(株)ディスコご存知でしょうか?
18年3月期の売上は1674億円。経常利益は527億円。すんごい利益率。総資産2566億円。自己資本2043億円。自己資本比率80%。高収益な優良企業。
半導体や電子部品メーカー向け精密加工装置を製造。スマホやLED関連の設備投資が活発化。半導体製造以外の切断装置の需要も堅調。消耗品の精密加工ツール等堅調。
今週号(18年6月11日号)の「日経ビジネス」で特集が組まれてました。ぼくは全く知らなかったのですが、こんな先鋭的な企業があったのかと。
ディスコ、むかしは小集団組織のアメーバ経営やってたのですが、合わなくなって超個人主義の会社を作り上げた。そのやり方がすごい。社内通貨を使った取り組みです。社員が個人事業主のように動くんです。
ディスコは「Will(ウィル)」という社内通貨を設け、社員のあらゆる仕事にウィルのやり取りを付随させる。
たとえば営業部員が外部に製品を販売すれば、売価に一定割合を上乗せしたウィルを受け取る。一方販売のため物流や社内システムを使うと、その担当部署や社員に経費としてウィルを払う。自分の人件費もウィルとして計上する。会議室を使えば使用料を払い、他の社員に応援を頼むときはその対価を払う。
営業だけでなく開発、工場、人事、総務まで、4500人の全社員が、部署や社員間の仕事の依頼、請負をすべて取引とみなして収支を明確にしている。ウィルの収支は賞与の一部にも反映する。
以下に要約読書メモを。
工場の現場でのウィルの使い方
ホワイトボードに示された業務の中から、翌週に自分がやりたい仕事を1人ひとり選んでいく。作業ごとに1週間分の報酬が決まっている。単位はウィルで1ウィルは1円の価値がある。翌週にたくさん稼ぎたい人は、単価の高い仕事を選び、あまり無理したくない人は単価が安くても負担の軽い仕事を選ぶ。
仕事を選ぶ順番は入札で決める。最も多いウィルを提示した人から好きな仕事を選んでいく。自分の仕事は自分で決める。これがディスコの超個人主義経営の神髄。社内通貨をやりとりすることで、頑張るほど報酬が増えるので、社員はモチベーションを高めていける。
社内で開発案件にエンジェル投資
「本日4月分として総額4000万ウィルを配当しました」
レーザー技術部の森山さんは社内の投資家82人にこんなメールを送った。社内から幅広く開発費用を集める仕組みがある。プロジェクトや活動などの案件にウイルによる出資を募る。必要額や配当方針などに賛同すれば、部署が違っても誰でも出資できる。技術者からすればカネさえ集まれば上司の承認がなくても好きな開発ができる仕組み。
「カネを集めるのは本当に大変」「集まったカネをいかに効率よく使って、開発期間内に成果を出すかを考えるようになった」「自分で投資家を説得すると、誰のせいにもできない背水の陣。技術だけでなく、売れるまで責任を持つようになる」
おのずと技術屋の独りよがりではなく、顧客が欲しがる売れる製品に仕上がっていく。
誰もが自由に提案できるが、縛りがある。ディスコの企業理念、「切る」「削る」「磨く」これ以外の事業領域に手を出さないこと。
公務員的な総務部でも稼げる
社内的な定型業務が多く、ウィルを稼ぐ機会が少なそうな総務部でも稼ぐ人はいる。「ありがたいことに、社内のある部署から事業継続活動のコンサルティングを受注しました」
この部署は、すでに取得している事業継続にかかわる国際規格を維持するために、総務の知見を頼った。事業継続マネジメント(BCM)とはリスクマネジメントの一種。地震発生時の社員の安否確認や初期消火訓練など災害対策。その専門知識は外部から講演に何度も招かれるほど。
業務は自由化されている
たとえばAP(アプリケーション)開発部。社内にはライバルがいる。レーザー技術部や営業部も技術者を抱え、独自にノウハウを開発している。ディスコは2002年から社内の業務をすべて自由化している。人事部が受け持つ勤怠管理のような業務でも、他の部署や社員が効率的な仕組みを開発すればとって変わることができる。
