皇の戦争犯罪を指摘するのは個人的には受け入れがたいですが。
MITのチョムスキーの部屋には次のような言葉が掲げられてあるそうです。「単純だがきわめて強烈な3つの情熱が私の人生を支配してきた。愛への憧れ、知識の探求、人類の苦難に対する耐え難いまでの憐み」
戦後70年を迎え、なにか戦争に関する本を新刊で一冊、と思い読んでみました。チョムスキーが主張してきた、「アメリカこそがテロ国家」という考え方は、時代が移りかわり、一般常識として普及しました。ネットの力もあると思う。
チョムスキーは戦争のからくりについて、本書で何を語るのか。アンドレ・ヴルチェクとの対談本です。
目次
各章のかんたんな要約
1.植民地主義の暴力的遺産
第2次大戦後の世界では、5500万人の人々が西側諸国の植民地主義の結果亡くなっている。比較的短い期間(戦後70年)に、人類史上最大といえる虐殺が行われてきた。その多くは、自由や民主主義という崇高なスローガンを掲げて行われた。
2.西洋の犯罪を隠ぺいする
過去100年の間に、とても洗練されたプロパガンダの体制ができ上った。西側諸国の知識人階級は、総じて物事を見ることができなくなった。
3.プロパガンダとメディア
東側諸国のプロパガンダはプア。西側諸国のプロパガンダは完璧。CMの技術がベースとなっている。西側のプロパガンダは戦争やクーデター、残忍な暴力にさえも駆り立てることができる。平和的な国を最悪の暴力国と名付けることができるし、世界を恐怖に陥れた西側の国々を、「平和と民主主義の守護者」と呼び、それを誰もが信じてしまう。
4.ソヴィエト・ブロック
ソ連はけっこういい国だった。西側諸国の植民地政権のほうが、ソ連の衛星国よりずっと残忍だった。
5.インドと中国
西側の主要メディアは、反中国報道をして、インド民主主義賛美をする。本当にそうか。インドのほうがよっぽど残忍でひどい。カシミールしかり。インドは搾取できる。西側にとって都合がいいので賛美してる。
6.ラテンアメリカ
西側寄りのファシスト政権が次々に倒れた。先鞭はベネズエラ。エクアドルやボリビアなど、先住民が多い地域も同じことが起きてる。大陸全体が立ち上がりつつある。ラテンアメリカ諸国は、自分たちの社会を破壊しているアメリカの麻薬戦争から抜け出したい。麻薬需要も武器の供給もアメリカから。もう巻き込まれたくない。
7.中東とアラブの春
アラブの春はまだ初期の段階。ラテンアメリカと同じ方向に進めば、世界の秩序は劇的に変わる。西側諸国はなんとしても止めたがっている。いつまでも搾取したい。
8.地球上でもっとも破壊された場所における希望
アフリカの話。資源が豊富だから搾取される。西側の勧告者は「インドネシアモデル」を採用するよう勧めている。インドネシアモデルは賛美されてるが、その経済成長は、少数のエリート集団による、自然資源の強奪によって成し遂げられただけ。
9.米国権力の衰え
米国の権力の頂点は1940年代で、そこから衰え続けている。1945年に米国は世界の富の半分を所有した。
コロンブスの時代の虐殺
コロンブスが西半球に到着した当時、そこには1億人の進んだ文明をもった住民がいた。ほどなくこの人口の95%は消滅してしまう。
アメリカには1000万人の先住民が暮らしていたが、1900年の人口調査では20万人しかいなくなった。この事実は認知されてない。
エジプトやチュニジアの民主主義
米国と西側諸国にとっては、この地域で民主主義が機能してしまうことは許しがたい。エジプトでは80%以上の人々が米国とイスラエルを最大の脅威とみなしている。イランが脅威と答えたのは10%だけ。基本的にアラブ世界は似たような世論。
民主主義が機能すると、こうした一般大衆の意見が政策に影響を及ぼすようになる。アメリカ、イギリス、フランスはアラブの春の民主主義的な要素をなんとしても崩す。西側諸国が大事にするのは石油のある独裁政権。もたなくなるとその独裁者を見捨て、後釜をたてる。
アフリカはだれのものか
第二次大戦後、米国務省のジョージ・ケナンが世界システムを立案した。東南アジアは原料や資源を元の植民地勢力に供給することで、かつての宗主国の再建が目指された。アフリカについてケナンは、アメリカとしてはアフリカに関心がないので、ヨーロッパ人が自らの再建のために搾取するなら、手渡してやってもいいと書いている。アフリカは欧州再建のため搾取され、時代が下るとアメリカは考え直して、自らもアフリカを搾り取っている。
いまアフリカの搾取をあからさまに行っているのはフランス。ジブチからソマリア、西サハラからリビアまでその行状は凄まじい。ジブチにはフランスの外人部隊と傭兵部隊がいて、アフリカ大陸中に派遣されるための訓練を受けている。アフリカの人にとっては、破壊でしかない。
奴隷制度の真実
「南北戦争のあとはよくなった。奴隷が解放されて」と以前は思われていたが、現在は真実が明らかになっている。奴隷制度は表向き廃止されたが実際は再導入されていた。
南北戦争後10年たって憲法改正されて、南部がある種の奴隷制度を復活して、黒人の生き方すべてを犯罪とみなすようになった。だから黒人男性がすること全部、街角に立っているとか白人女性を見つめているとかが犯罪とされた。
すぐさま黒人男性で牢屋がいっぱいになって、彼らはきわめて優秀な労働力となる。このほうが奴隷をもつよりいい。奴隷は世話しなくてはならない。囚人はストライキもしない、賃上げも要求しない。アメリカの産業革命はこれによって成し遂げられたといっていい。これは第二次世界大戦まで続いた。
現在はきわめて不安定な時代
私たちはきわめて不安定な時代に生きている。コンゴやパプアでは大量殺人が行われ、ソマリア、スーダン、ウガンダ、リビア、アフガニスタンでは国全体が破壊された。シリアやイランは次の標的になる可能性もある。
西側諸国はしばしば紛争を作りだし対立に巻き込む。武器は人と人が戦うものから、ミサイルや空爆、最新のドローン兵器のように、自分たちの兵士を使うことなく侵攻できるものが主流になってきた。
戦争は一方的なものになった。一方はビデオゲーム、他方は村の破壊、殺人、身体の損傷。西側諸国は世界支配を強化しようとしているように見える。
ベトナム戦争から帰ってきた兵士が、自分の家のなんでもない庭や空を眺めて、幸せをかみしめる姿を描いた歌です。ルイアームストロングで、この素晴らしき世界♪