日本酒は兵庫と京都で、日本の半分をつくっています。兵庫が30%、京都が20%弱。六甲の硬水「宮水」、伏見の「伏水」と、播州の山田錦(山田錦は80%が兵庫県産)がマッチしました。水や米など重いものの物流コストを考えると優位性があるのだと思います。
よく日本酒は水が大事で、灘の酒蔵は水が良かったから発展したと言われていますが、イマイチ納得していませんでした。水ってそんなに大事か?
その疑問が以下のテキストを読んで腹落ちしたのでシェアしておきます。
日本酒に含まれるもっとも多い成分は「水」で、お酒の約80%を占めます。ちなみに2番目に多い成分はアルコールで、約5~15%含まれます。つまり成分のほとんとが水であり、原料である米や米麹と並んで重要な原料です。同じ醸造酒でも、ワインはお酒を仕込む段階で水を使わないので、その点が日本酒と大きく異なります。
お酒づくりの原料となる水を「仕込み水」と言いますが、この他にも米を洗う水、米を浸ける水、出来上がったお酒のアルコール度数を調整する水、顔を洗う水や掃除用の水を加えると、お酒づくりに使う白米の30~50倍もの重量の水を使っているのです。
「名水あるところに銘酒あり」と言われますが、このようにお酒を造る上で多くの水を使っていることからも水が大切だとわかります。
実際に酒蔵のホームページを見ると、創業理由の1つに「きれいな水が湧き出ていたから」というパターンは非常に多いです。そのため地震や土砂崩れなどにより良い水が出なくなってしまうと、蔵自体を引っ越したり、山奥まで仕込み用の水をトラックで汲みに行き、毎日ピストン輸送をしたりする蔵もあるほどです。しかし水を動かすとなると、もの凄いコストがかかるので、基本的にはこうした動きを行うケースはほとんどありません。
日本には仕込み水に恵まれた土地が多く、川沿いや水脈の上に酒蔵があることも珍しくありません。私たちにとって当たり前の風景かもしれませんが「水に恵まれた国」であるからこそ日本酒づくりができるのです。
では、具体的に水質がどのようにお酒に差をもたらすのでしょうか。
もっとも重要なパラメーターは「硬度」です。硬度は水に含まれているミネラル分のうち、カルシウムとマグネシウムの合計含有量を示します。
WHOの飲料水水質ガイドラインでは、硬度60mg/L未満を「軟水」、60から 120mg/L未満を「中程度の軟水」、120から180mg/L未満を「硬水」、180mg/L以上を「非常な硬水」と分類しています。
例えば、コンビニやスーパーで買えるサントリーの天然水の硬度は30mg/Lであり、舌触りもまろやかな軟水です。反対にフランスで採水されたevian (エビアン)は約300mg/Lであり、非常な硬水で舌に苦味を感じます。
ミネラルは発酵をする際の酵母の栄養源でもあるので、多ければ多いほど酵母が活発に発酵します。そのためミネラルを多く含む硬水で造ったお酒は、どんどん発酵が進み、 きりっと引き締まった味わいになります。一方で軟水で仕込んだお酒は、ゆっくり発酵 が進んでいくので、まろやかな味わいになります。
「灘の男酒、伏見の女酒」という言葉がありますが、白鶴や大関などがある灘の水(宮水) は100を超える硬水であり、力強い舌触りや荒々しい味わいが多いので、「男酒」と呼ばれるようになりました。一方で京都の伏見の水は、灘と比較するとミネラル分が少な いので、柔らかくなめらかな酒質をたとえて「女酒」と呼ばれています。
市販の水は30mg/Lが普通ですが、美味しいと評判のお酒には硬度1のような超軟水から、200を超える超硬水まで様々な種類が揃っています。これは造り手がそれぞれの硬度を活かしたお酒づくりに励んでいるためです。
そして近年の技術ではミネラル分を除去したり、食塩などのミネラル分の添加も行われたりしているので、男酒、女酒を作り分けることもできるようになっています。
本記事は以下の本より抜粋。