市場化の荒波をうけたAP開発部は、仕事減少の影響で人員が減った。ディスコの仕組みではさらに人員が減ると、チーム単位で外に出ることもできる。
ディスコ本社内では始業時にすべての仕事が公募される。ふつうなら部課長が指示して始まる業務を、部署ごとにウェブ上に掲示。手がけたいと思う社員がウィルで受注希望額を提示して応札する。それが複数いれば、当然もっとも低い額を提示した人が落札して仕事を請け負う。
移動の自由化
会社命令ではほとんど人を動かさないが、移動したい人は行きたい部署の部署長に願い出る。それが受け入れられれば自由に移動できる。定期異動は2004年に廃止。2008年から各部署は公募のみで部員を集めるようにした。そして2012年には実質的に移動を自由化した(制度としては2015年から)。
この仕組みは移動する社員も個人責任。部署側も魅力を出さないと人が来ない。管理職も覚悟を迫られる。
勤務地も自由化した。たとえば呉工場勤務者が、呉に所属したまま本社で勤務する。技術者で東京に勤務した方が新技術に触れやすいなどメリットがあれば承認を得やすい。
ディスコと一般企業の違いまとめ
各業務の値段
一般的企業:わからない。
ディスコ:業務の依頼や受注は社員同士、社員と部署の取引で実施。価格はそこで決まる。
社員個人の業務別損益
一般的企業:わからない。
ディスコ:間接部門をふくめて社内通貨ウィルで明確になる。
仕事の割り振り
一般的企業:上司が部下に命令して請け負わせる。
ディスコ:上司は命令しない。毎朝仕事をオークションにかけ、社員は落札して実行する。
社内の改善活動
一般的企業:品質改善活動などで実施するが、マンネリ化しがち。
ディスコ:各部署で社員が考え、部署間で競い合う。対戦で勝つとウィルを獲得。
新事業・業務創造の決定
一般的企業:取締役会などで決定。
ディスコ:アイデアを持つ社員が提案。賛同する社員はウィルを事業案に投資。それが多いと上司の承認がなくても実施できる。
社内移動
一般的企業:取締役会などで決定
ディスコ:社員個人が移動したい部署に申し込み、認められれば現部署の上司の承認がなくても移動できる。
業務の担当部署
一般的企業:人事は人事、営業は営業など担当部署が独占。
ディスコ:業務の独占は禁止。現部署以外でもより効率的な手法を創造できれば、他部署がその事業を実施できる。
勤務地
一般的企業:社員は所属する部署がある場所に勤務する。
ディスコ:勤務地は自由。所属する部署以外の場所でも働くことができる。
ポストアメーバーと言われるディスコのウィル。いかがでしたでしょうか。詳細は日経ビジネスでご確認ください。全20pほどにまとめられてます。
個々人のモチベーションがマックスになれば、生産性は上がりますよね。それがディスコの好業績につながってる。
資本主義が社会主義を上回ったのも同じ仕組み。ニンジンがなかったら人は働かない。
インターネットが充実したのも同じような仕組み。個人がサイトで情報発信してアクセスが増えれば広告収入が得られる。これがモチベーションになって、ネットの情報はすごくわかりやすくなった。たいていのことは検索すれば、丁寧に解説してあります。
ただこういうやり方が合わない人もいる。社長のインタビュでは以下。
「ふつうの会社の官僚的なやり方で力を出すタイプで、ポジションの高い人はほぼ辞めました。ほんの数人ではありますが」
「そういう人からは文句をいわれましたね。個人ウィルが始まって人を動かしにくくなったと。それまでは部下に命令し、他部署は恫喝して動かしていたような人たちにとってはやりにくいですから。ウィルのやりとりで大事なのは個人の信頼。命令や恫喝では人は動かせません」
Perfumeで、チョコレイト・ディスコ♪
社内通貨を使ったアメーバ経営ならぬ個人主義経営、これは凄いですね。
何か、中国の社会主義市場経済を思い出しました。