「この本は、私の将棋界への遺言書になるかもしれません。どうかこの本を、友人、知人、将棋を知らない人へ勧めていただければ幸いです」
2009年に前立腺癌をわずらった、68歳の将棋連盟会長の米長永世棋聖の1冊。名人を含むタイトル獲得通算19期は歴代5位。2003年に引退。
12年1月14日の日本中が注目した戦い。ニコニコ動画では100万人以上が視聴したコンピューター将棋との一戦です。負けて美しい、負けたからこそ読んでみたい本です。
米長棋聖は「もし許されるのであればもう一度・・」、次は対局料はゼロで、負ければ罰金百万円払うという条件を谷川将棋連盟専務に申し出ているようです。
ここまでのコンピューターvs人間の戦いは、2007年のボナンザvs渡辺竜王、これは渡辺竜王の辛勝です。つぎは2010年のあから2010vs清水女流王将。これはあから2010が勝ちます。
この時点でのコンピューターvs人間は、将棋人口5百万人のうち、最高レベルのコンピューターに勝てるのは、現役プロ棋士の160人程度とのことでしたが、米長棋聖によると、今はその半分程度ではないかと。
今回のコンピューターは、コンピューター将棋世界選手権で優勝したボンクラーズ。1秒間に1800万手を読むソフトだそうです。オープンにされたボナンザをベースに開発され、2007年のボナンザより角一枚は強くなっているとのこと。
開発者は富士通の関連会社に勤務する技術者の伊藤さん。今回のコンピューターvs米長永世棋聖との対戦を機に富士通本社の社員となり、富士通グループ全社でこの棋戦をバックアップする体制を取ったとのこと。富士通も本気になり、世界最速の称号を得たコンピューター「京」の投入も検討されたそうです。
まず敵を知れということで、米長氏は市販ソフトで一番強いと言われている激指を購入。早指しでは「え、こんなに強いの」というレベルだったと。
次に年に366日飲むという酒を断ち、ひたすら詰め将棋を解いた。さらに市販ではないボンクラーズの簡易版(1秒間に170万手読む)を、自宅のパソコンを高性能なものに新調し伊藤氏にセットしてもらい、ひたすら指した。
一手30秒の早指しなら全く勝てない、持ち時間3時間なら1勝2敗というレベル。現役のプロを呼んでも、早指しでやらすとほとんどが勝てなかったそうです。
ここに至り、自分よりコンピューターのほうが強いことを認め、弱点を探します。ボナンザの開発者、保木氏に会いアドバイスを求めます。
そこで生まれたのが、後手番初手6二玉です。王様を初手に飛車のほうへ寄せる一手です。人間相手だと悪手なのですが、コンピューターが持つすべての序盤データを無効化する一手だそうです。そんな定跡がないから。
優勢に進め大いに盛り上がった米長永世棋聖vsコンピューターですが、負けたからこそ、次は人間側が真剣に挑みます。来年またニコニコ動画で人間vsコンピューターの5対5の同時決戦を行うようです。まだ羽生や渡辺のようなタイトルホルダーは出ないようですが、新鋭のプロ棋士がどこまでコンピューターに挑めるか、楽しみができました。
その他に目に付いた部分は以下。
将棋の先手勝率は?
実力が互角なら先手の勝率は52~53%。米長氏は先手を祈ったが後手となった。
誰が前に座って指すか
思考プロセスの可視化の飯田教授によると、米長の要求した相手なら勝率が30%程度よくなるとのこと。米長の条件は以下。
①将棋が強いこと
②対局時に真剣になること
③目障りにならなくて、私の気を散らさないこと
④私を尊敬してくれてること
自分の運気をよくする人とは?
米長は現役時代から、自分の運気が良くなる人としかつきあわなかった。自分の運気を下げる人は、米長が負けたら喜ぶ人。自分の運気を上げる人は、米長が勝てば喜ぶ人。上記の④が一番大事で、それはイエスマンとは違い、自分を尊敬してくれてる人とつきあうことが、自分の運気をもっとも高めてくれる。
奥さんから言われた、あなたは勝てません
奥さんに勝てるかなと聞くと(将棋のことをほとんど知らない)、あなたは勝てませんという。理由を聞くと、全盛期のあなたとは決定的な違いがある。あなたにはいま若い愛人がいない。それでは勝負に勝てませんと。
The Beatles – I’m A Loser